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気候変動している、していない?取り組むべき「二つの現実」

Swissinfo 編集部

地球温暖化は現実だ。ところが、それに疑いを持つ人々がいる。ザンクト・ガレン大学教授で政治学者のクラウス・ディングヴェルト氏が、これら気候温暖化の否定論者らに見られる五つのフェーズ(段階)を解説する。

今年発表された地球温暖化に関する主な科学報告書のうち、特に危機感をあおるものが三つあった。一つ目は、10月に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書。地球の平均気温の上昇幅を工業化前の水準より摂氏1.5度に抑えることができれば、多くの問題が回避されるとしている。

同時にこの報告書は、国際社会がパリで合意したはずの目標を急激に見失いつつあると警告する。目標達成のためには、2030年までにCO2排出量を45%削減し、50年までにはネット・ゼロ(正味ゼロ)にする必要がある。しかし、各国ともこのままの経済活動を続けた場合、1.5度上限の実現は2030年から2052年の間にずれ込むだろう。

続いて11月、アメリカ海洋大気庁(NOAA)による全米気候評価が発表された。13の連邦機関が準備したこのアセスメントも、「気候変動は新しいリスクを生み既存の脆弱性に拍車をかけるほか、インフラと財産の大幅な損失を招く」とはっきり結論付けている。

そして3番目が、同じく11月に発表された世界気象機関(WMO)の報告書だ。これによると、観測史上最も高い気温を記録した上位20年はすべて、直近の22年間に起こっている。2018年の地球の平均気温は産業革命前の水準を約1度上回り、温室効果ガス濃度はまたも記録を更新した。

否定論の5フェーズ

以上三つの報告からも、地球温暖化が現実だということが分かる。ところが、これを否定しようとする計画的活動もまた現実に存在し、地球温暖化の原因や影響に関する科学的コンセンサスを失墜させるため陰に陽に動いている。これら気候温暖化否定論者たちは気候学には取り合わず、対策の必要性を否定し続ける一方で、自らの主張を正当化するためならどんな言い分も採用する。

歴史的には、地球温暖化否定論は5段階のフェーズをたどってきた。第1のフェーズにおける主張は、「地球は温暖化していない」というシンプルで分かりやすいもの。ところがこの主張は長くは維持できなかったため、第2フェーズでは「地球温暖化は事実かもしれない。だが、地球の気候は常に変動していたではないか」と、自然的要因が前面に押し出された。地球温暖化は人為的でなく人間の活動のせいにはできない。したがって行動を起こす必要もない、というロジックだ。この第2フェーズの主張を支持する人々はいまだにいる。現職の米大統領もその一人だ。しかし、1850年以降の気温上昇のパターンは、工業化による二酸化炭素排出量との関係でしか説明できないことは、気候学で明らかにされている。

科学的証拠により否定論第2フェーズの主張の土台が危うくなると、第3の主張が登場した。否定論者らは「地球温暖化はあるかもしれない」と譲歩した。「それは人間による二酸化炭素の排出のせいかもしれない」とまで認めた。だが、温暖化のおかげでロシアでもパイナップル栽培が可能になるのならば、そこには代償だけでなく恩恵もあるではないか、そう主張したのである。しかし、この点でも科学は明快だ。IPCC報告や独週刊誌シュテルンによるリポート、ミレニアム生態系評価(MEA)など多数の研究で、人為的気候変動によるコストはいかなる恩恵をも上回ることが繰り返し指摘されている。

コンセンサスの欠如

第4フェーズの否定論者らは、科学そのものを標的にしている。「コンセンサスの不在とディベートは科学にとって不可欠である」という主張を核にキャンペーンを繰り広げ、効果を上げた。だが、この主張はIPCCと気候学を混同している。IPCCは科学的討議の場ではなく、あくまで、気候研究分野におけるコンセンサス、あるいはその欠如について現状の取りまとめを任務とする国際機関なのだ。

IPCCは各国からの依頼を受け、地球温暖化の原因と、温暖化がもたらし得る影響に関し判明していること、および判明していないことについての情報を提供する。

あらゆる科学的取り組みにおいて議論が不可欠なのはもちろんだが、端的に言って、物理学者らが重力の法則に同意しているのに物理学を疑う人は普通いないし、経済学者らが需要と供給、市場価格の間の関連性を一致して認めているのに経済学を疑問視する人も普通はいない。

そこでいよいよ第5フェーズに移る。この段階における主張は、否定論というより懐疑論と呼ぶのがふさわしい。彼らは、気候変動は現実であること、人為的であること、そして悪だということは受け入れるものの、悪とされるものは他にもたくさんあるという理由から、地球温暖化だけを特別視することを認めないのだ。

科学は政治に代われない

この主張は重要なポイントを含んでいる。これが指摘するところはつまり、政治的な関心が数ある中、地球温暖化問題ばかりが注目され、マラリアや生物多様性の損失といった他のグローバルな課題が置き去りになっているという点だ。どの問題の解決を優先するべきか。これは極めて政治的な問いであり、科学には答えられない。

この点は確かに重要だと筆者は考える。科学は政治に取って代わることはできない。地球温暖化に対処するという責任を受け入れることは、他の責任を放棄していいことにはならない。だが、気候変動問題が他の問題と一線を画すのは、これまでに分かったことから考えて、人類が直面する脅威の多くに対し、気候変動が触媒として作用する点だ。例えば、マラリアのような健康リスクが広がったとしても気候変動に大きな影響はない。しかし、地球温暖化が進めばマラリアを始めとした健康リスクはより深刻化する。

この主張が正しいとすれば、気候変動への取り組みは優先されてしかるべきだろう。そうすることにより、かつてオゾンに関する国際会議で米代表団が唱えた、「もし間違うのであれば、用心をしすぎる方向で間違いを犯す方がよい」という考え方に準ずるだけでなく、「プロ」の否定主義者たちが無為無策を正当化するために第6の主張 — 「地球温暖化は現実であり悪であるが、もう打つ手はない」 — を発動することも防げるだろう。

※本記事で表明された見解は筆者のものであり、必ずしもスイスインフォの見解を反映するものではありません。
 

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(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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