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小さな村の大きな音楽祭

アンサンブル・ピエール-ぺルチュイ(ENSEMBLE PIERRE-PERTUIS)によるアルペンホルンの演奏。ピエール-ペルチュイとは、古代ローマ時代から発展した、ビエンヌ/ビールとソンセボ(Sonceboz)を結ぶ峠道のことである。 swissinfo.ch

「エスティヴァル・ミュージカル」(Estivales musicales=直訳すると音楽的な夏の日々)という名の音楽祭が、ジュラベルノワ(ベルン州ジュラ、フランス語圏)の小さな村(人口約1300人)クール(Court)で開催され始めてから今年で8回目を迎えた。2006年にフランス人ピアニスト、ティエリー・ラヴァサー(Thierry Ravassard)さんが提唱し、クール村の住民達の献身的な協力のもと、毎年、8月下旬から2週間行われている。様々な国籍の演奏家や声楽家、俳優が招かれ、室内楽や合唱だけでなく演劇も交えたユニークかつ多彩なプログラムで、観衆を大いに楽しませてくれる。

音楽祭の一週間前からは、若く有望な音楽家を育成する講座・マスタークラスが始まる。スイス各地やフランス、そして遠く日本からの参加者もいるため、クール村の住民がボランティアで部屋を提供し、ホームステイさせている。

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マスタークラスでは、生徒達はラヴァサーさんからピアノや声楽のレッスンを直接受けることができる。ラヴァサーさんは毎年日本でマスタークラスやコンサートをオーガナイズしているため、日本での交流の輪が広がっており、日本人参加者が多いのが特徴だ。去年は「初めての外国がクール村」という日本女性も来ていた。フランス在住の日本人ピアニストが通訳として同行しているので安心して受講できることも日本からの参加者が多い理由の一つであろう。去年と今年、クラスに参加した長女によれば、レッスンが終わると皆で集い、フランス語と日本語が飛び交う中、和気藹々と楽しい雰囲気だったそうだ。

マスタークラスに関する問い合わせと受講申し込みはこちら。
住所 : Estivales musicales
Case postale 111
2738 Court – Suisse
Email : academie@estivales-musicales.com

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マスタークラスの最終日、受講生全員が演奏するお披露目コンサートが夕方から始まり、その中で「エスティヴァル・ミュージカル」の開催宣言がなされる。

去年より、この音楽祭はクールの村祭り(Fête populaire=大衆祭り)と提携し、スイスの伝統的・大衆的音楽を鑑賞できる日を一日設けている。今年、この音楽祭は村の高台にある農家の巨大な家畜小屋内で行われた。私は日本人・フランス人受講生と同席させてもらい、金管楽器のクインテット、アルペンホルントリオ、アコーディオンとアコースティックギターのグループ演奏を聴いた。

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音楽鑑賞のための入場は無料だが、内部での飲食は有料である。食事を希望する参加者は大人・20スイスフラン(子供料金もあり)で紙皿を一枚買い、ビュッフェスタイルで食事を楽しめる。食事のメインである子牛のソーセージは目の前で焼いてくれる。数々の野菜サラダや豪華なデザートはすべて有志の手作り。牛が藁を食んでいる隣で私達も美味しい食事に舌鼓を打つ、という何とも素朴かつ楽しい機会を日本人・フランス人音楽家達と分かち合うことができた。

また、今年始まった試みで、クール村だけでなく、他のジュラベルノワの村々やビエンヌ/ビール(Bienne/Biel)市でもコンサートが開催されることになった。

今年の「エスティヴァル・ミュージカル」は8月23日から9月8日まで。残念ながら、この記事が掲載される頃には音楽祭は終わりを告げているが、毎年、同時期に開催されるので、是非いつか足を運んでいただきたい。小さな村が一致団結してオーガナイズをする、小規模でも国際的な音楽祭は、スイスの短い夏の終わりを彩ってくれる。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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