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日本人劇ヤパネーゼン150周年

Keystone

スイス発祥の地、シュヴィーツ ( Schwyz ) のカーニバルでは、ほぼ5年おきに日本人劇「ヤパネーゼン・シュピール ( Japanesenspiel ) 」が上演される。舞台には約150人が登場。裏方を合わせると約300人が劇作りに参加する。スイスのカーニバルの中でも最大規模を誇る風刺劇だ。今年はちょうど150周年記念を迎える。

思っていても普段は言えない批判的なことも言えるカーニバル。風刺劇を通し、シュヴィーツの市民の本音がうかがえる。

 スイスが日本と通商交渉を始めたのは1861年。この交渉が難航したことを風刺する劇がシュヴィーツのカーニバルで上演され、観衆に大受けしたという。以前から風刺劇は上演されていたが、それ以来、劇を上演するグループは自らを日本人協会を意味する「ヤパネーゼン・ゲゼルシャフト ( Japanesen Gesellschaft ) と名乗るようになった。

テンノウに捧げる劇

 150年を祝う今年は、テンノウに献上される劇も特別だ。舞台には巨大なケーキも用意されている。記念に出版された本も朗読されるが、美辞麗句ばかりが並べ立てられる。すると突然、ケーキの中から酔っ払いが飛び出す。これに続いて登場するのは、スイスの実像を体現する人たちだ。ごみを放置する青少年、常に対立する7人の閣僚など、地元社会や連邦政治への批判が繰り広げられる。民が喧嘩ばかりしていることにあきれたテンノウは、退場すると言い出した。これを思いとどまらせようと登場したのは、ES細胞研究者だったが…。

 こうした風刺を理解し腹の底から笑えるのは、スイスとシュヴィーツを熟知している地元の観客に限られるかもしれない。しかし、詳細が理解できなくとも、大仕掛けな舞台装置がカラフルで見た目も楽しい。

 「伝統的にテンノウはあくまでも劇を楽しむ第三者であり、風刺の対象になるということは決してありません。コスチュームも、日本が未知の国だった当時からのデザイン。日本人がこのような服を着ないことは承知の上です」と今回の脚本を書いたヴィクトル・ヴァイベルさんは弁解する。

保守的地方から出る批判

 今年に限らず、ヤパネーゼン・シュピールはその時々の社会や政治、そしてスイス人自らを批判する内容だ。それが、カーニバルで上演されるゆえんでもある。ヴァイベルさんが主役を演じた1985年の劇『輸出・輸入』では、「スイスに移住してくる外国人が増加し続けることを一種の恐怖と感じる社会」が批判された。

 「普段自分が思っていても言えないことを、人を傷つけないようにユーモアを交えて口に出せるのがカーニバルです」とヴァイベルさん。保守的な土地柄といわれるシュヴィーツでも、観客は自らも批判されるヤパネーゼン・シュピールを楽しむ。

 しかし、「ヤパネーゼン・ゲゼルシャフトのメンバーは土地の名士が多く、地元の政治を動かしている人たちもいる。カーニバルが終わり普段の生活に戻ると、劇の主旨はどこへやら。再び保守的になる」と地元出身だがいまはチューリヒに住む40歳の男性のように批判的な見方もある。

日本との交流

 この日本人劇には日本的要素がほとんどない。しかし、ヤパネーゼン・シュピールを通して、地元と日本の交流が続く。100周年記念には、当時の在スイス日本大使が劇に招待された。その返礼として、10本の桜の木がシュヴィーツに贈られた。1980年代半ばから4回にわたり、大阪の中学生がシュヴィーツにホームステイするスイス研修旅行も企画された。スイス−日本通商条約140周年記念でも、ヤパネーゼン・ゲゼルシャフトのテンノウが式典に招待された。

 今年1月19日、スイスと日本の経済連携協定の交渉開始が発表になった。昨年のスイスからの輸出額は5540億円、日本からの輸入額は2900億円を計上し、スイスにとって日本は重要な貿易相手国であるとスイス側の交渉を代表する、経済管轄局 ( seco ) のダニエル・ゲルバー氏は言う。ヤパネーゼン・ゲゼルシャフト創立のきっかけとなった通商交渉は非常に難航したが、今回の交渉はスムーズに運ぶことを期待したい。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) シュヴィーツにて

<ヤパネーゼン・シュピール>
2007年 『くつわを付けられ振り回され ( Am Naresäil ) 』
脚本 ヴィクトール・ヴァイベル 
演出 バルバラ・シュルンプ 
舞台デザイン ペーター・ビーセッカー 
音楽 メルヒヨール・ウーリッヒ 
<上演スケジュール>
2月10/11/15/16/17/18日。日曜日は14時から。そのほかの日は20時から
上映時間 約1時間
予約 電話 +41 41 819 02 13 ( Sparkasse Schwyz )
入場料 10〜50フラン ( 約900〜4500円 )
場所  バスでシュヴィーツポスト下車 ハププト広場 ( 野外上演 )

ヘソヌソデ : テンノウの名前。スイスドイツ語の方言、He, so nu so de、( それでどうした ) からくる。
マンダリン : ヤパネーゼン・ゲゼルシャフトの役員。テンノウになるためにはマンダリンであることが条件。年会費80フラン( 約7500円 ) を支払う義務がある。テンノウヤパネーゼン・ゲゼルシャフトの会頭でもあり、財政面での全面的責任を負う。 ( オフィシャルサイトから )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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