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放射性廃棄物の行方

アールガウ州ヴュレンリンゲン ( Würenlingen ) にある一時貯蔵施設には高レベルの放射性廃棄物が保管されている Keystone

放射性廃棄物管理協同組合「ナグラ」によると、スイスには地質学的に見て放射性廃棄物処分施設の建設に適した地域が6カ所ある。しかし、これらの地域の抵抗は大きい。

中低レベルの放射性廃棄物の処理に適しているのは、シャフハウゼン州ジュートランデン地域、チューリヒ州とトゥールガウ州にまたがるヴァインラント地域、チューリヒ州とアールガウ州にまたがるレゲレン地域、アールガウ州ベツベルク地域、ソロトゥルン州とアールガウ州にまたがるジュラ南麓、そしてニトヴァルデン州とオプヴァルデン州にまたがるヴェレンベルク一帯だ。

貯蔵期間は最低10万年

 これらの候補地域は11月6日、「ナグラ ( Nagra ) 」と連邦エネルギー省エネルギー局 ( BFE/OFEN ) が公表した。ヴァインラント ( Weinland ) 、レゲレン ( Lägeren ) 、ベツベルク ( Bözberg ) には1億8000万年前に形成された耐水性のオパリナスクレイがあり、これらの地域は中低レベルだけではなく高レベル放射性廃棄物の処分地にも適しているという。

 ナグラの最高経営責任者 ( CEO ) を務めるトーマス・エルンスト氏によると、中低レベルの放射性廃棄物の安全評価期間は10万年。高レベルになると100万年を要するという。
「原子力発電、医療、産業、研究などの分野から出る放射性廃棄物は、深さ400メートルから900メートルの地中に貯蔵すれば、長期的に見ても安全であることが世界の認識となっている。処分地の選択で最も重要視されるのは安全性。これから討議に応じるつもりだ」

不満と怒り

 この討議は激しいものになりそうだ。「原発施設に関するニトヴァルデン州民参与のための委員会 ( MNA ) 」はこの決定に対して、「ヴェレンベルク ( Wellenberg ) 地域を最終処分地の候補に上げるのは違約だ」と主張している。ニトヴァルデン州ではこれまで最終処分地に関する住民投票が2回行われているが、住民が処分施設と調査用の坑道建設に反対の意を表明したあと、ナグラはニトヴァルデン州の建設計画を打ち切ることを確約したからだ。

 そのためオプヴァルデン州とニトヴァルデン州の州政府は、今回の提案について「まったく受け入れることができない。理解に苦しむ」と批判する。オプヴァルデン州は、観光地であるエンゲルベルク ( Engelberg ) のイメージに悪影響を及ぼすのではないかと心配している。またシャフハウゼン州も、ジュートランデン ( Südranden ) 地域やヴァインラント地域が最終処分地となれば、商業地域として、また住居地としての地域の魅力が減少すると恐れている。

 チューリヒ州は「現在もすでに、スイス全国のために特別な負担や中核的な負担を負っている」という理由で、ヴァインラントとレゲレン北部での最終処理を拒んでいる。また、アールガウ州は自州に多くの関連施設が集中していることを指摘する。事実、6つの候補地のうち2つはアールガウ州にあり、合計33の地方自治体が建設問題にかかわってくるほか、すでに原発や中間貯蔵施設も建てられている。

 ゾロトゥルン州政府にとっては安全性が最大の問題だ。地域開発や社会経済に関する条件、および政治的な主張は二の次だという。左派やスイス・エネルギー基金 ( SES ) も同じ見方だ。

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満足

 一方、ヴァインラント地域をチューリヒ州と共有するトゥールガウ州は、これまで作業の補佐をしてきたこともあって、今回の措置を「安全性を重視した、透明度の高い、信頼の置けるもの」と評価した。連邦政府はまた、ドイツのジグマー・ガブリエル環境大臣からも高い評価を受けた。同大臣は、
「ドイツで最終処分施設の建設場所を探す際にも、同じような方法で行うべきだ」
 とスイス連邦政府を称賛している。

 関係地域とともに詳細な検査を行う中で、6つの候補地はこれから3段階に分けて「ふるい」にかけられる。最終的な決定は約10年後に行われる予定だ。目標は2030年に中低レベルの放射性廃棄物処分施設を、そして2040年に高レベルの放射性廃棄物処分施設を稼動させることだ。

swissinfo、外電

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