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病院食を食べて栄養失調

高年齢の患者は特に、食事を十分取れないでいる。 Keystone

このほど、ジュネーヴ大学が同大学病院の病院食について1,700人の入院患者を対象に調査し、その結果を発表した。退院したら、栄養失調だったというケースもあり、病院の食事は食材、ケアともに改善されなければならないと同調査は指摘している。

病院で出される食事の量は問題ないとしても、食事が困難な人は補助がなければ食べられず、結局残してしまう。食事が問題で、入院期間が長くなってしまうこともあると調査では指摘している。

病院では怪我や病気の治療にあたるばかりではなく、患者の栄養面での面倒を見なくてはいけない。ジュネーヴ大学がこのほど、1,700人の患者に対して行い、以下の通りの結果を発表した。入院患者の5人に1人は既に入院時に栄養失調の兆候があるというが、入院中に十分な食事を取らず、栄養失調になって退院する人もあるという。

3人に1人が栄養失調

 3人に1人が栄養失調のまま退院している。入院中に栄養が行き届かないため、患者の体力が落ち、意識障害に陥ったり、病気に対する抵抗力が下がったりして、その入院期間が延長しているケースも多い。こうした結果になり、調査にあたったクロード・ピカール氏自ら驚いたという。「病院の食事予算は、たとえばフランスでは、1日10フラン(約850円)が相場。スイスはこの4倍だから、すばらしい料理が出てくるはずと思われるだろうが、栄養失調の問題は大きい」と同氏は指摘する。

食欲不振になる理由

 調査結果によると、入院患者の5人に1人は、「美味しくない」、「冷えてしまっている」、「選択肢が少ない」という理由を挙げ、病院食は食べない。また、4人に1人は入院していて食欲が湧かないと訴えている。

 食事そのものの質も問題だが、患者がゆっくり時間を取って食べられないということもある。配膳されてから食器の回収までたったの20分。患者の中には一人で食べることができず、助けの必要な人もいる。「看護婦や患者の介護にあたる人は、患者一人一人の事情を把握していなければならない」と前出のピカール氏。食事は病院の付属的なサービスではなく、治療の一環で、患者に体力をつけさせるものということが忘れられてはいないだろうか。

他の病院の実情

 今回発表された調査は、ジュネーヴ大学付属病院に限っているが、ドイツ語圏の病院を対象にした他の機関による調査でも、病院食の不十分さが患者の健康に影響を与えているという結果が出た。対象となった患者10,268人のうち18%が栄養失調に陥る可能性が高いか既に栄養失調になっている。特に手術後、栄養失調のために他の病気に感染したりする危険も高く、入院期間が長くなるということもありうると調査は訴えている。

 食事内容から食事の出し方まで、病院食の見直しは患者へのサービスの向上ばかりではなく、医療コストを下げることにつながる。

 同調査の結果を踏まえ、ジュネーヴ大学付属病院では9月から食事を見直すことにしたという。日本でも、病院食は嫌われる傾向にあるが、美味しい食事をとるのは「贅沢」ではなく、患者の健康に重要であるというスイスの調査結果を参考にしてほしいものである。

スイス国際放送 エリザベス・メーン(佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

ジュネーヴ大学の調査結果
ジュネーヴ大学付属病院では患者の66%が十分食事をしていない。
3分の1の人が、退院した時に栄養失調。

別の調査によると、2割の人が入院時にすでに栄養失調の兆候が見られるという。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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