スイスの視点を10言語で

沈黙破る赤十字 中東情勢で非難声明連発

食料と援助物資を運ぶ赤十字車輌を見張るイスラエル兵、ベツレヘムで。 Keystone

世界最大の人道機関・赤十字国際委員会(ICRC)は、中立を原則とし紛争地域や被災地域では援助活動に専念し、政治的な介入はしなかった。が、民間人の多大な犠牲が続くパレスチナ紛争は赤十字の基本政策を転換させ、当事者の人道に対する犯罪の公式非難を行っている。  

ルネ・フェルバー前スイス外相は、パレスチナ情勢が泥沼化した3月以降、赤十字が通常になく国際人道法侵害非難の公式声明を何度か出していることを指摘し、「赤十字は遂に中立から脱却し始めた。」という。今月12日、パレスチナ自治区から帰国したばかりのポール・グロスリーダーICRC事務次長はジュネーブのICRC本部で記者会見を行い、イスラエル軍が攻撃を受けたパレスチナ人救援活動を妨害するだけでなく、ICRCやパレスチナ赤新月社(PRCS)の職員らに両手を頭の上にのせて泥濘に腹ばいにさせられたり、所持品検査と称し裸にしたりと必要もなく辱めていると強く非難した。さらに、グロスリーダー事務次長は、犠牲者のほとんどはパレスチナ民衆だが、イスラエル市民もテロ攻撃の被害者であることを指摘、双方の人道法侵害を批判した。

沈黙を破り発言を始めたことについて、赤十字は、発言は犠牲者のためであること、イスラエル当局との対話が崩壊したこと、そして紛争解決には対話が不可欠であることの、三つの理由をあげる。ヴィンセント・ルッサーICRC中東報道官は、「紛争の全当事者は、それぞれの見解を吹聴し、しばしば我々を攻撃してくる。これらの非難に対しても我々は回答しなければならない。」という。

さらに、ルッサーICRC中東報道官は「報道機関のプレッシャーと紛争の同時中継で、赤十字はより頻繁に発言しなければならなくなった。」と指摘する。対話の重要性を認識したICRCでは、今月末までにインフォメーション・ディレクターを採用する計画で、また、ワシントンの職員1人をキューバ・米グアンタナモ基地に収容されているアルカイダ兵関連の情報処理担当に任命した。

NGO・国境なき医師団のロニー・ブロイマン前委員長は、「パレスチナ紛争の犠牲者を救う残された唯一の方法は、発言することだ。」と赤十字の姿勢を支持する。が、ブロイマン氏は、赤十字は近年各局面では重大な声明を出しており、今回の中東情勢で特に政策を転換したとするのは正しくないと語った。また、アムネスティインターナショナル・スイス支部のダニエル・ボロメー氏は、「中東紛争は昨年9月11日以後起こった事の象徴だ。人道法は大打撃を受けた。我々のような人道機関はこの紛争で厳しい局面に立たされている。」と述べた。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部