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もしロボット外科医が誕生したら

デトロイト交響楽団を指揮するロボット Keystone

ロボットのような新技術が社会にもたらす影響について、それが商品化の前に十分に話し合われていないという。

先月、スイス最大銀UBSのシンクタンク「ヴォルフスベルク」主催の会議で、新技術に関する話し合いがおこなわれた。政府や関係者が長期的な戦略を策定しない場合、技術革新が遺伝子組み換え作物と同じような問題をもたらすことになるだろうと、多くの発言者が警告した。

GMO 惨禍の前例

 「遺伝子組み換え作物 ( GMO ) はまったくひどい状況になっています。誰も先のことを考えなかったために、政策決定者たちは10年たってからGMOの問題と格闘しなければいけないのです」
 と、アメリカを基盤にする「未来技術政策センター ( Center for Policy on Emerging Technologies ) 」の所長であるナイジャル・キャメロン教授は言う。なぜなら、GMOの問題に対して世論は消極的で、また、ハイレベルの関係者間で本来おこなわれるべき透明性のあるグローバルな対話の欠如により、現在ヨーロッパとアメリカが対立しているからだ。

 現在、政府や企業は短期的な意思決定を中心におこなっているが、一方で技術開発は飛躍的な前進を見せており、もし商品化の前に長期的な意思決定がおこなわれなければ、GMOのような状況は何度でも起こるだろうと警告する。

 また、新技術がもたらす社会的な影響は隠れた所で議論されるものではなく、むしろ選挙公約に盛り込まれるべきで、
「政府の政策決定者、財界、非政府組織 ( NGO ) という、普段は交流のない3つのコミュニティー間の新たな話し合いが必要です」
 とキャメロン氏は言う。未来技術政策センターは、まさにこうした理由から設立された。

社会的な影響

 従来の生活を変えるような発明品が開発される速度は、2年ごとに出る新しいワールド・ワイド・ウェブ ( World Wide Web ) の開発速度に匹敵するという。より多くの技術が生まれ、社会に影響を与えるようになれば、潜在的な利害対立も増すと、キャメロン氏はみている。例えば、人間そっくりのロボットが日本で開発されているが、将来、工場労働者や外科医さえもロボットになるかもしれない。

 「ロボット化が招く結果の1つは大量の失業者でしょうか。頭の良い機械が外科医に取って代わるようになって、もしもソフトに欠陥があったらどうなるでしょう。もし、ある程度の議論ができる人間のようなロボットがいたら、法的責任はどうなるのでしょうか」
 とキャメロン氏は疑問を投げかける。
「これらは、政府上層部の誰も本気で取り組んでいない非常に大きな問題です。また、このような問題は投資家を不安にさせるはずです。逆に、新技術を打ち壊そうとするラダイット運動の参加者にとっては好都合です」

 広域間でのグローバルな議論は、果てしなく続く論争を招くというよりも、異なるグループ間の壁を取り去るので時間の節約になるだろうと、キャメロン氏は自信を持って言う。また、この場合、コンセンサスを見つけるというよりも、情報と見解を広めることがポイントになると言い、
「全員が同意することを期待しているのではありません。15年先には話し合いの成果が見られることでしょう」
 と示唆した。

swissinfo、マシュー・アレン 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

ナイジャル・キャメロン教授は、新技術が未来にもたらす影響について、政策決定者、財界、非政府組織 ( NGO ) の話し合いの場を作ろうとする機関「未来技術政策センター ( Center for Policy on Emerging Technologies ) 」の所長を務める。
スイス最大銀「UBS」が1970年に設立したシンクタンク「ヴォルフスベルク ( Wolfsberg ) 」の学者でもある。このシンクタンクは、トゥールガウ州にある古城ヴォルフスベルク城に本拠を構える。
シカゴ・ケント法律専門学校の生命倫理の研究教授と副学部長を務める。1983年には、学術雑誌「倫理と医学 ( Ethics and Medicine ) 」を創刊。
国連総会ではアメリカ代表として出席し、ユネスコ ( UNESCO ) のアメリカ国内委員会のメンバーでもある。
キャメロン氏は、アメリカ上下両院、欧州議会、欧州委員会のグループを前に、科学と新技術における倫理について語った経験を持つ

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