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噴水の歴史を聞きながら旧市街を散策

悠久の昔から人々は泉の周りに集まった。チューリヒ市には憩いの場を作る噴水が1200以上もある swissinfo.ch

5月初旬の夕方、チューリヒ旧市街にある小高い丘「リンデンホフ」に上ると、リンデンホフ噴水の前に雨傘をさした人が20人ほど集まっていた。

今日は「旧市街 噴水ツアー」の初日だ。チューリヒ市給水課の企画実行で、今年初めて5月から10月まで毎月第一水曜日に開催される。

市民の関心

 このツアーで紹介されるのは16の噴水のみだが、チューリヒ市はスイスでも指折りの噴水の多い町。市全体では1221もの噴水がある。給水課のインフォメーション・コミュニケーション担当で、ツアーに同行していたハンス・ゴネラ氏は
「昨年、一回り規模の小さい『噴水ガイド』を実施したところ好評だったので、今年は夏の間ツアーを開催することにしたのです」
 と説明する。「噴水ガイド」を行ったきっかけは、市民から噴水に関する問い合わせが多く寄せられたからだという。

 あいにくの雨にもかかわらず、この日ツアーに申し込んだ人はほぼ全員リンデンホフ ( Lindenhof ) に現れた。これから1時間半でチューリヒの旧市街にある16の噴水を見て回る。

 筆者のいるグループを率いたのは、ゴネラ氏同様インフォメーション・コミュニケーションを担当するリカルダ・エンギ氏だ。
「春の散策のつもりだったのに、まるで秋のような冷え込みよう」
 と言いながらも、一つひとつの噴水の陰に隠れた歴史を元気な声で紐解いていく。

犬用の噴水も

 今回見学した噴水の多くは16世紀から18世紀に作られており、噴水の水槽には銅製の大きなやかんや甕 ( かめ ) などを載せるための鉄柵が、蛇口近くの水槽の上部に据え付けられている。また、水が入って重くなった容器を下ろす際に水槽を破損しないよう、角は鉄でしっかりと補強されている。

 リンデンホフを下り、レンヴェーク ( Rennweg ) に入るとすぐにアマツォーネン噴水 ( Amazonenbrunen ) が現れる。チューリヒの噴水には古くからすべて番号がつけられているが、このアマツォーネン噴水の番号は「1番」。つまり、堀井戸ではなく湧水を引いて作った噴水では一番古く、建設は1430年と推定されている。1576年に作られた像はギリシャ神話の女性戦士「アマゾン」がモデルになった。アマツォーネン噴水と名づけられた由縁だ。
「カトリックの州では聖人がよく像になっていますが、チューリヒはプロテスタントの州なので神話などの人物がモデルになっています」
 とエンギ氏。

 噴水の中には、主水槽のほか低い位置に食器洗い用や犬用の小さな水槽がついているものも少なくない。リマト川の向こう側にも広がる旧市街の広場、ヒルシェンプラッツ ( Hirschenplatz ) に面して立つホテル「アドラー ( Adler ) 」の脇には、そればかりか犬専用の小さな噴水がある。水飲み場といったほうが正しいのかもしれないが、チューリヒの動物画家ルドルフ・コラーの死後100年を記念して2005年に作られた。父親がこのホテルを経営していたため、コラーは10歳になるまでここに住み、毎日、馬車に繋がれた馬や野良犬を眺めて過ごしていたという。この犬専用の噴水には毎日1回新鮮な水が補給される。

二つの給水ネットワーク

 エンギ氏は、噴水の歴史の合間にチューリヒ市の給水設備についても説明をする。
「チューリヒ市の地下には、湧水用と飲料水用の二つのネットワークがあります。飲料水の7割はチューリヒ湖の水、それに地下水と湧水が混合されています。
湧水ネットワークは、非常事態を想定して普通の飲料水用ネットワークと完全に分けられています」
 チューリヒにある約1200の噴水のうち、約400は湧水が引かれている。古くからある旧市街ではやはり湧水の噴水が多い。

 また非常用の噴水も市内80カ所に備えられている。こちらは単なる水飲み機といった感じのものだが、80カ所すべてで湧水を使用しており、飲料水用ネットワークに異常が発生した場合にはこの噴水から給水できるようになっている。ブロンズ製で作りも頑丈だ。湧水ネットワークはそのほか、病院や民間防護関連の建物にも引かれている。

 1時間半の間、結局雨がやむことはなかったが、ツアーに参加した人の関心が冷えることはなかったようだ。
「こんなことでもなければ、噴水についていろいろと知る機会はないから」
 と参加を決めたのは、チューリヒ市に住む白髪の男性だ。また、ツアーで盛んに写真を撮っていたチューリヒ在住の女性も
「外国ではできるだけたくさん観光をして写真を撮ろうと思うけど、自分の住んでいる町ではそういうことがないから」
 と語る。このツアーをきっかけに、これから噴水を見るために町を散策しようと話し合うカップルもいた。

小山千早 ( こやまちはや ) 、チューリヒにて swissinfo.ch

開催日:5月から10月までの第1水曜日
時間:18時から19時半まで
集合場所:リンデンホフ噴水
予約:必須。044-435-2111もしくはwvz-info@zuerich.chまで

旧市街にはレンヴェーク ( Rennweg ) とプレディガーガッセ ( Predigergasse ) に中世の井戸が残っている。レンヴェークは歩道に、プレディガーガッセは15番地の額屋の中にあり、一般公開されている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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