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違法入国者に対する取り締まり強化へ

国境と国内での対外国人取り締まりの強化が提案されたが、果たしてどれほどの効果をもたらすのか。 Keystone

違法にスイスへ入国する人が、国内で犯罪事件にかかわったり、労働に違法に従事することが多く、国の負担になっている。このほど、警察司法省の依頼による調査報告でこのような結果が出た。

同調査報告では違法入国者に対する取締り方法の提案もなされた。これに対しては懐疑的な意見も聞かれるが、取り締まりの強化を進める外国人関連の法案が秋にも成立の見込み。現在スイスの世論は、違法滞在者に対して厳しい方向へ傾いているようだ。

このほど発表になった違法入国者問題に関する調査によると、国内に違法滞在する人の数は5万人とも30万人とも見られる。また、違法に労働に従事している人の数は9万人に上り、10年前の3倍にあたる。スイスは、労働賃金と社会保障が充実しているという面から魅力的な国である。農業、ホテル・レストラン業、建築業などは特に、労働法を無視し安価な労働力に頼る傾向があり、違法滞在者への労働の提供源となっている。

法務省の依頼による調査

 連邦入国・同化・出国局、連邦難民局、連邦警察、連邦関税局の難民・移民に関係する4つの当局の代表で調査団が結成され、違法入国者の実態の全容が初めて調べられた。同調査報告の中では、違法滞在者の実態のほか、これに対する取り締まり方法についての提案もされた。

 提案として、難民に対する対応を一貫することや、受け入れを拒否された難民の強制出国措置を徹底し、社会保障もストップすることなどが挙げられた。

取り締まり強化か同化促進か?

 さらに、国境での入国者の管理や、国内での外国人に対する取締りの強化の必要性も指摘された。外国人証明書も偽造されにくい技術を使ったものを発行し、飛行機会社からの入国者の情報や出身国での犯罪歴の情報を自動的に当局が入手できるシステムを導入することも提案された。

 同調査の依頼主である警察司法大臣は、難民受け入れに消極的な国民党出身のクリストフ・ブロッハー氏である。パスポートを紛失し身分が証明できない外国人滞在者を保護する団体の弁護士であるジャンミシェル・ドリヴォ氏は、「ブロッハー氏は国民党の後押しを背景に、移民や外国人を悪者にしようとしてきた張本人だ。いまは警察司法大臣として、国家の名において同じ事をしようとしている」と、調査が提案する外国人に対する管理の強化に批判的である。

 スイス移民援助団体のユルク・シェルテンライブ広報担当は同報告書を批判し、「外国人はすべて違法者であるという立場で、偏ったものである。外国人をスイス社会へ同化させるようにするといった提案はまったく見られない」と言う。しかし、これは一部の意見のようだ。

 議会では現在、難民法、外国人法、違法労働法の立法に向けて審議中である。以上の3つの法律は、取り締まりと罰則が現行法より強化される内容で、秋には成立の見込みである。

 スイス人にとって、スイス国内の安全が最も望まれることであろう。犯罪に関連することが多いとされる違法滞在者の取締りを厳しくするのがより効果的か、外国人のスイス社会への同化を促進する方が良いのか。難民と犯罪の問題に関してスイスでは、常に二つの意見の対立があったが、最近は取り締まりの強化を支持する傾向が強くなってきているようだ。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳 

スイス国内にいる違法滞在者数は5万人から30万人と見られる。

違法労働者は9万人と見られる。

違法難民入国者数は年間2万人。

国境で入国を拒否される人の数は年間10万人。

2003年に検挙された違法滞在は8,200人。 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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