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芸術の秋 犬も優雅にダンシング

主催者のプリニオ氏と愛犬グライド君、一緒にダンシング Blanco's Photos

飼い主の一挙一動を見逃さないようじっと見つめている犬。その犬に飼い主は踊りながら動きの指示を出し、それに合わせて犬も「踊る」。10月18日、19日の両日「第2回国際ドッグダンシング、スイスフランス語圏地区大会」がローザンヌで開催された。

ドッグダンシングでは動物と人間のハーモニーが一番大切だという。発祥の地はイギリス。およそ20年前に始まり、その後アメリカ、ドイツ、スイスなどに広まった。ドッグダンシングは障害物競走と同様、数カ月の基本的な躾 ( しつけ ) の後の一つの楽しみとしての訓練だ。今大会には、ドイツ、チェコなど6カ国から110組が参加した

犬は1匹では踊らない

 「犬がまるで馬のように左右の足を交互に出し、しなを作りながら前進している。あれをやらせるには時間がかかったにちがいない。見たことがないテクニックだ」
と、第3クラスのボーダーコリー犬の動きを見ながら、興奮気味に語るのは大会の開催者ブラチェリ・プリニオ氏だ。

 コンクールでは、振り付け、カップルの調和などの芸術面と、安定した動き、バランスなどの技術面に従って採点された、昨年の総合点からクラスを1から3に分け競技を行なう。長くて3分間の曲に乗り、犬は飼い主の足の間をすり抜けたり、ステッキなどの棒を飛び超えたり、後ろ足で立ったり、独自にUターンしたり、1回転したりする。

 しかし、こうしたダンスを犬は音楽が鳴り出したからといって、率先して踊り出しはしない。プリニオ氏によれば、犬は自分の曲を認識しているが、人間のように音楽に乗りダンスを楽しむ訳ではない。躾教育と同様、あくまで飼い主が犬の好きな動きを利用して回転、ジャンプなどの命令を出し、それに従うと飼い主が喜ぶのでそれを犬も喜ぶ、あるいは単に、踊った後のえさのご褒美が目当てということだ。

 第3クラスでは、さすがに飼い主の指先などによる微妙な指示を、真剣に見つめ集中力ある犬のみだが、第1クラスでは、途中で周囲に気を取られほえだしたり、あらぬ方向を見て何もしない犬もいたりする。

 犬の種類や性格によって、ダンスができる犬とできない犬がいるのではと聞くと、
「いや、ちがう。すべての犬がドッグダンシングをやれる。犬ではなく飼い主のモチベーションの問題だ」
 とプリニオ氏は言う。わずか1年でコンクールに優勝する犬もいれば、飼い主のモチベーションが低く、3年たっても何も理解しない犬もいる。また、もともと器用なボーダーコリー犬が3割近くを占めるが、ドッグダンシングほど多様な犬が参加する競技はなく、従って犬の種類ではなく、あくまで飼い主がいかに指導するかだと力説する。

優勝したルーチェとクリスティーネさん

 ハンガリーの猟犬種「ビズラ犬」のルーチェが、折りしも差し込んだ夕暮れの光にその茶色の毛を輝かせ、白髪のショートヘアーに青一色の衣装をまとったクリスティーネさんと現れたとき、観客席は一瞬シーンとした。芸術的な評価には、衣装や色の組み合わせも大きな得点になる。

 夢の中に誘い込むようなオペラの名曲「タイスの瞑想曲」がゆっくりと流れ出すと、犬と人は優雅に、決して派手なジャンプなどはないのだが、リズムに乗って青いリボンを使いながら流れるように一つ一つの動きをこなしていった。

 「3人の審判が全員一致で、ルーチェとクリスティーネさんを第3クラスの優勝者に決めた。特別複雑な技術はなかったが、カップルのハーモニーある動き、振り付けの優雅さと表現力、音楽の選択と解釈、ルーチェのモチベーションなど、すべてが完璧だった。ドッグダンシングのあるべき姿を体現していた」
 と審判員の1人、ジャッキー・ボルホードさんは手放しで賞賛した。

 65歳のクリスティーネさんは、現役のときはアイススケートの選手で振り付けも指導していたという。
「ドッグダンシングを始めたのは4年前で、この曲の振り付けを考え出したのは1年前。週に3回のリズムで練習をしてきたが、ルーチェとのチームプレイはとても楽しい」 
 と優勝の喜びを語った。

 クリスティーネさんは自分を鍛えるため、週1回はかかさず、クラシックダンスを2時間踊るという。ドッグダンシングでは、「飼い主のモチベーションがキーポイント」というプリニオ氏の意見を裏付ける発言だった。

swissinfo、ローザンヌにて 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 

スイスではおよそ10年ほど前からドッグダンシングが導入され、スイスドイツ語圏のヴィンタートゥール市で7年前から国際コンクールが開催されるようになった。フランス語圏では、ブラチェリ・プリニオ氏が中心となって「国際ドッグダンシング、スイスフランス語圏地区大会」を2年前からスタートさせた。

昨年はジュネーブで、今年はローザンヌの大規模なペットサロン「アニマリア ( animalia ) 」の会場の一角で行なわれたが、あくまでアニマリアとは独立した大会。

昨年は3カ国から40組が参加し、今年はドイツ、チェコ、イタリア、フランスなど6カ国から110組が参加した。

スイスフランス語圏のドッグダンシングは「テンポレクレア ( temporecrea ) 」が組織している。

犬と飼い主は、一昨年の得点に従ってクラス1、クラス2、クラス3に分かれ、競技する。以下のように芸術的面と技術面という2つのカテゴリーに分け採点される。

1.芸術的面 総点100

振り付け ( 創作力、多様性 ) 、ダイナミズム ( リズムに乗ったバリエーッション、表現、曲の解釈 ) 、コンセプト ( 曲の選択、発想、実現 ) 、犬と飼い主のカップルとしての動き ( カップルの調和、犬のモチベーション、飼い主の指導性 ) 、以上の4分野で各々25点。

2.技術面 総点100

技術 ( 正確さ、安定、指示の確かさ ) 、内容 ( 動きの数、バランス、バリエーション ) 、困難さ( 動き、犬と飼い主のインターアクション ) 、流れ ( 流れるような動き、各動きの移行のスムーズさ ) 、以上の4分野で各々25点。

また、ダンスしているときに極端にほえたら最高20点、飼い主が手で押して動作をさせたら最高60点、ふさわしくない衣装、アクセサリーをつけていたら最高30点の減点もある。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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