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仏大統領選・極右ルペン氏2位 

ルペン国民戦線党首 Keystone

21日に行われた仏大統領選挙第1回投票の結果、極右政党「国民戦線(FN)」のジャン=マリ・ルペン党首が2位となり、1位のシラク現大統領と5月5日の決戦投票を争うことになった。欧州各国は「政治的激震」と衝撃を露にし、極右の台頭に警戒心を強めている。

仏大統領選第1回投票でルペン氏がシラク氏の19.7%に次ぐ17%を獲得、知識層や若者に支持者の多いジョスパン首相(社会党)は都市部の棄権率の高さに泣いた(得票率16.1%)。欧州各国では極右政党の躍進が目立ち、スイスでも前回の総選挙では右派スイス人民党が得票率を伸ばした。が、スイス人民党タカ派の急先鋒クリストフ・ブロッハー氏には、ルペン氏やオーストリアのハイダー氏と同じ勢いはない。この3人は、EU批判、移民排斥で人気の波に乗ったという共通点がある。このまま欧州は極右への道を進んでいくのだろうか?アナリストらは、極右の台頭は主流政党が有権者の意識を真剣に捕らえることに失敗したためと見る。「スイスでも、他でも、欧州の主要政党は国民の要求に応えていない。スイスではブロッハー氏がそこにつけ込んだ。」と政治学者ジュリアン・ホッティンガー氏はいう。

外務省筋は、スイス政府は他の民主主義国の選挙に対しては一切コメントをしないと公式発言はしない旨を表明している。唯一、パスカル・クシュピン経済相が、投票結果は「信じられないし想像もしなかったもの」で「仏国民に対する恐怖」を表したものだと滞在先の米ワシントンで語った。

スイス在住のフランス人らは、一様に衝撃を隠せないでいる。瑞仏国境の町ジュネーブの自営業者ピエール・オリヴィエロさんは「これは政治的な巨大地震だ。仏民主主義の重大な危機だ。」と懸念する。在瑞フランス人の間では、シラク氏の得票率がルペン氏の3倍でルペン氏は8%を得たに過ぎなかった。

ルペン党首の国民戦線の躍進は、EUと中道左派政府に対する国民の幻滅と移民に対する嫌悪感の増加を巧妙に利用した、欧州共通のポピュリストナショナリズム復活の典型だ。イタリア、オーストリア、デンマーク、ポルトガル、ベルギー、オランダでも極右政党が躍進し、スイスでも人民党が前回(99年)の総選挙で議席を増やしたのに続き地方選でも都市部を中心に支持を伸ばしている。人民党はルペン氏2位について公式コメントはしないとしており、また人民党と仏国民戦線には類似性はないとswissinfoに語った。が、同党員の多くが個人的には移民問題、EU、伝統的価値観などにおける両党の政策上の共通点を認めている。

人民党以外のスイスの政党は、ルペン氏2位にそれぞれ驚きと懸念を表明している。社会民主党は、ルペン氏の躍進は極右の復活を意味するとし「驚愕と失望、懸念」を表明した。そして、「ルペン氏は第2回投票では敗退するだろうが、欧州は極右政党がいかに有権者の支持を掴んだかを目の当たりにした。投票者らが国益を最優先させるならばEUに未来はない。我々左派は、国民の恐怖や脅威に対して正しく取り組んでいるか自己批判する必要がある。」とswissinfoに述べた。急進党は、「仏国民の深い欲求不満を露呈した危険な兆候」とコメントした。キリスト教民主党は、「ルペン氏の躍進は仏の安定を試すものだ。スイスでも同様な極右思想が躍進するようであれば、予想もつかないような問題が起きる。人民党が強くなると、国の結束が弱体化する。」と懸念を示した。

前出の政治学者ホッティンガー氏は、「スイスでは何ごとも最後には国民投票にかけられる。国連加盟問題など重要な問題になると、ブロッハー氏といえども全国民の支持を得ることは容易ではない。」と、スイスの直接民主制が極右躍進を抑制するという。ホッティンガー氏は、ルペン氏とブロッハー氏は、どちらもそのカリスマ性によって支持を集めており、政策で支持を得ているわけではないという共通性があるという。「ルペン氏なしでは国民戦線の存在はない。同様にブロッハーなしでは人民党はないも同然だ。」。

フランスや欧州各国のコメンテーターらは、第1回投票の結果を「政治の大震災」と表現した。が、フランスがこのまま極右へと進むのかどうかは6月の総選挙を待たなければわからない。今回棄権した左派が、あるいは今回過激な候補者を選んだ投票者らが、総選挙ではどう動くか。その時、仏政治は完全に路線変更したのかどうかがわかる。

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