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天然痘ワクチン売上げ急増

米国で続発する炭疽菌感染を受け、バイオテロに備える欧州各国でスイスの薬品企業ベルナ・バイオテク製造の天然痘ワクチン売上げが急増している。天然痘ウィルスは空気感染し、感染率は極めて高い。初期症状はインフルエンザに似ており、やがて顔、肢を中心に膿疱ができる。

バイオテロと思われる米国での炭疽菌感染を受け、欧州各国政府は防疫学専門家らの助言に従い天然痘ワクチンの備蓄を増量している。天然痘は70年代の世界的な集中ワクチン作戦の結果1979年に撲滅宣言が出されているが、ここへ来て天然痘ウィルスがバイオテロに使われる可能性が浮上した。すでに数カ国はベルナとワクチン購入契約を締結し、他の国々も交渉中だ。ベルナ(旧スイス血清ワクチン研究所)は具体的にどこの国が契約したかなど詳細は明らかにしていないが、イタリア保健省は先週4、500万ドルで500万人分の天然痘ワクチンを購入したと発表した。

ベルナ・バイオテクは、天然痘ワクチンのLancy-Vaxina Bernaの大量の在庫を抱えており、高い貯蔵技術の成果で今でも有効だ。欧州数カ国の政府は、この在庫からのワクチン購入を発注した。これまでのワクチン売り上げ額は1億5000万スイスフランにのぼり、ベルナは残りの在庫から限定量ではあるが直ちにワクチン供給できるとしているため、さらに5、000万から7、000万スイスフランの売上げとなる見込み。

「天然痘撲滅は世界保健機関(WHO)の最大の業績の一つだった。その天然痘が再びこの世に蘇るなどという話は悪夢のようだ。現実となったら世界的な危機となる。各国は天然痘ウィルスを用いたバイオテロの可能性に備えて合理的で繊細な対策をとっているが、我々は現実とならないことを祈っている。」と、イアン・シンプソンWHO報道官はいう。シンプソン報道官は、ワクチンは天然痘対策に有効な手段だが、WHOは発生前の摂取は奨励しないと次のように述べた。「ウィルス感染後3日から4日以内にワクチン摂取すれば、感染者は重症にはならないですむ。多くの場合は、発病自体を予防できる。」。天然痘ワクチンには、高熱、頭痛から場合によっては死亡するケースもあるという副作用の発生率が極めて高いという側面もあるという。

天然痘ウィルスは撲滅宣言後、医学研究用として米国とロシアの研究施設だけに保管されているが、専門家らの間では朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)やイラクなどがウィルスを保管している可能性があるとされており、バイオテロに使用された場合には人類の15%から20%が殺戮されるという。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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