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国民投票 -子どもに対する性犯罪の時効ー

性犯罪の犠牲者は、沈黙を破るのに何年かかるのだろうか?

11月30日の国民投票で問われる5項目の1つは「子どもに対する性犯罪の公訴の時効無期限」を求めるイニシアチブだ。

1996年ベルギーで起こった性犯罪「マーク・デュトルー事件」を契機に、またスイスの子供への性犯罪の増加を危惧し創立された協会「マルシュ・ブランシュ / 白い歩み」がこのイニシアチブを提起した。

告発までに時間がかかる

 背景には「マーク・デュトルー事件」を始め、今年スイスで告発された神父による子どもに対する性犯罪やインターネット上での子どものポルノなどの増加にもかかわらず、政府の対策が進んでいないことへの不満が国民の間にあると、イニシアチブを提出した「マルシュ・ブランシュ ( Marche blanche ) / 白い歩み」の弁護士、アラン・ツォグマル氏は言う。

 子どもに対する性犯罪は、被害者が子どもであり、しばしば加害者が近親者であることから加害者に依存し続け、被害のトラウマから抜け出し告発に至るまでに時間がかかることがほかの犯罪と性格を異にする。
「告発をした人の9割が40歳から50歳だ。子どもの時に長期にわたり犠牲になった場合、中年になってからようやく告発できる精神的な回復を得ると多くの心理学者も証明している」
 とツォグマル氏は説明する。

 このため、イニシアチブは、16歳以前の子どもに対する性犯罪は公訴の時効を無期限に、つまり被害者が第1審に持ち込める期間に期限がないことを刑法に付け加えるよう要求している。

政府は充分な改正を行なっていると主張

 一方、政府と連邦議会はこのイニシアチブに反対している。子どもに対する性犯罪は特殊だと認識し、すでに法を改正して公訴の時効を延長しているというのがその理由だ。
 
 具体的には、時効期間の15年はそのままだが、事件発生当時から年数をカウントするのではなく、子どもが18歳になった時から15年を公訴の時効期間にするというもので、つまり33歳になるまでに第1審に持ち込めるという内容だ。

 しかしイニシアチブ提出側は、33歳までに第1審に持ち込むには31歳ごろには告発しなくてはならず、それでは若すぎて精神的に充分な回復に至っていないと主張する。

 政府側のもう1つの反対理由は、現在公訴の時効無期限の犯罪は、民族大虐殺であるジェノサイドや戦争犯罪だけで、性犯罪はこれらに比較するとまだ罪が軽いということ、さらに子供に対する性犯罪の公訴の時効無期限は、他国と比較した場合かなり逸脱した法律に見えるということがある。

 イニシアチブ提出側はこれに対しても、イギリスとカナダは性犯罪の公訴の時効無期限を導入していると主張している。また連邦議会議員の中には、
「子供に対する性犯罪の犠牲者の苦しみが克服できるなら、法的に国際社会で浮いて見られることは何でもないではないか」
 というイニシアチブ賛成派もいる。いずれにせよ、最終的判断は国民の手に委ねられる。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 

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スイスの現行刑法によれば、民族大虐殺であるジェノサイドや、戦争での犯罪などが公訴の時効無期限。

ほかの犯罪に関しては公訴の時効が制定されており、無期禁錮に当たる罪については30年、3年以上の禁錮に当たる罪については15年、軽犯罪については7年の時効が定められている。

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