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チャップリン、カメラを通して

『モダン・タイムス』で、機械と格闘するチャップリン . NBC Photographie, Paris

ローザンヌのエリゼ美術館で「写真で見るチャップリン」展が開催されている。

250枚のスチール写真とスタジオ写真の展示。『街の灯』、『モダン・タイムス』など20本以上のダイジェスト版の上映。これらを通し、天才チャップリンの魅力がよみがえる。

250枚もの写真とダイジェストとして紹介される映画との「対話」を通して、天才チャップリンの創造の過程を見ることのできる珍しく、楽しい展覧会がローザンヌで開かれている。特に、「浮浪者」のイメージが初期からどのように展開していったかをテーマにしている。チャップリン愛好家には見逃せない展覧会。

「浮浪者」のイメージ

 「今回、俳優、監督、そして世界の市民としてのチャップリンを、写真を通して見てもらいたいと思います。特に、『浮浪者』の神話を創り上げ、次いでそれを展開させるのにチャップリンがいかに写真を使ったか、それを見るのは楽しいことです」と学芸課長のダニエル・ジラルディン氏。 チャップリンの「浮浪者」のイメージは、初めて映画に登場した1914年頃の「日和見主義の泥棒」から『キッド』や『街の灯』でみられる「社会の弱者」のイメージへと展開していったが、この「浮浪者」のイメージの変遷が今回の中心テーマである。

 トレードマークの「ステッキを手に山高帽、だぶだぶの背広にちょび髭」のチャップリンが12枚の写真になって壁一面に並んでいる。ポケットに両手を突っ込み、落胆した様子でカメラを振り向くチャップリン。無関心な表情でステッキによりかかるチャップリン。 驚くほど色々な表情、ポーズが取れる天才である。1925年、チャップリンの弁護士はこのトレードマークをコピーされないようにと、カリフォルニアの最高裁判所に訴えた。その時の判事に提示されたチャップリンの典型的なポーズの写真3枚も展示されている。

写真と映像

スチール写真と映像の「対話」も今回のテーマの1つになっている。『担え銃』、『街の灯』、『モダン・タイムス』などのダイジェスト版がスクリーンに映され、そばには映画の撮影時の写真が展示されている。例えば、『モダン・タイムス』では、工場で流れ作業を行っているチャップリンが登場。両手にスパナを握り、次々にねじを締め上げる作業を続けた結果、「ねじを締め上げる動作」に取り付かれてしまい、仕事を離れても同じ動作を続け、ついには太った女性のスカートの胸の部分に付いている2個のボタンをスパナで締め上げてしまう。

 この映画のスクリーンのそばには、この太った女性の役の応募者として、4人の大柄な女性が並んでいる写真が展示されている。 チャップリンの息子エウジンヌ・チャップリン氏にとって、この展覧会は「父親の人生と作品の回顧展」以上の意味を持つ。「人生の色々な段階を通して、チャップリンがいかに変わっていくかを見ることができます。しかしまた、こんなにも多くの写真が一堂に集まったことで、一般の『映画の歴史』をたどることもできるのです」

他のみどころ

 エウジンヌ・チャップリン氏にとって、この回顧展がハンブルク、ロッテルダム、パリを経て最後にスイスにきたことは特別な意味があるようだ。マッカーシー旋風が吹き荒れる時代、「非アメリカ人的活動」をしたとして非難され、1952年スイスに亡命したチャップリンは、ヴォー州のコルジェ・シュル・ヴヴェイで25年後に亡くなったからである。

 ところで、チャップリンが20世紀初期の前衛芸術に与えた影響はあまり知られていない。キュビストのフランス人画家、フェルナン・レジェはチャップリンに魅了され、オブジェを「役者」にした最初の「抽象映画」である『バレー・メカニック』を作ったといわれる。同展ではこの点にも一つのセクションを割いている。

 他の興味を引く展示品は、チャップリン自身による新聞の切り抜きであろう。自分の創り出すイメージに非常に敏感であったチャップリンは世界中の新聞から「チャップリン批評」を切り抜いてコレクションした。これはまた彼の作風を展開させるのに大いに役立ったといわれる。

swissinfo、アダム・ボーモント 里信邦子(さとのぶ くにこ)意訳

- 「写真で見るチャップリン」展は9月24日までエリゼ美術館で開催。
- 1889年4月16日、チャップリン、ロンドンで生まれる。
- 1903年、劇団に俳優として入団。
- 1910年、劇団とともに渡米。
- 1914年、初めて映画に登場。
- 1952年、「共産主義共鳴者」のレッテルを貼られ、アメリカを去り、スイスに落ち着いた。
- 1977年12月25日、ヴォー州のコルジェ・シュル・ヴヴェイで死去。

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