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世界経済フォーラム終る

ウォルドルフ・アストリアホテルのフォーラム・メイン会場. swiss-image.ch/Remy Steinegger

ニューヨークで開かれていた第32回世界経済フォーラム(WEF)年次総会が、5日終った。政界、財界、宗教、学界、市民社会からの代表2000人以上が出席した5日間の会議だったが、グローバリゼーション(財界)と反グローバリゼーション(市民社会代表)は接点を見つけられずに終った。

WEF創設者のクラウス・シュワブ博士は閉会の演説で、今年の年次総会は昨年9月11日のテロ後の世界の青写真を吟味し、精密な計画を立てる手助けをしたと述べた。シュワブ氏は、フォーラムの特質そのものが、フォーラムの成功度をはかり難くしたと次のように語った。「これは意思決定の会議ではない。これは人の責任と責任ある態度を導く洞察のための会議だ。」。

世界の大企業1000社の寄付でジュネーブに設立されたWEFを、非政府機関(NGO)らは世界の金持ち国だけが利益を受ける経済システムの永続に手を貸していると批判する。今では財界人の多くはWEFが悪いイメージを持っているという問題に気付いてはいるものの、ニューヨークでの総会も両者歩み寄りの場とはならずに終った。「これだけ大勢の財界人が集まっていては、他の人にとっては居心地が悪いに違い無い。が、NGOからの参加者もあり公開討論会があった。我々はもっと対話を持たなければならない。対話が増えれば、デモは減るはずだ。」とアルミン・メイヤー・チバ・スペシャリティーケミカルスCEOは述べた。

近年WEFは一部NGOを招待するなど包括的になっており、NGO代表者らも日頃の批判の標的と進んで同席する姿勢を見せている。スイスの子供の権利保護NGO、Terre des Hommesのペーター・ブレイ氏は、「皮肉なことに、彼等(WEF)はとても感受性が強い。フォーラム開催時に外で行われる反グローバリゼーション勢力のデモと、ブラジルの世界社会フォーラム(反世界経済フォーラム)で問題を認識した。彼等は批判の声に耳を傾けるが、本当に聞いたかどうかは別の話で、また問題は行動であって言葉ではない。」と語る。WEFに集まる政財界人は、自由市場グローバリゼーションの信望者で、過去20年間突き進んで来たこの道こそが正しい道で、より良い市場取引が必要だと信じているようだ。エルネスト・ゼディッロ前メキシコ大統領は、「もっとグローバル化を進める必要がある。が、説得力が足りない。」という。が、ブレイ氏は、無制限の資本主義モデルは途上国の失うものが多く、Terre des Hommesが直面している子供の人身売買、子供の強制労働や性的搾取などの増加の直接的な原因だと批判する。あるNGO代表らは、企業の中には過去20年間の失敗を認め始めたものもあるが、大半は全面否定しているという。「40年前、人類には不正があったが希望もあった。が、今、事態は改善されないだけでなく希望すら奪われてしまった。子供達から希望を奪ったら、事態は悪くなるばかりだ。」。

グローバリゼーションと反グローバリゼーションの衝突の他に今年の総会で主要アジェンダとなったのは、テロとの戦いと経済回復だった。フォーラム出席者らは、パウエル米国務長官がテロとの戦いはテロリストを保護する国へと拡大すると公言するのを聞いた。専門家の中からも、将来世界貿易センターを倒壊させた以上の攻撃に対して備えておくべきだとの警告があった。経済回復については、コンセンサスは見られなかった。財界人の多くの今後1年間の見通しは否定的だったが、オニール米財務長官は、今年の米経済の成長率は3.0%から3.5%になるだろうとした。

WEF年次総会は、来年はスイスのダボスに還る予定だ。が、長期的にダボスで開催されるかどうかは疑問が残る。今年の出席者は、ニューヨークの運営に感銘を受けたようだ。ヴァセッラ・ノバルティスCEOは、「米同時多発テロ後のこの象徴的な会議をニューヨークで開催したことは、正しい選択だった。」と認めた。シュワブ理事長自身も、将来またニューヨークで開催する可能性を否定していない。が、それでは「ダボスの精神」が消えてしまうのではないかとの懸念を示す声もある。「ニューヨークで開催されても、ダボスのオープンディスカッションの精神はある。が、ここではフォーラムは、大都市での小さな会議だ。が、スイスでは、小さな村での大きな会議だ。」とメイヤー・チバCEOはいう。それでも、ニューヨークでは、近年ダボスで荒れ狂ったような反グローバリゼーション・デモ隊と警官隊の衝突が起きなかったことは事実だ。何千人もの警官が会場となったウォルドルフ・アウトリアホテル周辺に配備され、デモは静かなものに終った。

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