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コロナで在宅勤務、雇用主は家賃の補助が必要?

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新型コロナ危機を受け、スイスでも在宅勤務が増えている Keystone

新型コロナウイルス危機により急増した在宅勤務を巡り、法律的な問題が浮上している。スイス連邦裁判所(最高裁)は4月、在宅勤務が雇用主によって義務付けられた場合は雇用主が従業員の家賃を補助しなければならないとの判決を下した。これは2019年の提訴に対する判決だったが、どこまで適用される原則なのだろうか?

「この判決は主に、企業や雇用主が(従業員に対して)負う責任はテレワークにおいても生じることを示したものだ」。スイス最大の労働組合ウニアの健康・安全担当クリスティーネ・ミヒェル書記長はこう話す。「雇用主は従業員の健康に責任を負い、人間工学的に働く環境が整っていること、休憩を取れること、労働時間が守られていることを保証しなければならない。(テレワークを)コスト削減策にしてはならない」

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「企業は在宅勤務社員の家賃補助を」裁判所が判断

このコンテンツが公開されたのは、 ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、スイス連邦裁判所(最高裁)が、従業員に在宅勤務の必要性が生じた場合、雇用主は家賃の一部を補助しなければならないとする決定を出したと報じた。

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swissinfo.chは労働法に詳しいバーゼル大学のクルト・ペルリ外部リンク教授とザンクト・ガレン大学のトーマス・ガイザー教授に、この判決や新型コロナ危機における在宅勤務をめぐる法的問題について話を聞いた。

swissinfo.ch:多くの人が政府や雇用主から在宅勤務を命じられているこのコロナ危機のさなかに、この判決が出たことの意味は何ですか?

カート・ペルリ:最高裁はこの判決で、雇用主は従業員の家の仕事部屋に当たる家賃を共同で支払わなければならないと明確にした。これに契約上の合意は必要ない。家賃の支払い義務は、スイスの労働契約法第327条に規定されている。企業内の職場が使える状態で、在宅勤務を従業員側が希望した場合は、雇用主に支払い義務はないことに注意が必要だ。

深刻な危機が原因で従業員が一時的に在宅で働いているだけなら、雇用主が家賃を負担する義務があるケースはほとんどない。従業員が在宅勤務のために部屋を追加的に借りる必要がある場合や、例えば通常は他人に貸し出している仕事部屋を自分が使わなければならなくなった場合は事情が異なる。

判決はこの個別案件についてのみ拘束力がある。だが雇用主の求めに応じ、一時的に留まらず永続的に在宅で働く従業員は誰しも、雇用主に補償を請求できる。

トーマス・ガイザー:今のところ、スイス政府は国民に在宅勤務を強制しているわけではないため、少し微妙な状況だ。連邦内閣の決定は、リスクの高い一部の人々に在宅勤務を推奨している。何らかの理由で在宅勤務ができない場合は、連邦保健庁の勧告に基づいて衛生ルールが守られていれば、雇用主は現場で働くよう従業員に求めることができる。

この1~2カ月分について従業員が雇用主に家賃の支払いを要求できるかどうかは、そう判然としていない。個別の状況によって異なる。

swissinfo.ch:雇用主からの家賃手当はどのように決められているのですか?

ペルリ:在宅勤務の手配については雇用契約で定めることが強く推奨され、多くの場合は定めている。取り決めるべき項目は、家賃、インターネット接続料金、プリンター用紙代のほか、必要があればオフィスチェアや同類のものの購入費用だ。契約で決められていない場合、スイス債務法典外部リンク第327条がこれを規定しており、仕事に必要な費用は雇用主が負担しなければならない。

原則として、雇用主が従業員に在宅勤務の環境整備を依頼することを決めた場合、そして会社に十分な業務スペースがない場合、雇用主は在宅勤務にかかる費用を支払う必要がある。

ガイサー:常に、他人に何かを頼む側がそれにかかる費用を負担する。雇用者は従業員にどんな費用が生じているか原則として知っていなければならないため、雇用契約で一定の金額を定めておくのは確かに有効だ。そうでなければ、会社が経済的に計算できなくなってしまう。

swissinfo.ch:金額はどのように決定されますか?

ペルリ:原則として、作業スペースを私的にも使える場合は、費用は分担する必要がある。今回の最高裁判決もこの原則が適用された。

ガイザー:ここに本当の問題がある。これは当事者が共に議論して解決策を見つけなければならない。

また当然のこととして、仕事にふさわしい環境や従業員の職位にも関わってくる。例えばプログラマーは、自宅でクライアントを接待しなければならない人とは異なる作業環境が必要なのは明らかだ。

swissinfo.ch:それは会社が在宅勤務を認めたくなるかどうかに影響するのではありませんか?

ペルリ:そうは思わない。多くの企業では、(勤務時間の一部を)在宅で働くことが既に可能だ。これは会社で必要な職場スペースの大きさに影響する。コロナ危機で在宅勤務が増えたことにより、こうした実務はどんどん広がっていくだろう。法律は、その費用が一方的に従業員に押し付けられることはないと保証するための枠組みを提供している。

swissinfo.ch:雇用主は在宅勤務中の従業員の生産性をどのように確保していますか?

ペルリ:雇用主は労働法に基づき、在宅勤務をする従業員も含め労働時間を監視できる。在宅勤務中も、労働法に定められている夜間や日曜日の労働の禁止に違反してはならない。

在宅勤務は、雇用主と従業員双方にとってリスクとなる。雇用主にとっては、従業員の自宅では企業データの機密が保持されないという特殊なリスクがある。この点、従業員は特に慎重にならなければならない。従業員にとっては、在宅勤務により仕事だけではなく私的な活動も雇用主に監視される危険がある。これについては明確な契約上の取り決めが求められる。

ガイザー:会社や雇用主のために従業員が拘束された時間は全て、労働時間としてカウントされる。会社の敷地内で働いているなら、その人が自分の仕事をしているのか、それとも新聞を読んでいるのかという問題も出てくる。家で仕事をする場合はそのような行動を管理できず、オフィスにいれば管理できるという印象を常に持たれているが、それは間違いだ。

swissinfo.ch:従業員は国外で在宅勤務できますか?

ペルリ:保険をめぐる法律問題が起きる可能性があり、微妙な問題だ。従業員が欧州連合(EU)・欧州自由貿易連合(EFTA)国民や、EU・EFTAに住むスイス国籍者、または在宅勤務割合が25%を超える場合は、居住する国の社会保障法が適用され、スイスの雇用主はその国で保険料を納めなければならない。このため国境を越えた雇用関係が結ばれた場合、在宅勤務の割合を25%以下に制限することが必要になる場合がある。

だが越境労働者がコロナ危機で一時的に在宅勤務した場合、社会保障上の従属関係には変化をもたらさなかった。通常運行で在宅勤務の割合が25%を超える人に限り、社会保障に関する地位が変わってくる。

在宅勤務に対する雇用主の見解

スイス雇用主連盟(SAV/USI)外部リンクは多くの場合、従業員は固定の職場を自由に使えるとの見解を示している。在宅勤務はオフィスでの作業を補うことができ、通常は従業員に追加的な費用は発生しない。ただし従業員が雇用主との同意に基づき、仕事をするための設備や道具を提供した場合、補償についても取り決めることができる。これは現在のコロナ危機でも当てはまる、としている。

同連盟は全ての仕事が在宅勤務でこなせるわけではないと指摘している。

スイス連邦経済管轄庁(SECO)は、在宅勤務における雇用主と従業員の権利・義務関係について解説書を作成している。

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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