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ポケットデルタでテーブルを工場に 

セバスティアン・ペロー氏が開発したロボットを数体つなげることで生産ラインがテーブル上でできてしまう swissinfo.ch

中央スイス、ピラトゥス山のふもとの村アルプナッハ ( Alpnach ) の民間研究会社CSEMから世界最小の部品組み立てロボット「ポケットデルタ」が誕生した。

高技術と商品化の有望性が評価され、今年のスイステクノロジー賞最優秀賞を受賞した。スイスを代表する時計産業や医療機器の組み立てに活用できると有望視されている。

 西スイス技術専門高等学校の卒業論文を、就職したCSEMで実用化に漕ぎ着けようとしているのは27歳のセバスティアン・ペロー氏。彼の開発したポケットデルタは「いまはまだないが、将来絶対に来るであろう市場を想定した機械」という。

「机上」の工場

 ポケットデルタは極小の物を持ち上げ、指定された場所に置く作業を1秒間に3回繰り返すことができる。人間が拾い上げるには、たとえルーペを使っても目の大きな負担を伴う極小の部品を扱うことを得意とする上、動きが誤差2マイクロメートル ( 0.002ミリメートル ) と精密で速いことが売り物だ。実際に持ち上げ、指定の場所に置いた最小物体の大きさは、たとえば、直径が0.1ミリメートルからおよそ1センチメートルまでの球体。小さい物体が集合すると静電気などが起きてお互いくっついてしまうので、機械のアームに工夫が必要だ。

 現在、工場で使われている精密部品組み立て機械は大型しかない。CSEMは3次元的に物体を把握できるよう3本のアームがあるが、それぞれにモーターを付けることでより精密度を上げたほか、機械そのもののサイズをぐっと小さくすることに成功した。アームの作業スペースは1デシ立方メートル ( およそ1リットル ) 。これに制御部分が加わる。消費エネルギーは1時間100ワット。ポータブルコンピューター並みで十分という。

将来の市場を見極める

 これまで興味を示した企業は、今すぐポケットデルタの技術が必要であるというわけではない。使える可能性を見ているという。「作業員が安心して操作できて安全。インタラクティブに仕事をすることも可能なはず」と新しい形の工場を想定しているペロー氏は、従来のものより極端に小さい機械を置くマイクロ工場の時代が来ることを信じているという。

 CSEMは、実用化可能な技術を研究する民間企業である。連邦政府とスイス中央部の複数の州から資金援助を受けながら、民間企業のテストプロジェクトや試験を請け負う。ポケットデルタの開発はCSEMが行うが、ライセンスを他社に譲渡し製造は任せることになる。

 スイス政府はCSEMのような実際に商品化を念頭に置いた技術研究所に対して手厚い支援をしている。さらに、税優遇措置などで産業誘致に熱心なオプヴァルデン 州などが、こうした機関に資金援助をするケースも多い。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 、アルプナッハ ( 中央スイス ) にて

CSEM
1984年創立
2004年の売上高5000万フラン ( 約48億円 ) 。この内50%が連邦と州の補助金
ヌーシャテル、チューリヒ、アルプナッハに研究所を持ち、およそ300人の従業員を抱える。
マイクロシステム、マイクロエレクトロニック、写真技術、マイクロ・ロボット、ナノテクノロジーが専門。
ここから数々のスピンオフ企業が誕生した。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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