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危険な肉がスイス国境を目指す

去年バーゼルで押収された肉. Customs Office

スイスの物価は高いことで有名だが、肉の値段も例外ではない。税関によると、近隣諸国から違法に流れ込む肉は毎年増加しているが、これらは衛生上、大きな問題があるという。

スイス当局はこの18ヵ月で、密輸された肉5トンを押収した。当局によると、これら肉の密輸入は年々組織犯罪化している。

連邦税関局によると、10年以上前に輸入割り当て規制が導入されてから、近隣諸国からの肉の違法流入は大幅に増加した。スイス国内に比べ、近隣諸国の肉の価格は50%も安いのだ。

しかし、このような密輸入は一般人が隣国にでかけたついでに、1週間分のソーセージをこっそり持って帰るのとはわけが違う。これらは何万フラン(何百万円)にも値する、組織化したプロの犯罪によるものだ。

連邦税関局犯罪調査部のセルジュ・ジュミ部長によると、スイス国内の高い価格と厳格な税関手続き、EU統合で国境審査が以前より甘くなっていることなどが相乗効果となって、肉の密輸入が大幅に増加した。

「安い密輸入肉は、スイス国内で大きな市場を持っています」とジュミ部長は語る。「大きな例だけ取って見ても、近年どれだけ多くの肉の密輸ビジネスが増えたかお分かり頂けると思います」                                                                                          

組織的犯罪

 数ある肉の密輸入の中でも最大のものは、牛肉、豚肉、馬肉、計600トンを2年かけて密輸入したケースである(現在起訴中)。これは20の犯罪組織が関わり、支払われなかった関税は1,250万フラン(約11億円)にものぼった。

 罰金90万フラン(約7,700万円)はすでに支払われたが、検察は主要格の人物に対して懲役1年を要求している。

 肉は主に南米原産で、ベルギーやフランスを経由して違法にスイスに運ばれることが多い。牛や豚だけでなく、鳩や馬など多種類の肉が密輸入され、スイスの肉屋やレストランが買っている。

 2003年には、バーゼルで40万フラン(約3,400万円)相当の牛肉や豚肉が2、3トン押収されたが、これら密輸入肉の最終目的地はチューリヒとバーゼルのレストランだった。

衛生上の問題

 しかし、これは脱税だけの問題では片付かない。不潔な状態で運ばれてくる肉は、市民の健康を害する危険性もあるのだ。

 税関によると、押収された密輸入肉は多くは、衛生上安全だという許可証もなく、しっかり冷凍されているわけでもない。通常、スイスに輸入される肉は連邦畜産局が衛生上のチェックを行うが、このプロセスを経ていない密輸入肉は当然、動物や人間にとって害がある可能性があるという。

 連邦畜産局の広報、マルセル・フォーク氏は語る。「肉は違法な方法によって遠くから運ばれてくるため、多くはすでに新鮮ではありません。これに加えて密輸入者が肉の衛生を管理しながら運ぶエキスパートというわけではありません。このような状況で、肉がサルモネラ菌などのバクテリアに冒されてスイスに届くということも考えられるわけです」

 「また、動物を媒介した口蹄疫や豚コレラ、鳥インフルエンザなど、細菌やウイルスが国境を越えて動物や人に感染する危険性も無視できません。そのようなことになれば、家畜を大量に処分しなければならず、家畜にとってもかわいそうなことになります。経済的負担も小さな額ではないでしょう」

猫とねずみ

 スイスに入ってくる運送トラックは、1日約2万1,000台、パトロールしなければいけない国境の長さは1,882km。これを4,500人の税関局員が密輸入を防ごうと目を光らせているのである。

 この監視の目を突破しようと、密輸業者たちの手口も今までになく巧妙かつ専門的になっている。何しろここを通り抜ければ大きな利益が待っているのである。オーストリアから、肉を運ぶトラックをキャンピングカーに変身させて入ってきた車に、47トン以上もの肉が積まれていた。バーゼルで見つかった300kgの冷凍されていない肉を積んだトラックは、後に疑われないための策として、スイスとドイツの国境でわざわざ検査を受けていた。

 このような密輸入犯罪の増加に伴い、スイス税関局は7年前、幅広い調査分析を行えるよう再編成された。現在は、警察、連邦政府機関、地方や外国政府との協力しながら情報を集めている。

 しかし、敵も手ごわい。連邦税関局のジュミ部長は語る。「犯罪組織は、現在は領収書さえも完全に始末してしまうので、追跡調査をするのが非常に困難になっています。しかも彼らは最近、自分たちの法的権利について非常に良く勉強していて、弁護士を雇って検査の目をくぐりぬけようとします。まるで猫とねずみのおいかけっこのようです」

swissinfo  アダム・ボモン、 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

スイスの生肉輸入規制:1人の個人につき、非関税で持ち込める生肉は500gまで。
1kgにつき23フラン(約2,000円)の関税を払えば、個人の場合に限り20kgまで輸入できる。
20kg以上の生肉を輸入したい場合は連邦畜産局によるライセンスが必要。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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