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どこまで任せられる? AI投票

投票センターの女性
人工知能(AI)による投票システムがあれば、投票箱は過去の遺物になるかもしれない Keystone / David Goldman

人工知能(AI)を使った民主主義のあり方とは?AIはどこまで民主主義プロセスに関与して良いか、ジュネーブ大学の研究グループが市民の意見を募っている。

AIに自分の1票を託せというのは少し無理がある。特に年に数回も国民投票があり、有権者が重要な案件を判断するスイスのような直接民主制の国ではなおさらだ。

ジュネーブ大学の研究グループはまさにこの、民主主義プロセスにおけるAIの役割というデリケートな問題に取り組んでいる。

同大講師・研究員で同プロジェクトのメンバー、ジェローム・デュベリ氏は今月初め、仏語圏スイス公共放送(RTS)に「現実世界をモデル化するために使われるAIシステムは既に存在する。しかし数年後には、同じモデリングで思考回路を、つまり全てを人工的に作り出すことも可能になるだろう」と語った。

市民が「デジタルツイン」に頼り民主的な意思決定を行うという「拡張型民主主義」の考え方は、新しいものではない。学者で起業家のセザー・ヒダルゴ氏は2018年、様々な分野の専門家がプレゼンテーションを公開する「TED talk外部リンク」で、既にこの考え方を紹介している。

同氏の見解はこうだ。今日、車の道案内やおすすめの音楽の選曲をアルゴリズムに任せている人は明日にでも、選挙で選ばれた議員が作った法律の是非を判断するのにアルゴリズムを頼るかもしれない。最終的にはアルゴリズムに直接、法律の作成を任せるようになる可能性だってある、という。

デュベリ氏は「人間の考え方や投票方法において、完全に信頼できる忠実なAIがあれば、国会は本当に必要なのかどうかという問いかけにも行き着く」と話す。

有権者向けのAIガイダンスは既に現実化されている。英BBCの報道外部リンクによると、19年に数十万人の欧州連合(EU)有権者が、シンクタンクVote Watch Europeが開発したツールを使って欧州議会議員選挙の候補者とのマッチングを行った。アルゴリズムを機能させるために、ユーザーは過去のEU議会の決定に関する質問に答えるという手法が取られた。同様のツールは昨年の米国大統領選でも作られ、有権者は候補者選びに活用した。

ただ、ツールに差別や偏見が含まれる可能性を同氏は懸念する。「AIプログラムはアルゴリズムに基づく。これらのアルゴリズムは人間が書いたものだが、その多くは先進国の白人男性であることが多い」

AIと民主主義プロセスに関する専門家との意見交換を経て、ジュネーブ大のプロジェクトは今月、一般公開された。AIは投票でどのような役割を果たすべきか、市民の意見を募っている外部リンク

ウェブサイトに用意された回答は「市民の判断を助ける」というむしろ保守的なものから「(AIが)投票する」という物議を醸しそうなものまで幅広い選択肢が並ぶ。集まった個人情報は全て公的機関が開発したAIが収集・処理する。結果は今年9月に発表する。

(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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