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経済効果ない国連加盟

「国連加盟が否決されていたらスイス経済は打撃を受けただろうが、加盟決定に経済効果はない。経済効果のカギはEUとの相互通商協定だ。」。経済問題シンクタンクAvenir Suisseのトーマス・ヘルド・ディレクターは、国連加盟と対EU相互通商協定交渉第2ラウンドの経済効果についてswissinfoに語った。

もしも3月3日の国民投票で国連加盟が否決されていたら、スイスが受ける打撃はイメージ悪化だけではすまなかった、国際貿易上の利益が大きく損なわれたとヘルド氏はいう。反面、加盟可決は経済上大した意味はないという。「国連加盟に関する経済効果は、加盟可決の場合には好影響はなく、否決の場合だけ悪影響がある。国民の中には加盟による悪影響に対する懸念があるかもしれないが、実際には大した変化はない。」。

UBS、ノバルティス、ネスレなど大企業を傘下に持つスイス経済団体連合(Economiesuisse)、スイス経営者団体連盟、スイス貿易協会など財界はこぞって国連加盟支持にまわり、数百万スイスフランをキャンペーンに投入した。「国連加盟可決は政財界の団結の賜物だ。加えて、報道機関、芸術・芸能界、通常政治との関わりを持たない文化・学術界も加盟支持に回った。それにも関わらず投票結果があのような僅差だったことに(賛成54.6%、反対45.4%。州別では賛成12反対11。)私は恐怖感を感じる。」とヘルド氏はいう。

経済効果のカギとなるのは、国連ではなく欧州連合(EU)との相互通商協定交渉第2ラウンドだとヘルド氏はいう。2000年5月21日の国民投票で、農産物取引の規制緩和、陸上交通の自由、航空の自由、人の移動・移住の自由、EU枠内調査研究への全面参加、通商の技術障壁緩和、EUでのスイス企業の公共事業入札参加の一連の対EU相互通商協定が可決された。ヘルド氏は労働力(人)の移動の自由、交通の自由、取引上の規制緩和に関する合意がスイス経済活性化へのカギとなると見る。「最も重要なのは労働力の移動の自由だ。スイスは高い技術と能力を持つ労働力を近隣諸国から容易に獲得できる。スイスに外国人労働者が大量流入しスイス人の職を奪うという主張は間違っている。」。

ヘルド氏は、反クロスボーダー犯罪協定、租税逃避阻止、年金の二重課税、共同安全保障など第1次相互通商協定交渉時に先送りとなった諸問題を含む第2協定の交渉に懸念を示す。「第2次協定がスイス経済に何をもたらすかがわからず、疑念をよんでいる。国民は『第1次協定』が施行されるのを見てから第2次協定の交渉に入るべきだと思っているだろう。」。第2次協定の交渉は、前回よりも厳しいものになるとヘルド氏はいう。ヘルド氏は、スイスはEU加盟国の一員としての視点から国益を考える習慣を身に着けなければならないという。「スイスへの要求が高まってきた今、第2次交渉はタフなリーグとなる。ここでは個々の問題には触れないが、EUでは保護主義やナショナリスト的な国益論が高まっているように見える。」。スイスの金融機関は、EU加盟国民がスイス国内に保有する定期預金への課税問題と銀行秘密保持法に関しては断固死守する決意だ。「スイス金融機関はマネーロンダリングや倫理上の問題に関しては何もするつもりはなく、競争力保持のみ考えているのは明白だ。これからの交渉では、スイスはEU加盟国と一緒に諸問題に立ち向かうという姿勢で臨むことが必要だ。」。

EU側からは第2次協定交渉の即時開始への要請が高まっているが、スイスとしては第1次協定の経済的影響を見定めてからにしたいというのが現状だ。「EUからの圧力は深刻だ。多くのことが問題となっている。スイスは新交渉の規模・複雑性に対処する準備ができていないのではないだろうか。」。ヘルド氏は、スイス側が全面妥協を強いられたドイツ南部領空を飛行するチューリッヒ空港発着便の騒音問題を理由に減便を迫ったドイツとスイスの交渉を例に上げ、新ラウンドの厳しさを指摘した。

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