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自由貿易で得るものなし

NGOによると、自由貿易協定で途上国の農民に得るものはない Keystone

スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの4カ国が加盟している欧州自由貿易連合(EFTA)。この連合が途上国と結ぶ2国間自由貿易協定が、NGOから激しい批判を受けている。

同協定で、特に途上国を苦しめるといわれているのが厳しい知的所有権の内容と市場の自由化だ。

 NGO「ベルン宣言」とタイやインドネシアなどの途上国の市民団体は共同で、スイス連邦議会と連邦経済省にEFTAについて懸念を表明する文書を送った。

経済利益優先に疑問

 EFTAに加盟しているのはスイスの他にノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインと計4カ国。今年1月にタイと自由貿易合意に向け公式協議を開始し、インドネシアとも事前調整を行っている。

 しかし、ベルン宣言によると、EFTAと両国の自由貿易協定が実際に締結されれば、経済利益が優先され、それが人口や公共保健、農民や開発にどんな影響を与えるか、などということが軽視されるという。

 ベルン宣言のジュリエン・ラインハルト氏は「EFTAはもっと現場に応じたアプローチを考えるべきです。それぞれ国の事情が違うのですから、それを考慮しなければなりません。また、協定締結の交渉は、密室で行われるのではなく、もっと透明性を持たなければなりません」と語る。

 「これまで我々は、途上国からいつも同じ要請が繰り返されたり、ひどい時は要請が増えたりしてきたのを見てきました。これは非常に問題で、このような状況は改善されるべきだと思います」

 ベルン宣言は、このためにはスイス外務省開発協力局(SDC)がより大きな役割を果たすべきだとしている。

エイズ患者に薬が届くのが遅れる

 複数のNGOは、タイとEFTAの自由貿易協定に含まれる厳格な知的所有権基準について警笛を鳴らしている。彼らによれば、この基準は世界貿易機構(WTO)で定められているより厳しくなる。タイの国立チュラロンコーン大学の薬科学学部、ジラポルン・リンパナノント助教授が一例を挙げる。「EFTAの規定ですと、医薬品の特許有効期限が、従来よりも最長5年間も延長されています」

 同教授によると、もしこの協定が発効すれば、医薬品が安く一般の人の手に入るのが遅れるばかりか、その国の医薬品開発に対する障害となる。これはタイのように56万人ものHIV良性やエイズ患者を抱える国にとっては深刻な事態だ。

 「EFTAの内容をそのまま実行すれば、多くの人々は薬を手に入れるまでより長く待たされ、苦しむことになります」と同教授は心配する。インドネシアとEFTAとの自由貿易協定については、すでにNGOの間で「この条項は完全に排除されるべきだ」と合意されている。

 インドネシアの国際正義研究所(Institute for Global Justice)のアレクサンダー・チャンドラ氏は、「これまでの経験から言って、2国間貿易協定を結んで先進国との貿易を自由化しても、私たちの国の工業及び農業分野は輸入品にとても対抗できません」と言う。人々は、自国製品よりも質の良い外国製品を買い、結局は自国産業が打撃を受ける。

 「EFTAは4つの豊かな国で構成されています。私たちが貿易で競争できる相手ではありません。私たちがこうむるのは損ばかりです。私たちがお願いしたいのは、もっと時間をかけて自分たちの産業を育てていきたいということです。そうすれば、自由貿易の中でも同じ立場で競争できると思うのです」

スイス政府の反論

 スイス連邦経済省事務局は、「途上国の人々の意思を無視している」という批判に対し、強く反論した。また、EFTA課のクリスチャン・エッテル課長は、スイスインフォの取材に対し、「自由貿易協定のせいで、医薬品が安く人々の手に届くことが遅れるなんてことはありません」と批判を一蹴する。

「これは既存のWTO合意にかなったものです」と課長は言う。しかし同時に、特恵貿易協定の一つについては、WTOの最低基準を超えることも認めた。「けれども、これは全ての当事国に有益であるからこそ、合意に至ったのです。そうでなければ、合意にこぎつけられるわけはありません」

swissinfo、アダム・ボーモン 遊佐弘美(ゆさ ひろみ)意訳

‐EFTAは、1960年に発足した。

‐加盟国間における貿易障壁を撤廃し、貿易の自由化を目標としている。

‐現在公式交渉の席についているのは、タイ、エジプト、カナダ。事前協議を行っているのはインドネシア、アルジェリア、湾岸諸国、日本、ロシア。

EFTA域内の総人口は1240万人、域内GDPは6200億ドル(約71兆円)、平均失業率は4.2%。
EFTAの貿易は、世界の第9位。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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