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モリエール作「スカパンの悪だくみ」日本へ

役者が「ここで、親父から逃げてどこかに隠れたい」と言うと穴が作られるという風に、舞台装置は稽古をしながらその場その場で出来上がっていく Photo: Marc Vanappelghem

老練な手管で人々を操りながらも、最後はハッピーエンドへと導く下男スカパン。フランスの劇作家モリエールの喜劇「スカパンの悪だくみ」がジュネーブで公演中だ。7月には日本でも上演される。

 演出家のオマール・ポラス氏は、17世紀フランス語の難解さを軽快なタッチとこっけいな動きで補う。「また新型インフルエンザの記事か」と新聞を広げた父親がつぶやくなど、工夫がいっぱいだ。「道化芝居の名手」といわれヨーロッパで高い評価を得るポラス氏は、静岡市で同作品上演後、日本の役者と「ドン・ファン」を制作する。

即興的なギャグ

 幕が降り、スカパン役が仮面を取ったとき意外にも幼ない24歳の青年の顔が現れた。
 「彼は稽古中、ずっと老人役をやっていた。その間に随分と成長した。次いで女役をやらせたら、ピタッと決めた。こうして多くの役を正確にこなせる彼こそがスカパンだと思った」
 とポラス氏は言う。今回の上演では、物語の展開を支配する主役スカパンには、すべての役を深く理解しこなせる役者が必要だったからだ。

 スカパン役だけではなくポラス氏の劇団では、全員がすべての役を一度はこなす。色々な役を演じるとそれが彼らのレパートリーにもなり、さらに演じさせながら適役を見つけることもできる。
「この役にはこの人と決めると、その人の良い特徴を強調し際立たせる手法を使う」
 とポラス氏は明かす。

 話は、オルガンテ家の息子とジェロンテ家の息子がそれぞれ、父親や母親の留守中、親たちが反対するような身分の低い娘と結婚。親たちが帰ってきた際それを納得させ、かつ娘を奴隷身分から解放させるために必要なお金を親からだまし取るのがスカパンの仕事だ。最後は、2人の娘が実は消息が分からず探し続けていた両家の娘たちだったというオチがつき、めでたく収まる。

 「スカパンの悪だくみ」を選んだ理由は、モリエールの作品の中で、イタリア即興劇のギャグ的要素「ラッチ ( Lazzi ) 」が一番導入しやすいからだという。オルガンテ家の息子の恋人ヤサントゥは、いつも大げさに節をつけて泣き、最後は濡れたハンカチをジュッと絞る。こうした役者が自分で見つけ出す、即興的な動作がラッチで、それが至る所に散りばめられ、おかしさを盛り上げる。しかも舞台は西部劇の居酒屋といった風で、ジュークボックスから流れる曲はテクノ。そのミスマッチがまたラッチ的だ。

ユーモアと正確さの日本文化

 「日本では、わたしのやり方でのモリエールは受けるのではないかと思う。日本人の観客は美的で、視覚的な面にとても敏感。わたしの演出も非常に視覚的なので受けるのではないだろうか」
 とポラス氏は自負する。

 1980年代後半に歌舞伎をパリで観た。特に女形の玉三郎には、その動きの統制力と正確さに圧倒された。その後女性を自分で演じるとき、いつも玉三郎を思ったほどだ。この動きの正確さを自分の演劇も取り入れており、
 「厳格で統制された動きは、うまく標的をあわせればユーモアのあるこっけいなものにも使え、高い成功度を示す」
 とポラス氏は考えている。

 日本での公演は今回で6回目になるが、
 「日本文化は、たとえ駅の方向を示す標識にしても、どこかユーモアがあり楽しくそれでいて非常に正確。わたしの演劇もユーモアがありしかも動きに厳格さ、正確さを求めるものを提示したいと思っている」
 こうした意味で、彼が求めるものと日本文化には多くの共通点があるとも感じている。

 静岡の「Shizuoka春の芸術祭2009」で2回モリエールを上演した後、静岡に2カ月半滞在し、「静岡県舞台芸術センター ( SPAC ) 」の役者たちを指導し、「ドン・ファン」を制作していく。
「素晴らしい役者たちなので、今から楽しみだ」
 と心躍らせる。「言葉の壁」には通訳が付くし、そんなことはまったく問題にならないそうだ。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch

テアートル・ド・カーリュージュ ( Theatre de Carouge / ジュネーブ ) 、5月10日まで

テアートル ・ド・フォーラム・メイラン ( Theatre Forum Meyrin / ジュネーブ ) 、5月14日から20日まで

リヨン ( Lyon /フランス ) 、6月3日から10日まで

静岡の「Shizuoka春の芸術祭2009」、7月4日、5日

コロンビアのボゴタで1964年に生まれる。南米とヨーロッパでダンスや演劇を学ぶ。

1990年にスイスのジュネーブで、劇団「ル・テアトロ・マランドロ ( le Teatro Malandro ) 」を立ち上げる。これは、劇団であると同時に演劇研究や役者の養成を行う場所。

ポラス氏の演出方法はバロック風でありながら、正確な統制力があるとの評判が高い。ヨーロッパと東洋の伝統を組み合わせ、またダンス、マリオネット、音楽などの要素も絡ませる。

キャリアの初めから、古典のシェークスピアやエウリピデスなどを「ポラス風」に演出してきた。現代の劇作家のものは少ないがブレヒトなども演出。

彼の作品は、ヨーロッパの格式ある劇場やフェスティバルで何度も上演されている。また南米でも高い評価を得ている。

多くの劇で、自ら役を演じるとともに、オペラも演出。

今回のモリエール作「スカパンの悪だくみ」は、ジュネーブの後、フランスのリヨンなどで上演され、静岡の「Shizuoka春の芸術祭2009」で7月4日、5日上演される。

その後、ポラス氏は2カ月半日本に滞在し、日本の役者だけを指導して「ドン・ファン」を演出する。「ドン・ファン」の上演は9月中旬の予定。

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