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チューリヒ空港の商業センター化計画

カジノ、ショッピングセンター Unique

チューリヒ国際空港はこのほど、非空港関連事業を展開するビル「ザ・サークル」計画を公開した。カジノ、ホテル、事務所などが入るビルのデザインには、山本理顕氏のプロジェクトが選ばれた。

20万平方メートルの敷地に総工費10億フラン ( 約840億円 ) をかけたビルは、旅客と一般客にとって新しいアトラクションとなると建築主の空港運営会社「ユニーク ( Unique ) 」は期待している。

商店街の魅力

 「空港は伝統的な役割だけを満たせばよいというわけにはいかなくなっている。最近は、商業センターとして特化されたサービスを提供する役割を担うようになってきた。チューリヒ国際空港の許容量は無限大ではない。また、その成長にも限りがある」
 とユニークのヤスミン・ボドマー広報担当は語る。5年前に連邦政府から出された調査結果によると、年間離着陸数の限界はおよそ35万回で、2017年には限界を超えるとみられる。現在は不景気により離着陸数が減少しているものの、環境が整えば再び増加する見込みだ。

 世界各国の空港は、空港使用料や旅客使用料の収入の限界に直面し、小売やサービス業からの収益の重要性を認識し始めた。2009年上半期のチューリヒ国際空港の収益のうち、従来の空港としての収益は2億3860万フラン ( 約200億円 ) 、小売及び免税店からの収益は1億5700万フラン ( 約130億円 ) まで達した。
 
 スイス大手銀行、クレディ・スイス ( Credit Suisse ) のエコノミスト、ダミアン・キュンツィ氏は、空港の商店街は最近ブームだと指摘する。空港の店の営業時間が長く、ショッピングとレストラン、そのほかのサービス業が隣接していることが魅力だという。

キュンツィ氏によると、チューリヒ国際空港の商店街の売上はスイス全国第2位だ。しかも、店舗の賃貸料が高いことから空港運営会社にとっては効率が高い収入源となっているという。
「こうした理由から、空港が商店街を充実させることで、将来の高収益につなげようとしている」

ギャンブルにマッサージ

 このほど公開されたチューリヒ国際空港の新ビル「ザ・サークル」は、商店街の充実より、サービスと娯楽に重点を置いている。それでも、市内から空港を訪れた客に、もっとお金を使おうという気にさせる意図がいっぱいだ。例えば、連邦政府の認可が下りることを前提としたカジノもある。連邦議会ではその認可について、近日中に審議される予定だ。

 こうした娯楽施設はチューリヒ市内から新しい客を吸引する力があるとスイス全土に店舗を持つ「スイス・カジノ ( Swiss Casino ) 」も見込んでおり
「観光客をターゲットとしたビジネスが有望。スイス・カジノの95%が、隣国からの客」
と広報担当のマルティン・フォーゲル氏も語る。

多角化の傾向

 「ザ・サークル ( The Circle ) 」は従来とはまったく異なった隙間市場を念頭に入れている。日本人建築家、山本理顕 ( りけん ) 氏のデザインのビルには、ホテル、オフィス、サービスといった空港には新しいエリアが広がるように設計される予定だ。最終的なデザインはまだ完成していないが、テナントがビジネスを展開し、訪問客がレストランで食事をし、エステサロンなどのヘルスケアサービスを受ける空間が想定されている。ザ・サークルの建築は2年後から始まり、2016年に完成の予定だ。

 ザンクトガレン大学の「航空学センター ( Center for Aviation Competence/CFAC )」 のアンドレアス・ヴィトマー氏も、非空港関連事業が世界の空港の将来の姿であると言う。
「不景気になると、空輸業界は直接影響を受ける。一方、小売などはその影響はさほど大きくない。よって、空港が多角化することは良いことだ。チューリヒ空港は、2001年のスイス航空の倒産から学んだ。その当時は、1夜にして飛行機の離着陸数が激減し減収となり、大きな痛手を被った」

マシュー・アレン、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、佐藤夕美 )

2009年の利用旅客数は2190万人で前年より0.8%減少した。離着陸回数は26万2121回で、前年より4.7%減。2010年1月は、利用旅客数160万人と前年同期比で6.5%増、離着陸回数2万736回で前年同期比で7%増加した。一方、取扱い貨物は34万4000トンと11%減少した。
2009年の業績はまだ発表されていないが、上半期の利益は4720万フラン ( 約40億円 /前年同期比41%減 ) を計上。旅客数が減少した一方、騒音、汚染防止設備の設備投入によるコスト高が要因として挙げられている。
売上は空港関連業務は2億3860万フラン ( 約200億円 ) で8.3%減、非空港関連業務は1億5710万フラン ( 約130億円 )で 4.4%減と、ともに減少した。
旅客1人あたりの消費額は43.20フラン ( 約3621円 )、前年同期は44.07フラン ( 約3694円 ) だった。
エアバスA380が、1月に試験着陸を行い、3月28日から定期的にチューリヒ空港に離着陸する予定となっている。
現在の正式名称「ユニーク( Unique )」は、4月中旬から「チューリヒ空港 ( Zurich Airport )」に変更される。
ロンドンに本社のある世界旅行賞決定機関は、2009年の使いやすく質の良い空港に与える賞を、チューリヒ空港に授与した。

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