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カカオ豆の生産量増加で、原産地農家の暮らしを助けるスイス企業

コートジボワールとガーナでは、15歳未満の児童約200万人がカカオ産業に従事している Reuters

チョコレートの需要がうなぎ昇りに高まる昨今、貧しい国の農業を支援をして消費者の要望に応えようと、スイスの多国籍企業が奮闘している。

スイスに本拠地を置くネスレ(Nestlé)やバレーカレボー(Barry Callebaut)などは、カカオ豆の生産量を増やせば、会社や農家、消費者にメリットがあると主張。一方、監視団体はそうした企業の試みには問題点もあると警告する。

 チューリヒに本拠地を構えるバレーカレボーはチョコレート生産業者として世界一の規模だ。チョコレートの需要に応えるには、世界のカカオ豆生産量(2010年度425万トン)を2020年までに25%増やす必要があると、同社は推測している。

 その理由には、世界人口が急激に増加したことや、消費者の購買力が新興国で高まっていること、突然の悪天候など異常気象による不作などが挙げられる。また、非効率的な耕作も、需要と供給のバランスを崩す要因となっている。

 しかし途上国での農耕はあまり効率的でないうえ、農耕地やカカオ豆の品質が悪化しており、これがカカオ豆生産量増加計画の最大の妨げになっている。

さまざまな支援プログラム

 バレーカレボーは2005年、カカオ豆の供給を今後も安定させるため「クオリティー・パートナー・プログラム」を開始し、現在コートジボワールで農業技術改善に努めている。

 「コートジボワールでは通常、1ヘクタールに付き約400キログラムのカカオ豆を生産するが、これはほかの国に比べて少ない。基本的な作業方法を少し改善するだけで、この生産量を2倍に出来るはずだ」。バレーカレボーのラファエル・ヴェルムート広報担当はこう話す。

 バレーカレボーはさらに、新しい種苗や肥料を購入したい農業者に無利子で融資しており、昨年は総額2600万ユーロ(約26億円)を貸し出した。

 同じことはライバル会社でも行われている。高級チョコで有名なリント&シュプリュングリ(Lindt & Sprüngli)やネスレなどスイスの食品会社は、西アフリカで社会支援プログラムを実施している。農業者やその地域を貧困から救い出すのが目的だ。

 監視団体はこうした企業の取り組みを歓迎している一方、NGOのベルン・デクラレイション(Berne Declaration)などは、子どもたちが危険な仕事を任されている農園が今もあると指摘する。

「誠意のない」マーケティング

 世界の多国籍企業は2001年、劣悪な環境下での児童労働を廃止することで合意した。だが、西アフリカでは今もなお子どもたちの多くが人身売買され、危険にさらされているとの報告書が昨年、米国ルイジアナ州トゥレーン大学から発表された。

 ベルン・デクラレイションのフルリナ・ドップラー氏は「企業はこうした支援プログラムなど巧みなマーケティング戦術で消費者からの信頼を集めているが、強制児童労働の廃止にはほとんど投資していない。企業は本当のところ、社会環境の改善よりも、カカオ豆の生産を確保したいだけだ」と、巨大食品企業への不信感をあらわにする。

フードコンサルタントのジェームズ・アモロソ氏も同感だ。これらの企業は貧しい国の人々を救うことよりも、長期にわたってカカオ豆の需要に応えることを優先していると批判する。「支援する農業者から直接カカオ豆を買うと、短期的には企業にとって高くつく。しかし、生産者と密接な関係が築けるため、長期的には供給や品質の安定が確保でき、ライバル企業に差をつけることができる」

変化の激しい株価市場

 企業に厳しい目を向けるアモロソ氏だが、「ただの口約束をするだけの外国企業に比べたら、スイスの企業は社会的責任を真摯に受け止めている」と評価もしている。

 例えばネスレは、独自の支援プログラム「カカオ・プラン」で西アフリカでの農業生産性を高める支援をするかたわら、教育面や健康面の援助もし、児童労働を撲滅しようと努めている。

 ネスレのクリス・ホッグ広報担当は「児童労働はまさに貧困の証しだ。カカオ豆生産者の暮らしを良くすることで、その地域全体の社会環境が改善され、児童労働も減る。それがカカオ・プランの目標だ」と話す。

 「しかし、農業者の暮らしを良くするには、食品原材料の世界的取引を厳しく規制するしかない」とベルン・デクラレイションは訴える。また、食品原材料の価格は投機家に左右されるべきではないと、多くのNGOや企業、政治家などが主張している。

 ベルン・デクラレイションのドップラー氏は「農業者の立場は弱いため、今の制度では農業者がカカオ豆の価格に影響を与えることはできない」と批判する。

国際ココア機関(International Cocoa Organization)の調べでは、2010年度のカカオ豆生産量は世界全体で425万t。不作だった前年に比べ17%の増加。

カカオは赤道近くの地域でしか育たない。世界需要の約7割が西アフリカ、約4割がガーナで生産される。

世界人口は2050年までに38%、26億人増の計95億人になる見通し。

人口増加と同時に、中国などの新興国では今後購買力がさらに強まると予想され、チョコレートなど高級品の需要が高まる見込み。

バレーカレボーの予想では、チョコレート製品への急激な需要に応えるためには、2020年までにカカオ豆の生産量を100万t増やす必要がある。

(英語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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