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愛知万博とスイス館の魅力

テラスから見えるアルプスの山。25,000ある花も一つ一つコンピュータで作り上げた。まるでコンピュータゲームの世界に入ったかのような錯覚さえ起こす。(写真:ダイナミック・スイス) Lookat

愛知万博(愛・地球博)が3月25日から9月25日までの6カ月間、長久手と瀬戸の2つの会場で開催される。                  

スイスは「山」をテーマに参加。長久手会場の最南端、外国館が立ち並ぶグローバルコモン4のオーストリア館とベルギー館の間にある。万博会場駅から入場したなら、キッコロ・ゴンドラに北駅から乗り、南駅で下車する。
swissinfoスペシャルでは「愛知万博とスイス」、「スイスと日本」、フォト・ギャラリーなどで特別報道をします。こちらもあわせてご覧下さい。

漢字で赤く「山」と正面玄関に書かれているスイス館に入る。見学者の前に立ちはだかるのは、コンピュータグラフィックでデザインされた高さ9メートルの山。入り口で渡された音声ガイドを手に、さてこれから、15分間の「スイス体験ツァー」が始まる。

山の中にある5つのテーマカプセル

 5つのテーマに分けられた透明な半円形のカプセルを通りながら、120件あまりの展示物を次々と見て回ることになる。70年程前に作られたモデルというスイス軍の蛍光灯に組み込まれた音声ガイドで、展示物にライトを当てると説明を聞くことができるようになっている。

 美しい山の国といった画一的なスイスのイメージでまず見学者を引き付け、都市や谷間で営まれる、実際のスイスと国民の姿を紹介するというコンセプト。

 自国を外国で紹介する場合、観光宣伝になりがち。観光立国であるにもかかわらずスイス人は逆に、自国に対する批判を好む傾向にある。しかし今回は、「自国に対する皮肉や自己批判は一切なし」と語る総括責任者のマヌエル・サルクリ氏。まるで「スイス人の業績」展という表現に近い内容だ。 生のスイスをなるべく分かりやすいように、1.スイスの神話 2.ビジョン 3.危険と注意 4.科学の頂点 5.モンテローザの5つの切り口でアプローチしている。

氷河の遺骨からアインシュタインまで

 特に注目されるのは第3のカプセル「危険と注意」の氷河の遺骨。17世紀に起こった雪崩で犠牲になったイギリス人の女性の遺体が展示されている。髪の毛やピクニック用のバックなどがはっきり残っている。愛知万博で話題のユカギル・マンモスと比較されそうな展示品だ。

 入場してすぐの左奥には、セント・エレナ島で死んだナポレオンの死の床がある。スイス人がオークションで落札し長年スイスにあるのだが、実は世界にナポレオンのベッドといわれるものは、数台あるという。ナポレオンによりスイスは一時的に共和国になったことから、スイスとの関係は深い。

 4つ目のカプセルの「化学の頂点」を代表するのは、アインシュタインがスイス人だったことを示すパスポートや、ジュネーブで発明されたWebブラウザが初めて作動したコンピュータ。もっとも、このコンピュータ、IT技術の「化石」のような代物に見える。いずれも、実物だ。

 一方、大型の赤い自家用車を破壊したスイス人芸術家によるオブジェなど、いくつかの展示品は、見学者に対して特別な説明がない限り、万博で展示することに違和感を感じさせる。また、愛知万博のテーマでもある「環境」との関連がやや薄いようにも思われる。

スイス館の使命は果たせるか

 開幕前からスイス館のアプローチは日本の報道機関でも「4つ星」と評価された。最高は「5つ星」で、米国館と韓国館が獲得した。

 スイス館を訪れた五十川多恵子さん(58歳)は、「音声ガイドで分かりやすい展示」と評価。旅行雑誌編集者の女性も「哲学的。非常に面白い」など、肯定的な意見が多い。特に音声ガイドは人気。前出のサルクリ氏によると、「エレクトロニックス・エンターテイメントのレベルの高い日本人に対抗するつもりはそもそもなかったが、遊び心をくすぐる趣向」とのこと。開幕前の内覧会2日目には、スイス館を見るために長蛇の列ができた。

 一方で、批判的な意見もある。石井隆一さん(61歳)は、展示物が多すぎで脈略がないように思うという。「オーストリア館は簡素で雪ソリに乗るだけだが、感情に訴えるので、印象に残る」と語る。さらに「自然と環境がテーマの万博なのに、スイス館の山は非常に人工的に見える」と厳しい目で評価した。

 スイス館を訪れ、スイスに対する興味が湧く人がどれほど出るか。日本におけるスイスの理解を深めるための使命を負ったスイス館の、愛知万博における結果は館の入場者数のみならず、文化の交流や経済協力など今後、長い目で評価されることになる。

swissinfo 佐藤夕美 (さとうゆうみ) 愛知万博会場にて

スイス館 
長久手会場 
グローバルコモン4
キッコロ・ゴンドラの南駅下車

「山」をテーマに1.スイスの神話 2.ビジョン 3.危険と注意 4.科学の頂点 5.モンテローザの5つの切り口で紹介する。音声ガイドを使って見学する所要時間はおよそ15分。
必見は氷河の遺体、アインシュタインのスイス・パスポートなど。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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