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繊維協会のファッションショー

11月13日、チューリヒ市の「マーク・イヴェントホール」で「ステラ・ファッションナイト」が開催された Keystone

11月13日にチューリヒで行なわれた「ステラ・ファッションナイト08」で世界から集まった13人の審査員たちは、今年の「スイステキスタイル賞」の受賞者にアメリカのファッションデザイナー姉妹の「ロダルテ ( Rodarte )」を選んだ。

色をぐっと抑えたベージュやグレーの色調でマットな肌触りのものから、純白をベースに黒、パープルをあしらった生地、ニットなども取り入れ、さまざまな肌合いの生地を複雑にカットしたロダルテの作品は軽く波を打ち、まとう女性の肌の上で優しく揺らいだ。

高額の賞金が魅力

 「参加者6人ともレベルが高かった。ロダルテは、コンセプトがあって、クリエイティブ。素材が新しく、それでいてハンドメイドなところもあり丁寧に作っていた」
 と審査員の1人、牛込浩美氏 ( 「オンワード樫山」コーディネーター ) は、ローラさんとケイトさんのマリヴィー姉妹をこう評価した。きらきらした音色のシンセサイザーの曲に合わせたロダルテのショーでは、観客も大きな拍手を持って称賛した。姉妹は約1200万円相当の賞金を手にし「クレイジー!」と一言。その後の言葉が続かなかった。

 マリヴィー姉妹は、姉のケイトさんは大学で美術史を、妹のローラさんは英文学を学んだ、もともとはファッション界の「部外者」である。2005年には故郷の南カリフォルニアのパサデナ ( Padadena ) に戻り、母親の名前から取った名前でブランド「ロダルテ」を立ち上げたという。以後、アメリカのファッション雑誌「ヴォーグ ( Vogue ) 」では表紙を飾り、アメリカのファッションデザイナー委員会は今年、才能賞を授与するなど、早速その才能が認められている。今2人が注目しているテーマは日本だという。

 今年で9回目となるスイス繊維協会の「スイステキスタイル賞 ( Swiss Textile Award) 」にはアメリカ、イギリス、ベルギーそして日本から6人がノミネートされた。ノミネートの条件は、世界の有名プレタポルテショーで作品を発表し、マスコミにも取り上げられたことがあることや、しっかりした販売網があることなど。こうした条件から分かるように、スイステキスタイル賞は、すでにファッション界で活躍し始め、さらなる能力の発揮を期待できる新鋭デザイナーのコンペの場だ。スイステキスタイル賞は10万ユーロ ( 約1200万円 ) という賞金額の高さから、新鋭デザイナーの中でも憧れの賞だ。

 日本人でノミネートされた「TOGA」の古田康子さんは
「スイスで、このように大掛かりで多くの人たちが関わっているファッションショーを開催できることは羨ましいです。個人プレーが多い日本でもこういう場があればと思います」
と語る。TOGAは、メンズ・スーツにフェミニンなオーガンジーをあしらったデザインで「テディボーイ・スタイル」がコンセプトの作品を出品した。審査員の1人であるダニエラ・グルトナー氏は「TOGAは、例えばシャネル風などと表現できない。ほかのものとは違うセンスがある」とそのユニークさを評価したが、今回は残念ながら受賞を逃した。古田さんは
「ここに出られたことで、多くの人たちに自分の作品を見ていただけるのが嬉しい」
 と受賞者の発表前にも語っていた。

新鋭デザイナーへの気長なサポート

 賞金は現金で支払われるのではなく、このうち1万ユーロ ( 120万円 ) はスイス製生地のクーポンとして支払われ、残りは受賞デザイナーの長期的な活動をサポートする目的で、広報、ショーに向けての制作活動、コレクション制作活動などのための資金として支払われる。またノミネートされた残りの5人にも4000ユーロ ( 約50万円 ) 相当のスイス製生地のクーポンが授与された。

 スイスの繊維業界は近年、インテリジェント繊維に力を入れているが、今でもオートクチュールをはじめとする世界のファッション界向けの生地製造が業界の4割を占める。スイス繊維協会は、ファッション界に深く浸透し、スイステキスタイル賞といった新鋭デザイナー垂涎の賞を提供するが、世界に通用する有名ブランドは「アクリス ( AKRIS ) 」の名前が上がる程度。

 グルトナー氏はスイスにおけるファッションデザイナー育成のための「アナベル賞 ( annabelle award」を授与するファッション雑誌「アナベル (annabelle ) 」のファッション・デレクターを務める。
「スイス人は実用主義者が多く、自分のブランドを作って続けていこうとする人は少ない。その上 ( チームワークが必要なファッション界にあって ) 、ドイツ語圏の人はドイツへ、フランス語圏はフランス、イタリア語圏はイタリアとそれぞれが、別の方向を向き、まとまった力として世界のファッション界に挑むことが無い」
 スイスでスター的なデザイナーが生まれないのは、こうしたことが背景にあるという。
「ステラ・ファッションナイトで、アナベル賞を与え続けていくことで、根気を持って、若いスイスのファッションデザイナーの卵を育てていくしかありません」

 今年で5回目となるアナベル賞は、スイスでファッションデザインを学んだ、ドイツ人のユディット・クリングフェルトさん ( 25歳 ) の手に渡った。受賞のごほうびは、ミラノのファッションデザイナー、ミソーニ ( Missoni ) のアトリエでの1年間の修行だ。

 審査員として米人気連続テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」やファッション界を扱った映画「プラダを着た悪魔」の衣装を担当したパトリシア・フィールド氏を招聘 ( しょうへい ) するなど、話題性もたっぷりのステラ・ファッションナイト。スイステキスタイル賞は来年10周年記念に当たる。スイス繊維協会のマックス・R ・フンガービューラー会長は
「ステラ・ファッションナイトをもっと、もっと大きくしたい。そのためにはスポンサーを広く募る」
 と抱負を語った。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

スイスの繊維産業の規模は、2007年の総売上高で見ると22億8000万フラン ( 約1850億円/前年比6.1%増 ) 。アパレル業界なども含める全繊維業界の総売上高は43億4000万フラン ( 約3527億円/同5.%増 ) に上る。また、輸出額は44億1000万フラン ( 約3584億円/同5.1%増 ) で、その7割以上が欧州連合 ( EU ) 向けで占められている。
国内総生産 (GDP) がスイスの10倍に上る日本の繊維業界の規模は売上総額で約2兆6000億円。
( Textinationのサイトなどから ) 

2000年から毎年、新鋭ファッションデザイナーに授与されている。当初はスイス人のデザイナーに賞を与えていたが、2002年からは国境を取り外し海外の新鋭デザイナーも対象とするようになった。以来、ベルギーのデザイナー4人、フランス、イギリスが各1人受賞した。賞金は10万ユーロ ( 約1200万円 ) で、主催者によると同等のファッション賞の中では最高額だという。賞金は現金ではなく、1万ユーロ ( 約120万円 ) はスイス製の生地のクーポンとして支払われ、残りは受賞デザイナーの長期的な活動をサポートする目的で、広報、ショーに向けての制作活動、コレクション制作活動などのための資金として支払われる。またノミネートされた残りの5人にも4000ユーロ ( 約50万円 ) 相当のスイス製生地のクーポンが授与される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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