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ワクチンの公平な分配、WTOで議論 道のり遠く

世界貿易機関(WTO)は、新型コロナウイルスのワクチンがすべての国ですべての人に行き届くようにするための世界的な「ロードマップ」について議論を開始した。同ワクチンの特許保護の一時停止を求める先の提案が行き詰っているためだ。WTO事務局長は14日の会合で、議論が具体的な行動につながることを期待すると述べた。


Woman gives Covid jab.
WHOのテドロス事務局長は、ワクチンの不公平な分配を「道義的侵害」とみなし、一部のアフリカ諸国は「ワクチン・アパルトヘイト(人種隔離)」とさえ呼ぶ Keystone / Michael Reynolds

WTOのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ新事務局長は、コロナワクチンのグローバルな接種計画の開始に向けて、より迅速な行動を求めている。同氏は14日の会合で、今後数カ月にわたる議論を前に、各国政府と企業に求められる行動について提案を行った。スイス・ジュネーブで開催された同会合では、非政府組織(NGO)、産業界、関係各国、世界保健機関(WHO)が一堂に会した。

供給可能なコロナワクチンのたった0.2%しか最貧国に届いていない問題を話し合うため同会合は開かれた。WHOのテドロス事務局長がワクチンの不公平な分配を「道義的侵害」とみなす一方で、一部のアフリカ諸国は「ワクチン・アパルトヘイト(人種隔離)」とさえ呼ぶ。

第1段階として、ンゴジ事務局長は各国政府に対し、「輸出制限とサプライチェーンの障壁を削減し、他機関と連携して物流と税関手続きを容易にする」よう提言した。また、「WTOは通常業務の一環としてこれらを監視し、ワクチンの供給拡大に引き続き取り組む」と述べた。

特許の一時停止?

第2段階は、ワクチンの特許保護の一時停止を求める提案や、研究・イノベーションへのインセンティブをめぐる交渉を前進させることだ。

昨年10月、インドと南アフリカがWTOで、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の抑制に役立つすべての製品について、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が定める特許の保護義務を一時的に免除する案を提起した。ワクチンの他に、検査薬、医療機器、将来の治療法が対象となる。もし、同案が採択されれば、免除は義務になる。

世界中の研究所がワクチン技術を利用して、ジェネリック医薬品(後発薬)を生産できるようになるという考えだ。同案の提案国によると、ワクチンのコスト削減と世界的な生産拡大が可能になる。

同案は数カ月の間に、100以上の国の支持を集めた。しかし、スイスや米国などの富裕国は、パンデミックはWTOルールを破る理由にはならないとして反対している。交渉は続いているものの膠着状態に陥っている。

ンゴジ事務局長は会合で代表者たちに、「さまざまな意見と率直な対話によって合意に近づくことを願っている」と語った。

産業界への呼びかけ

ロードマップにはワクチンの製造者も含まれる。ンゴジ事務局長は製造者に対し、「現在の生産能力を短期的に改善し、既存の設備から生産性を最大限引き出し、投資への措置を講じるなど、ワクチンの製造規模拡大に向けた具体的な行動」を呼びかけた。

そのための重要なステップの1つは、技術とノウハウの移転を促進することだと言う。「契約上の取り決めや製品価格の設定には透明性が必要だ」とも述べた。

また、同案は国際機関や金融機関に、既存や新規の生産能力への資金提供を要請する。

ンゴジ事務局長が求める国際協定に、一部の主要なアクターが同調した。会合に出席した米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は、かつてのエイズ危機に見られた先進国と発展途上国の格差は「全く受け入れられない」と述べた。

「市場の失敗」

タイ氏はまた、「市場はまたしても発展途上国の医療ニーズを満たすことに失敗した」と発言し、会場を驚かせた。

産業界は、ワクチンの製造と販売に関して260を超えるパートナシップ契約が実施されており、役割を果たしていると主張する。しかし、NGOやWHOの見解は異なる。

招待されたNGOの1つである「国境なき医師団」は、現在の「地理的に集中し、製薬業界に支配された」生産・供給システムは全く適切ではないとして、より貧しい国を中心として、世界各地で独立した現地供給システムを開発するよう呼びかけた。

また、「世界的な供給を、技術を保有する製薬会社の純粋に商業的な特権や独占権に依存すべきではない」と主張した。

次のステップ

会合中、世界中で各国政府と合意し、公的機関と共同で治験を行っていることを説明する製薬会社がある一方で、採算度外視でワクチンを販売していると主張する企業もあった。

しかし、WHOはこれらの取り組みでは決して十分ではないという。「持続可能で効果的な解決策を提示するためには、従来のやり方を超える必要がある」とテドロス事務局長は語った。

また、「一部の製造者は、より多くのワクチンを生産するために、ノウハウや技術を共有し始めている。しかし、制限的な条件下での、非常に限定されたやり方でしかない」と指摘した。

ロードマップを具体的な行動にどうつなげるか、交渉は続いている。ンゴジ事務局長は「今後数週間から数カ月で具体的なフォローアップが行われることを期待している」。

12日時点で、10億本目のコロナワクチンが製造された。業界の予測によると、5月末までに20億回分に達する見込みだ。しかし、多くの人にとって疑問が残る。誰がこれらのワクチンを受け取るのか?

(英語からの翻訳・江藤真理)

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