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日本の治安低下で伸びる スイス中央銀行金庫を手掛けるカバ社 

カバ社が創立された1862年から、随分と進化した鍵前のシステム. Kaba

パリのルーブル美術館、スイス中央銀行などのセキュリティ・システムを手掛ける世界でも最も古い錠前会社の一つ、カバ(Kaba)。その日本カバに勤めるスイス人技術者のぺーター・ズーター氏に日本のセキュリティについて話を聞いた。

錠前屋といっても1862年の創設当初の金庫作りから随分と発展した。今や、情報チップの入った鍵、指紋など認証機能の付いた扉や1つの鍵でいくつもの扉が開けられるオーダーメイドの「マスターキーシステム」など最先端技術のセキュリティを手掛けている。

カバは1862年にドイツ人の創立者で錠前屋のフランツ・バウァー氏がチューリヒで金庫を作ったのが始まり。それ以来、金庫作りから鍵作り、そして先端技術のエレクトロニック・セキュリティ・システムを作る会社へと発展していった。スイス市場では70%以上を占めるカバ社は欧州の多くの銀行の金庫やセキュリティを手掛け、アクセス・コントロール・システムでは世界一を誇る。  

swissinfo : カバが日本にやってきたのは26年前と聞きますが、比較的、安全な日本の市場に参入するのは難しくなかったですか?

ズーター : 確かに26年前は日本では鍵をかける人ですら珍しかったそうですから、最初の10年間は市場参入に大変でした。安全だから「セキュリティを高く買う」という需要や考え方がなかったのです。

日本ではピッキング(錠前破り)が流行りだしたここ6、7年前からカバが知られるようになりました。何故なら、そのころ殆どの同業者の錠前はピッキングするのが可能だったのです。それに対し、当社ではピッキングが始まった当時には、もう既に対応する錠前が出来ていたのです。我々は欧州では常に泥棒の先へ先へと知恵を絞らなければなりませんでしたからね。

また、昨年から導入された新法(個人情報保護法)によって多くの企業から室内のセキュリティを高める注文が増えました。

swissinfo : 日本の家の鍵など現在の安全度はどうですか?

ズーター : 10年前ぐらいから治安が悪化したと言われますが、今だに鍵のシステムは至って簡単なものが多いようです。例えば、私の住むアパートの鍵など90度しか回さず、1、2分でコピーできるもので驚きました。カバの鍵は上下反対にしても入るし、長持ちをし、鍵に角度が違う穴が開いているので普通の機械ではコピーできないようになっているのです。私の家のガレージの鍵に関して言えば、あってもなくても良いような代物ですね。

swissinfo : 日本の市場は他とはどう違いますか?

ズーター : 沢山ありすぎて(笑)…西洋人として真実を見つけるのは不可能なのではと思います。とにかく、私が知っている他のアジア諸国と比べると「質」の追求が凄いです。「安い解決法」を探しているのではなく、「良い解決法」を求めています。

日本でビジネスをしていて、もう一つ重要な要素は文化を理解するということです。お客さんと契約を結ぶのに商品の良さだけでは勝負ができません。相手のニーズを理解するという心理面が重視されるので、交渉をする時は必ず日本人の同僚を連れて行きます。

swissinfo : 日本人のセキュリティーに関する感覚をどう思いますか?

ズーター : 夜に電車の中でコンピュータや財布が見えるのにうたた寝している酔っ払いのサラリーマンを見るといつも感心してしまいます。欧州では、スイスでさえ、そんなことしたら、身ぐるみ剥がされるのに決まっていますからね。

多くの日本人はまだ安全な世界に住んでいると思っており、実際、それは当たっているのでしょう。ただ、同じ感覚で外国に行ったら大変に危険だと思います。飲み屋に行ってコンピュータをそこら辺に置いたりする人を見るとぎょっとします。私などコンピュータそのものより、その中味の極秘データが盗られる心配が大きいですから、絶対にそういうことはできませんね。

swissinfo : 日本では日産、日立、トヨタなど最先端の研究開発を行なっている大企業を顧客に持っているということですが、セキュリティ・システムや個人の鍵の他にどのような製品を売っているのですか?

ズーター: ピッキングが流行してからは錠前も随分売れましたが、この他おっしゃるように先端技術の情報を保持している日本産業の企業内部のセキュリティをエレクトロニック・システムで多く、手掛けています。日本の錠前の大手、美和ロックにシリンダーを売っていますし、扉や建物、門など全般の防犯設備、解決策を提供しています。欧州では殆どの銀行が顧客なのですが、日本では不思議なことに銀行の需要はあまりありません。

swissinfo : それはどうしてですか?

ズーター: 日本の銀行ではヨーロッパと同じセキュリティ・ユニットは必要ないからでしょう。金庫の扉などは重いので輸送も大変ですし、銀行にとって、それだけの労力と値段に見合った危険はないのでしょう。宝石商ですら、顧客はいますが、それほどの需要はないようです。欧州ではクレーン車で宝石店を壊して泥棒する話をよく、聞きますからね。やはり、日本は島国というところが大きいのでしょうか。

swissinfo : 将来はどのような鍵が発展して行くのでしょうか?

ズーター : メカニカルな鍵から、失くした鍵を無効にしたり、この人なら何時から何時まで入室可能といったプログラムができる、エレクトロニックを使用する錠前へと変化していくでしょう。

また、目や声または動脈、指紋などといった身体の一部の情報を認証する「バイオメトリック(生体認証)システム」を使用したセキュリティが発達していくと思います。もっともアジアの人の指紋は薄くて機械で認証するのはまだ難しいのですが… 9.11以後、米国でも盛んですがバイオメトリックスは今後、ますます必要になってくるでしょうね。


swissinfo 聞き手  屋山明乃(ややまあけの)

– KABA社の名前の由来はドイツ語で金庫を意味するKASSE(カッセ)と100年前の創立者の名前BAUER(バウァー)氏の頭文字を組み合わせたもの。

– カバ社の発明で有名なのは1934年に発明された裏表両面使える鍵だ。

– 日本カバ株式会社設立は1981年。資本金:1億2千万円。従業員数は82人(世界では20カ国で5800人)、年間売り上げ18億円(カバグループ全体では約9億8000万フラン/約900億円)

– チューリッヒ出身のペーター・ズーター氏はスイスのカバ本社で長年勤めた後、シンガポール、香港を経て1997年から日本に来たエンジニア。現在の仕事は日本でエレクトロニックを使用するセキュリティ・システムを売ること。

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