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アフリカ難民大流入 問題は深刻

イタリアのランペドゥーサ島に到着した難民。しかしここに到着する前に海で遭難する難民も多いという Keystone

ここ2カ月来、スイスは難民の大流入にあえいでいる。いくつかの州では難民受け入れセンターが定員オーバーとなり、政府は緊急受け入れ施設の設置を検討している。

難民はナイジェリア、ソマリアなどアフリカのサハラ砂漠南部の国々からが主流で、イタリアのランペドゥーサ島経由でスイスに流れ込んでくる。昨年スイスは1万390人の難民申請者のうち1561人を認可したにとどまった。

難民受け入れのインフラ 極端に縮小

 「難民が溢れ、受け入れ能力を超えている。昨年政府は、難民用に確保していた州内のアパートの数を減らすよう通達してきた。その結果100戸のアパートが不足している」
 と嘆くのは、ルツェルン州の難民受け入れセンターのレイモン・カドゥフ氏だ。チューリヒ州、ベルン州、アールガウ州も定員を上回りつつある。

「昨年、トゥールガウ州は30人から50人の難民を受け入れた。ところが今年は年上半期ですでに117人の難民が送られてきた。とても対応できないので、政府にこれ以上送り込まないよう要請したところだ」
 と、トゥールガウ州難民局長ロルフ・ブルーダラー氏は言う。

 こうした難民の大量流入には2つの原因がある。1つは、イタリア南部やギリシャ経由で、ヨーロッパの国々に移住しようと試みるアフリカ人の数がここ数カ月で急増したこと。またもう1つは、スイスでの難民受け入れのインフラが極端に縮小したことだ。

 これはクリストフ・ブロッハー前司法相が難民受け入れのインフラに対する予算を大幅に削ったことに起因する。予算縮小により政府は2008年1月から、州の難民受け入れ業務に支払らっていた一部の補助金を完全にカットした。その結果、受け入れセンターを閉鎖したり、縮小する州が増えている。

 政府はこの政策の代償に、難民が溢れるような状況になれば、連邦政府移民局 ( BFM/ODM ) が、6カ月間の宿泊施設を確保する責任を負うと州に約束対した。具体的には、難民が全体で1万2000 人を超えた場合に政府が動き出す仕組みになっている。
 「州の受け入れが危機的状況になったら、政府に相談してほしい。州に負担をかけないよう、緊急対策は必ず取る」
 とBFMの局長エドアルト・クネサ氏はスイスラジオのインタビューで語った。

ランペドゥーサ島からヨーロッパ大陸に

 今年スイスでは上半期ですでに、昨年より6.3%増の5945人が難民申請をしていた。ところが、7月から申請者の数は急増し、8月だけでも1600人が申請し、昨年の同じ月の800人から1000人に比べ2倍近く膨れ上がった。

 政府は今年の末にはおよそ1万3000人の申請者があると見ている。これは昨年より3000人多いが、毎年約1万7500人が申請していた過去8年間に比べれば少なくなる見通しだ。

 難民はスリランカを除けば、ナイジェリア、ソマリア、エリトリア、イラクなど、半数以上がサハラ砂漠南部の国々から流出し、イタリアのランペドゥーサ島にまず到着する。
「この小さな島は6月以来アフリカからの難民で膨れ上がり、ドラマチックな危機的状況に陥っている」
 とクネサ氏は説明する。毎日1000人の難民が島に到着するが、島のセンターが収容できる人数も1000人だけなので、到着するや否や難民はすぐにヨーロッパ大陸に向けて流れて行く。

 「難民申請者のうち45%がヨーロッパ南部から不法に、スイスに入国した」
とクネサ氏は見ている。しかし、これはスイスだけの問題ではない。
「欧州連合 ( EU ) 諸国もここ2カ月来難民申請者の急増に頭を抱えている。中には8割増加した国もある」
とクネサ氏はヨーロッパにおける難民問題の深刻さを強調した。

swissinfo、アンドレアス・カイザー 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 

難民問題では、スイスはほかのヨーロッパ諸国と同様の「戦い」を行っている。

過去数年間、多数の難民申請者がスイスに流れ込んだが、スイスに滞在できる資格の無い者、またスイスの法律による難民受け入れ条件に合致しない者がほとんどという状況にある。

2006年9月、スイス国民は外国人の滞在に関する改正法と難民に関する改正法を国民投票で可決した。

この改正法は、パスポートを所持しない、またはスイスの法律による難民受け入れ条件に合致しない難民申請者は、48時間内に出身国に送り返されると規定している。

難民申請を却下された者、また許可を取得する道が閉ざされた者は、社会保障は受けられず、当座の滞在許可のみを受け取る。

申請が却下されたにもかかわらずスイスから出国しない者は、最高で2年間の拘留を受ける。

2007年では、1万390人の難民申請者のうち、1561人が難民として受け入れられた。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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