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無人走行車、法整備で普及なるか

Keystone

自動車が高速道路を自動走行している間、運転手は窓の外の景色を眺めたり、メールをチェックする。これを実現可能にする自動運転技術が、米グーグル社(Google)や自動車製造会社で開発中だ。しかし、ヨーロッパでは法整備が追い付いていない。

 7日から開催されているジュネーブモーターショーでは、無人走行車は登場しない予定だ。「まだトレンドが来ていない」と、このモーターショーのシルヴィー・ブラットナー広報は言う。「今年の注目は、低燃費車および低排出ガス車だ」

 では、いつトレンドが来るのだろうか?グーグルのセルゲイ・ブリン共同創業者は昨年、同社は今後5年で無人走行車を市場に投入予定だと発表。また、日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、2020年までにショールームに登場させると意気込んでいる。

 グーグルは2005年以降、トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」をベースにした無人走行車を開発しており、カリフォルニアの走行試験では50万キロメートルの総走行距離を記録した。

 英オックスフィード大学、独ベルリン自由大学、伊パルマ大学の共同研究チームもまた、無人走行車の研究開発に取り組んでいる。

 さらに、アウディやメルセデスベンツ、BMW、ボルボ、日産など多くの自動車製造会社では、無人走行技術を取り入れたステアリングアシスト機能や、車庫入れを手助けするパーキングアシストシステムなどの開発を手掛けている。

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道路交通法規制

 技術はすでにあるものの、こうした技術に対する法整備が追い付いておらず、事故の際の賠償義務についても議論がまとまっていないため、実用化が遅れている。

 米国では、3州(ネバダ、フロリダ、カリフォルニア)で無人走行車に関する法律が議会を通り、現在はより詳細なルール作りが行われている。しかし、ヨーロッパではそうした法律がないばかりか、法案を提出予定の国もない。

 法制化にはウィーン交通条約(1968年)の改正が必要だと、欧州委員会のシーム・カラスさんは言う。同条約の第8条には「走行中の車両または連結車両には、運転者が同乗しなければならない」と明記されているからだ。

 スイスでは、無人走行車に関するガイドラインはない。連邦運輸省道路局(ASTRA/OFROU)のギド・ビールマン広報担当官は「ウィーン交通条約の第8条はスイスの法制度の基礎になっており、国内の法律を鑑みても、乗用車には運転手が必要」と話す。

 自動車輸入業者組合「オート・スイス(Auto Suisse)」のルドルフ・ブレッシングさんも、近い将来スイスの道路に無人走行車が登場するとは考えていない。「問題は技術ではなく、法律。スイスはヨーロッパの動向を見守るしかない」

 しかし、変化が訪れる兆しはある。欧州委員会のカラスさんは昨年10月の欧州議会で、国連欧州経済委員会(UNECE)の輸送部門で無人走行車についての話し合いが行われていると言及したからだ。

無人電気シャトルカー

 法的にはグレーゾーンで、今後の行方も分からないが、スイスでは無人走行車の開発が続けられている。連邦工科大学ローザンヌ校(ETHL/EPFL)と仏インダクト(Induct)社は共同で、55ヘクタールのキャンパス内で無人電気シャトルカー「ナヴィア(Navia)」のテスト走行を行っている。

 ナヴィアにはレーザー遠隔計測機、全地球測位システム(GPS)、3Dカメラ、センサーが装備されており、最長200メートル離れた障害物を探知できる。最大乗車人数は8人、最高速度は時速20キロだ。

 「前方50メートル以内にある障害物の場合、それが固定されたものか動くものかをコンピューターが認識し、動くものであればその速度と方向を予測する」と、インダクト最高経営責任者(CEO)のピエール・ルヴェーヴルさんは説明する。もし障害物が予想外の動きをした場合、シャトルカーは停止するという。

 連邦工科大学ローザンヌ校の狙いは、このシャトルカーで点在するキャンパス間を結びつけ、近郊の村まで路線を広げることだ。現在は連邦運輸省道路局の承認を待っている。

第83回ジュネーブ国際モーターショーは7日から17日まで開催。1万人のジャーナリストを含む70万人以上の来場者数が見込まれている。

世界から130台のワールドプレミアが披露されている。30カ国から約260社が参加。今回で2年目となるヨーロピアン・カー・オブ・ザ・イヤーを発表予定。

来場者の4割はスイス国外から来る。特に隣国のドイツ、フランス、イタリアからの来場者が多い。

主催側によると、ジュネーブ・モーターショーはフランクフルト、デトロイト、パリ、東京を含む世界5大モーターショーの一つ。収益は3億フラン(約300億円)の見込み。

人の運転より安全?

 グーグルは、無人走行車を「生活を変えるパワー」と考えている。また、ソフトウェアやセンサー、コンピューター性能は急速に向上しているため、人が運転するよりも無人走行車の方が安全となるのは時間の問題と予想する。

 世界保健機関(WHO)によれば、世界では年間120万人以上が交通事故で死亡し、5000万人が負傷している。しかし、無人走行車が普及すれば運転手のミスが減り、事故で死亡する人数を減らせるとの期待の声が上がっている。

 また、コンピューター制御の内臓型センサーがあれば、交通の流れがスムーズになり、年配者や障害者など、これまで車の所有が難しかった人たちも車が持てるようになるかもしれない。

 問題は、自動車が完全に自動制御になるかどうかだ。自動車がほとんどの決定を下すとしても、運転手がコントロールを保つことは必要だと自動車製造業関係者はみている。

 はたして、小さな子どもがボールを追いかけて道路に飛び出すなどといった緊急事態に、無人走行車は対応できるのだろうか?また、運転手はハンドルの前に座るだけで何もしないということになるが、アクセルを踏みつけ運転を楽しむといったことがなくなってもいいのだろうか?無人走行車をめぐり、これからもさまざまな観点から議論を続けていく必要がありそうだ。

(英語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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