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富豪も住みたいスイス

ティナ・ターナーはチューリヒ湖畔の住民 Keystone

今でも多くの富豪が住んでいるスイス。2007年から政府はEU(欧州連合)市民への居住規制を撤廃する。今後富豪のさらなるスイス移住が予想される。

一方、世界の富豪を呼び込む決め手となるのは、規制撤廃ではないとの声もある。

 スイスは住民の20%が外国人で占められている。チャップリンやオードリー・ヘップバーンなど歴史的に世界の富豪や有名人を受け入れてきた。スイスの高額所得者上位300人のうち、外国人はなんと半分を占める。例えばこの中に名前を連ねるイングバー・カムプラート氏はスウェーデンの有名家具会社、イケアの創設者で、世界で最も金持ちの1人である。  

 英ポップ歌手のフィル・コリンズや米歌手ティナ・ターナー 、F1のミヒャエル・シューマッハーやテニスのチャンピオンだったボリス・ベッカーなど、エンターテイメントやスポーツ界からも有名な名前が並ぶ。

 「今までは労働許可がなければ居住許可もおりませんでしたが、2004年6月以来、EUの市民であれば、生活に困らない程度の資産があることを証明さえできればスイスに住めるようになりました」連邦移民局のマリオ・テゥオールさんは語る。現在はEU市民の居住数は上限が設定されている。このため、欧州の中でも有数の資産家とされている人々でさえも、その5割は許可がおりなかった。2007年からはこれも撤廃されるため、風光明媚なチューリヒ湖やジュネーブ湖の湖畔の高級住宅地は、今より混み合ってくるかもしれない。                                                                                             

なぜスイスに住みたいのか

 このような規制緩和とともに、世界の富豪がスイスに住みたがる最大の理由の1つとなっている税優遇策はそのまま残される。しかし、外国人にスイスの居住を斡旋する会社を経営しているフランソワ・ミシュルー氏は、「スイスが世界の富豪に人気があるのは税優遇策のためだけではない」と語る。彼は英国、フランス、スカンディナビア半島など、約90か国にも上る外国人の顧客を持っている。

 「もちろんもし、スイスが税優遇策をとっていなければ、多くのお金持ちを惹きつけることはできないでしょう。けれども、スイスがタックス・ヘブン(税金が非常に低いかまったく課されない国・地域)だとは誰も思っていません」

 「税優遇を第一に考える資産家はスイスではなくモナコやバハマを選びます。しばしば見落とされがちですが、スイスに住むことの利点の1つは、欧州の真ん中にあるため便利だということです」

 これは特にスウェーデンなど、スカンディナビア半島に住む富豪にとって重要な判断基準である。彼らの国はずっと北極に近いため、地中海のリゾートに足を伸ばすのも容易ではなく、何より太陽を拝めない長い冬にうんざりしているのだ。

住みやすい社会

 もう1つの利点として、特に英国人が口にすることだが、スイスの住みやすさが挙げられる。「私の英国人の顧客は、『英国は過去20年か30年で多くの公的・社会的サービスがすっかりさび付いてしまった』とよく嘆いています」とミシュルー氏は語る。スイスの保険システムも賞賛されているという。

 安全性も重要なポイントだ。同氏によると、英国人はスイスに住むほうが子供にとって安全だと考えているらしい。「彼らは、スイスの学校ならいじめや校内暴力を心配せず、あたたかい環境で子供を育てることができると信じているのです」

 ミシュルー氏のフランス人の顧客は、スイスの市民意識に感動しているという。これはスイスの伝統的な規律正しさや町の清潔さ、環境への配慮といった良く言われること以上の意味を含んでいるらしい。

 「多くの私のフランス人の顧客は、スイスでは子供たちが大人に対してもにこやかに隠し立てない態度で接しているのを見て驚きます。50年前はフランスでもこんな雰囲気だった、と皆さん感動されます」

 またフランス人にとっては、スイスの大都市ではない地域での、素朴な生活も大きな魅力だという。交通渋滞もなく官僚主義もあまり見られない。

 ミシュルー氏は「スイスの魅力を一言で言うのは難しい」と言う。「多くのスイス人は気が付いていませんが、私たちの国は他国ではあまり見られないほどの高い生活水準と豊かな社会を提供してくれているのです。多くの外国人にとって、スイスに住むということは社会的成功を意味しているほどなのです」。


swissinfo  アルマンド・モンベーリ、 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

スイスの住民のうち20%は外国人。
スイスに移住してきた外国人で最も多いのはドイツ人(2003年—2004年)。
スイスの高額所得者上位300人のうち、外国人は半分を占める。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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