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戦争の犠牲者、声を挙げる

シエラレオネの焼け落ちた建物は、内戦の証人 Justin Häne

グアテマラの著名な文化人類学者マーナ・マック氏は、1990年9月にグアテマラ市内で軍の暗殺隊に殺害された。

暗殺から18年後、スイスの首都ベルンで、姉の死の真相究明を求めるヘレン・マック氏が、自らが抱えている難題と焦燥について語った。

 暗殺の前、マーナ・マック氏は政治機密に関わる問題を調査していた。1990年に、先住民コミュニティーのせん滅についての詳細を出版し、当局の激しい弾圧を受けた。そしてある日刃物で27回刺されて絶命した。

正義と人権に対する権利

 マーナ・マック氏の例は、36年間続いたグアテマラ内戦の問題を象徴している。この戦争で20万人、大半はマヤ系先住民、が殺害された。グアテマラの「歴史解明委員会 ( Guatemala’s Historical Clarification Commission ) 」は、政府が大量虐殺を犯したと結論付け、1999年にこれを発表した。

 3月初旬に連邦外務省 ( EDA/DFAE ) が主催した正義と人権のフォーラムで、ヘレン・マック氏が
「私は、なぜ姉が殺されたのか知る権利を、そして正義を遂行する権利を求めていたのです」
  と訴えた。

移行期の正義

 「移行期の正義」と呼ばれる訓練プロセスを用い、紛争で深い傷を負った社会を再建することは、スイスの重要な外交目標の1つだ。独裁政権から民主的な政府へ移行する社会にとって、過去の人権侵害に向き合うことは最も難しい課題の1つだ。

 過去の例が示すように、社会における基本的な信頼を再建するためには、人権侵害の事実の認知、その計画、命令、実行犯の逮捕、被害者の社会的回復と補償の付与が必要だとスイス政府は述べる。

 スイス政府は、移行期の正義と過去の検証が必要不可欠であることを明確に伝えていると連邦外務省のアドバイザー、モー・ブリーカー氏は言う。

 連邦外務省はブルンジ、ネパールなどの国で平和プログラムを展開しており、グアテマラでの存在も大きい。これらの国の政府、市民社会およびそのほかの現地関係者が、捜査委員会、裁判プロセス、被害者補償、組織改革を構築し運営できるよう、連邦外務省の専門家がサポートしている。

 人道的犯罪の犯人の告発は国際社会の義務であり、当事国内外で、法の裁きと説明責任を促進することによって、国際社会の人権侵害に対する関心の高さを明確にするべきだとブリーカー氏は述べる。

失われた前提

 世界諸国は一連の国際協定を批准したが、実際の行動が伴わず残虐な人道犯罪の防止に失敗した。

 第2次世界大戦末期以降、アフリカは内戦で荒廃し、中南米、アジア、バルカン地域でも国際社会を無視する政権があった。人道犯罪を指揮した政治関係者は、その罪を簡単に免れてきた。

 人権侵害の被害者は、加害者に対して行動をとるよう国に請求する権利があるが、被害者がその権利を遂行できなければ、人権という権利は意味をなさないという指摘もある。

悪夢からの目覚め

 ヘレン・マック氏は、グアテマラの平和協定で合意された、政治家と軍の上層部の免責条項によって目が覚めたと語り、
 「刑を免れると最初から分かっている人間に、正義を語る資格はない」
 と言い足した。

 ネパールの人権活動家、マンディラ・シャーマ氏は、昨年ネパールで批准された平和協定に免責条項が存在する可能性を憂慮する。多くの平和協定で、最大の有権者である被害者の声が明らかに無視されていると同氏は批判する。

 シャーマ氏は
「国際社会、市民社会と人権団体の役割は、被害者の声が届くよう、勢いをつけることだ」
と述べた。

swissinfo、ユスティン・ヘネ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

学術的な定義では、過去10年間に4大陸で約40の内戦があった。

「ポジティブな平和」と「ネガティブな平和」を区別する人権活動家によると、後者は、単なる暴力の不在で、前者は暴力を使用する状況が除去された場合にのみ発生する。

専門家は、最近のケニヤでの暴動がこの論理を強調すると指摘。

ケニヤは、アフリカ大陸の中で最も安定し、進んだ国の1つとみなされていたにもかかわらず、長年にわたる部族間の対立が急速な暴動を引き起こした。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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