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建築と彫刻の対話 —18世紀から今日まで

スイス生まれのフランスの建築家、ル・コルビュジエの代表作品、ロンシャン礼拝堂の模型、1950年〜1954年作。 Pro Litteris

このほど、バーゼルのバイエラー財団美術館で建築と彫刻を比較し、お互いにどの様に影響しあってきたかに光を当てるユニークな展示を開催中だ。

現代彫刻の巨匠、ヘンリー・ムーアの丸みのある彫刻とスイス生まれの世界的建築家、ル・コルビュジエ作、曲線の美しいロンシャン礼拝堂の模型などが対比され、現代における建築と彫刻の歩み寄りを考察する。

彫刻に近づく現代建築?

 展示のタイトル「アルキスカルプチャー」(ArchiSculpture)は建築とも彫刻ともとれる現代アートの作品に名づけた造語だ。例えば、スペインのビルバオにあるフランク・O・ゲーリー設計の曲線の連続のグッゲンハイム美術館やフランスのパリ郊外にあるル・コルビュジエ作のロンシャン礼拝堂を思い浮かべて欲しい。

 学芸員の補佐で建築家のヤン・ケルン氏は「現在のスター建築家の建築は彫刻に近づいてきている」ことからアイデアを得たという。同氏は「この現象は彫刻についても同じことがいえる。現代彫刻の父、ルーマニアのコンスタンティン・ブランクーシは『僕の彫刻を高層ビルにしてはどうだろう』と語っていたしね」と付け加える。確かに、ブランクーシのアトリエに所狭しと天に聳え立つキューブの重なりのような彫刻は高層ビルを思わせる。

消え行く境界線

 展示では60人のアーチスト、50人の建築家の模型や写真など、合わせて180の作品を吟味、比較できる。見所として青山のプラダ店、ロンドンのテートモダンなどで有名なスイス人建築家二人組、ヘルツォーク&ド・ムーロンが展示のために建てた柱頭のようなパビリオン(塔)が庭にある。この9メートルもある塔は遠くから見れば彫刻のようだが近づけば中に入れる、まさにハイブリッド(合成)の作品だ。

 ヘンリー・ムーアの『横たわる人物:穴』(1976-78年作)は抽象的な作品で洞窟や岩などといった自然を想定させる。これに対比される、コルビュジエのロンシャン礼拝堂(1950年−1954年作)の自然な曲線は人間の体を思わせる。同館学芸員は「技術の発達で建築は建てる(築く)ものから創作するものに変わってきた。コンクリートなど技術発達に伴って屋根を柱で支える必要がなくなってきた今、建築は彫刻になった」(カタログから)と分析する。

 前出のケルン氏は彫刻と建築が近づいてきている現象について「現代の彫刻やデザインの作品を大きく膨らませれば高層ビルになる。これはコンピューター社会の申し子かもしれない」と考察する。コンピューターグラフィックなどで数値を変えれば自由自在に縮小拡大ができるからだ。彫刻のオリジナル作品と建築の模型という大きさが対比し易く、大胆な試みといえる。

バイエラー財団美術館

 バイエラー財団は画商のエルンスト・バイエラーが自らのコレクションを財団化して1997年に作った美術館だ。現在、欧州で流行っているテーマ展示を頻繁に行い、展示の質の良さで定評が高い。美術館はバーゼルからドイツ国境に近い緑豊かなリーエンにあり、関西国際空港ターミナルビルなどを手掛けた世界的建築家、レンゾ・ピアノの傑作だ。


スイス国際放送  屋山明乃(ややまあけの)

<開催案内>

- 開館時間:10時から18時まで(水は20時まで)。12月24日と25日休館。入場料:18フラン。展覧会は2005年1月30日まで。

- バーゼル駅からトラム2番線、メッセプラッツ(Messeplatz)で6番線に乗り換えバイエラー財団で下車。

- 11月20日の16時からはアーチストを囲んで討論会を催す。


<バイエラー財団>

- バイエラー財団美術館は画商エルンスト・バイエラーが自らのコレクションを財団化し、1997年にドイツ国境に近いリーエンに建てた美術館。

- 美術館の設計もパリのポンピドゥーセンターや関西国際空港ターミナルビルなどを手掛けたレンゾ・ピアノの作品で見もの。

- 欧州では、質の良い展覧会を開くことで名を成している。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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