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美術品のお土産が盗品だった

アンコールワットでは盗掘が盛んに行われ、寺院が大きく破壊されてしまっている。 Unesco

旅行先で買った骨董の美術品が実は盗掘品であった場合、買った人が大きな問題を抱えることもありうる。開発途上国の援助を行うNGO、ベルンの啓蒙(EvB)は、市場に出回っている骨董品をお土産として買うことには危険が伴うと訴えている。

市場に出まわっているものの中には、世界的な遺産として希少価値がある物もある。旅行先で、こうした骨董品を記念に家に持って帰ろうと軽い気持ちで購入すると、これが違法行為につながる可能性がある。

旅行に出たらお土産を買うのは普通のこと。しかし、露店で売られている骨董品の像やモザイク画など、これらが盗掘されたものであることも多い。オリジナルだと言われると、益々手に入れたくなるのが人情だが、盗掘品を購入することは違法であり、盗まれたものではなくとも、骨董品を国外に持ち出すことを厳しく取り締まる国も多くあることを知っている人は少ない。開発途上国の援助活動をしているNGO団体・ベルンの啓蒙(EvB)は、このほど、アフリカ、アジア、南米などでの骨董品購入についての危険性を訴えるキャンペーンを始めた。

危険な骨董品に手を出さないコツ

 EvBのキャンペーン担当者であるクラウディア・ベース氏は「骨董品かどうかが分からなかったり、盗掘品かどうかも判断できなかったり、レプリカなのかオリジナルなのかも分からないで、お土産を買うべきではない。疑問があれば売っている店に出所を聞くべきだ」と、旅行先では自分が何を買ったのかはっきり認識することの重要性を訴えた。出所を知るためには骨董品店に、その品を店に売った人の代金受取証などを提示させるのが良い。美術品に泥がついていたり、切取った跡や引掻き傷などがあったら、盗掘された可能性が高く、手を出さない方が無難。レプリカでも「お土産として十分記念になるはず」と同氏は語る。

 オリジナルの骨董品を買った場合は、その国の輸出規制と照らし合わせ、合法かどうかを調べる必要がある。例えば、アフリカのマリからは一切テラコッタの像は持ち出せない。 

 2005年からは骨董品の取り引きについての国際条約が発効となり、骨董品のスイスへの輸入も規制が厳しくなる。購入を証明する書類をスイス通関で提示し、美術品の出所は記録されなければ、スイス国内への持ち込みはできなくなる。これまでは、スイスは美術品の輸出入には寛大で、盗まれた美術品が簡単に手に入るとさえ言われていた。

罰則も厳しくなる

 盗品を知らずに買ってしまった旅行者は、スイスに「お土産」を持ち込む前に購入した国の税関で、いろいろ厄介な問題に直面する可能性も高い。例えばトルコから骨董品を持ち出そうとして見つかった場合などは、最高10年間の禁固刑になることもある。ほかの国でも美術品の持ち出しについては、厳しい罰則を科すところが多い。

 フランチェスカ・ジェムネッティ・ユネスコ委員会会長は、スイスの旅行者は他国の文化を尊重することついては、敏感と評価する。

遺跡は破壊されれば復元は不可能

 前出のEvBのクラウディア・ベース氏は、「遺跡は、破壊されれば復元は不可能である。文化遺産はその文化に所属する民族の自信やアイデンティティーにかかわるものである」と言う。

 また、遺跡が破壊されてしまうと、その土地の経済にマイナスの影響を与えることも考えられる。ペルーのマチャピチュ遺跡、アンコールワットの遺跡などの例に見るように、世界でも貴重な文化遺産を展示することで、その土地の観光関連企業が潤うということもあるからだ。

 観光業ばかりではなく、その国が持っている文化遺産を外国の美術館などで展示して貰えば、多額の借用金が支払われる。現在、バーゼルで開催されているツタンカーメン・エジプト展を例に取ると、バーゼルの古代博物館はカイロ美術館に500万フラン(約4億2,500万円)を支払ったと言われている。

スイス国際放送 エティエン・シュトレーベル (佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳)

アフリカのマリでは7割の遺跡が破壊されている。
中国では、年間骨董品2万件が盗まれている。
国際博物館協会(グアテマラ)によると、過去2年間にキリスト教教会と修道院から盗まれた美術品の数は255点。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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