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海外在住の日本人 老後にどんな不安を感じている?

高齢者
老いは皆に訪れる。だからこそ、穏やかに、そして楽しい老後を迎えたい © Keystone / Gaetan Bally

世界には135万人の日本人が国外で暮らす。かつて高齢者が住みやすいランキング1位に輝いたスイスであっても、日本人にとっては全くの異国の地。海外に住む日本人たちは、老後に関してどんな不安を抱えているのだろうか。

日本から約9600キロ離れたスイスには、約1万人の日本人が住む(日本外務省統計外部リンク)。そのうち永住者は5580人(うち女性が3763人)だ。スイスインフォでは今回、現地在住の日本人に老後に関する意識調査を実施。約140人から回答があった。

スイスインフォは6月下旬、チューリヒの日本人共助団体ケアチームジャパン外部リンク、ベルン日本人会、ソーシャルメディア、スイス在住の日本人ネットワークを通じ「老後の意識調査」を実施。142人(女性91.2%、男性8.8%)から回答を得た。

回答者の居住地はドイツ語圏85%、フランス語圏14%、イタリア語圏0.7%。主な年齢層は40代が35%、50代が30%、60代が12%だった。94%が永住目的の滞在で、駐在は2%。

言葉の壁

回答者の9割が女性で、スイス移住の理由の7割近くが国際結婚だ。半数以上が仕事を持ち収入を得ているとはいえ、やはり外国人という立場から「(スイス人の)配偶者に先立たれたらどうするか」という不安が目立った。制度や文化の違いも重なり、遺言や法律関係に不安を感じる人も多い。

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スイスは日本と社会保障協定を結び、保険料の掛け捨てがなくなるなどの利点はある。ただドイツ語圏に住む50代の女性会社員(既婚)は「持ち家もなく、スイスの年金や個人年金だけで暮らしていけるのかがとても不安」と明かす。スイスの物価の高さを案じる人も複数いた。

在住10年未満の女性会社員(30代、既婚)は「私のスイスドイツ語の理解度が低く、年老いた際にやっていける自信がない」。50代の自営業女性(既婚)は「スイス国籍を持たない自分がスイス国籍者と同じ待遇や社会保障が得られるのかが心配」と語る。

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日本に残してきた家族の介護をどうしたらいいのか、という声も顕著だ。フランス語圏の男性会社員(既婚)は「両親、義両親が高齢で、介護の話題は避けられない状況。お互いに離れた場所に住んでいるので、日本の家族にどういう支援ができるかという点はいつも不安」と明かす。

老後の備えについては6割近くの人が「特に何もしていない」と答えたが、漠然とした不安を感じている人は多い。スイスに長く住んでいる人でも、法律や医療を現地語で十分理解できるレベルの語学力を持つ人は回答者の15%ほどで「老後のことを相談できる日本語の窓口が欲しい」「法律や制度・手続きに関する情報が日本語で入手出来たら便利」という意見が目立った。

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将来、日本かスイスかどちらで老後を過ごすかは「まだ分からない」という人が半数近くに上った(約45%)が、スイスに残ったとしても「日系の老人ホームがもしあれば入りたい」と希望する人が目立った。

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ただチューリヒにある日本人の相互支援団体ケアチームジャパンによると、スイス国内には現在、日本人専用の老人ホームはない。このため「スイスに住む日本人が協力しあって介護サービスや介護アパートが運営できれば心強い」「友人と共同生活する」「外国語ばかりだとストレス。日本語でつながった高齢者クラブがあればいい」という人もいた。

言葉も文化も全く違う異国で暮らすからこそ、年老いたときに自分たちで助け合いたいー。そうして2002年に立ち上がったのが、チューリヒの非営利団体ケアチームジャパンだ。

きっかけは、同州在住の代表鈴木桂さん(57)の日本に住む母親が63歳で心筋梗塞にかかり急逝したことだった。鈴木さんは「今は元気でもこの先どうなるかわからない。そういう時に助け合える環境を作りたい」と友人らに声をかけ、発足した。

当初は老後の支えあいが目的だったが、離婚・法律相談など活動範囲は生活全般に及ぶ。会員は発足時の約15人から130人ほどに増え、ジュネーブにも支部がある。今年は1年間の休会期間を設けた。メンバーは「発足時とは時代が変わり、組織の存在意義を再考する時期に来ている」と語る。

日本の味

年を取れば、食べ慣れたものが恋しくなるのが人の常。希望する介護サービスでは、「日本語」よりも「日本食」が大幅に上回った。「パンやソーセージなど脂っこい食事を年を取ってからも食べたくない」「和食配達サービスが週1、2回でもあればうれしい」という声が目立つ。

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自ら備えを

こうしたニーズはスイスの日本人共助団体も認識している。ケアチームジャパンが日本のNPO法人と連携して行っているのが、日本にいる家族の「遠距離介護」サービス外部リンクだ。役員の女性(56)も10年ほど前、東京で暮らす母親が腰の手術を受けたとき、退院後の身の回りの世話にサービスを利用し「とても助かった」と話す。

 政府統計外部リンクによると、在外日本人の総数(2017年10月1日現在)は135万1970人で、前年より1万3493人(約1%)増加し、統計が残る1968年以降最多を記録。男女別では、男性が64万6787人(約48%)、女性が70万5183人(約52%)で、1999年以降一貫して女性が男性を上回る。

このうち「長期滞在者」(3カ月以上の海外在留者のうち、いずれ日本に戻る予定の人)は86万7820人(同2229人減)で在留邦人全体の約64%を占め、「永住者」(永住権を持ち生活の本拠を滞在国へ移 した人)は48万4150人(同1万5722人増)だった。

スイスの在外邦人数は1万827人(同2%増)で国別で21番目に多い。永住者は5580人(同4.4%増)で11番目に多い。最多は米国の19万2766人(同2.6%増)。

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ケアチームジャパン副代表で看護師のリッチャー美津子さん(53)はスイスの介護施設で働くかたわら、各地で認知症についての講演や認知症サポーター養成講座外部リンクを開いている。リッチャーさんは「外国に住む私たちが認知症を患った時の不安や恐怖はとてつもないものがあり、実際に相談をよく受ける。自分や日本の家族が認知症になった場合にどうしたらよいか、スイスの施設はどんなものかを知ることが必要」と訴える。

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