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世界中で試練に立たされる表現の自由

ルソーの故郷からインターネットを統治

Joe Matthews

インターネットが世界の民主主義に貢献していくなら、それを統治するグローバルなガバナンス機構が必要になる。民主主義コラムニストのジョー・マシューズ氏は、そのような機構をオンライン上で構築し、現実世界の本部をジュネーブに置くことができると提案する。

今日、インターネットの統治システムは一貫性もなければ民主的でもない。

それどころか、インターネットガバナンスは、株主を最優先しインターネットに何ら足かせをはめたくない巨大テック企業と、自国役人の政治的利益を優先させる各国政府の間の勢力争いになっている。

この争いの中では両者とも、民主主義を装っている。フェイスブックは世界の専門家たちでつくる独自の「独立監視委員会外部リンク」を設置したが、それは選出されたものではなくフェイスブックが指名した。欧州連合(EU)もプライバシーやインターネットに対するより厳しい規制外部リンクをアピールしているが、その規制当局も選出されたものではない上、欧州から遠く離れた国々にもそのルールを強要している。

ジョー・マシューズ(Joe Mathews)氏は、米国の非営利団体Zócalo Public Square外部リンクやswissinfo.chに民主主義関連のコラムを執筆している。

テック企業や政府から独立した、民主的なガバナンス機構が必要なのはそうした理由からだ。このようなシステムは、住む場所に応じて人々がインターネットを統治できるようローカルなものであると同時に、インターネットと同様、ボーダーレスでなければならない。

そのようなガバナンス機構の明確なビジョンはまだないが、組み合わせることが可能な構成要素は多い。

デジタルライツ憲章

欧州ベースの人権機関ネットワークは、デジタルライツ憲章外部リンクを策定した。例えば第4条は「全ての人はデジタル世界における言論と表現の自由に対する権利を有する」と定めており、インターネットガバナンス機構の規約の1つとして組み込むことができるだろう。近年、世界経済フォーラム(WEF)とブラジル前政権の強力な後押しで展開されてきたネットムンディアル・イニシアチブ外部リンクは、輪番制と常任制のメンバーからなる評議会を中心とした国際的なインターネットガバナンス構築のためのアイデアを示している。

1998~2016年まで、110カ国以上が参加してドメイン名やIPアドレスの割り当てなど、インターネットの限定的な分野の管理に成功したICANN外部リンク(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という多少は民主的な非営利団体があるが、そこから学ぶべきいくつかの教訓がある。

効果的なインターネットガバナンスは、集合的なものでなければならない。インターネットの持つ力と商業的価値は、個々のユーザーやデータではなく、それらの集合体にあるからだ。ノエマ・マガジン外部リンクに掲載された、ラディカル・エクスチェンジ・ファンデーション外部リンク代表マット・プルウィット氏の論文は必読に値する。彼は、個人のデータ権ではなく、ユーザーコミュニティに民主的な権限を与える「データ・コーリション(連合)」というオンライン組合を中心にしたインターネットガバナンスの構築を提案している。

プルウィット氏は、「データは所有されるものではなく管理されるもの」であり、「データは、個人の一方的な決定ではなく、共有された民主的決定の対象でなければならない。これは、個人の権利を重視してきた自由主義的な法秩序にとっては特別な課題となる」と述べている。

インターネットの民主的統治

私もまた、複数の民主的統治形態を組み合わせたインターネットの民主的ガバナンスを提案したい。

このガバナンス機構の中心になるべきは、エリートとは無関係で民主的な評決を得るために世界中の国や地方で使われているツール、「市民議会」だ。この市民議会は、世界のインターネット・ユーザーコミュニティを年齢、性別、出身国によって代表する1千人で構成する。個別に選出するのではなく、抽選(またはくじ引き)のようなランダム化されたプロセスで選ぶ。

市民議会は、人々が問題を報告したり提案したり、さらには請願書に署名を募ってグローバル・レファレンダムを提起しインターネット・ユーザーがどこからでも投票できたりするような、オンラインプラットフォームによって補完される。そのモデルとしてはイタリアの五つ星運動が管理・運営し、物議を醸しているオンラインプラットフォーム「ルソー外部リンク」や、スペインの首都から世界100都市以上に広がった参加型プラットフォームの「ディサイド・マドリード外部リンク」などが挙げられる。

現実社会ではスイスに本部を

各国政府やテック企業は、このガバナンス機構に影響を与えようと躍起になるだろう。だが彼らがガバナンスを担うことはない。それぞれの市民議会が2~3年で解散すれば、権力者が圧力をかけることも難しくなる。

ガバナンス機構がオンラインで活動する一方で、現実社会の本部は、18世紀のスイスの哲学者、ジャン・ジャック・ルソーの故郷であるジュネーブに置くこともできる。

このようなガバナンス機構が持ちこたえ、成功すれば、世界保健機構(WHO)や赤十字国際委員会(ICRC)などスイスに拠点を置く国際機関の仲間入りをするかもしれない。さらには、公衆衛生から気候変動に至るまで、世界規模の課題にオフラインで取り組むための国際的で民主的なガバナンス機構のモデルにもなれるだろう。

この記事で述べられている内容は、著者の意見であり、必ずしもswissinfo.chの見解を反映しているわけではありません。

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(英語からの翻訳・由比かおり)

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