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ザ・ドルダー・グランド、優雅にリニューアル

旧館のデザインを尊重してリニューアル Keystone

チューリヒ市内を見下ろす小高い丘チューリヒ山 ( Züri Berg ) に居を構える最高級ホテル、ザ・ドルダー・グランド ( The Dolder Grand ) が、4年間にわたる改築工事を経て4月3日から世界のリッチな旅人たちにそのドアを開く。

1899年の開業以来、多くの有名人も迎え入れ続けた典型的なグランドホテルであり、チューリヒ市のシンボル的な存在でもある。

 チューリヒ湖の近くから出るドルダー鉄道 ( Dolder Bahn ) が山の急斜面をゆったりと登る。走行時間は6分。山頂の駅から少し歩くと、前方にはアルプス山脈の風景が広がり、右側にはメルヘンに出てくるような白亜の城「ザ・ドルダー・グランド」が見えてくる。

採算抜き?

 ホテルのオーナーはチューリヒ州に住む投資家のウルス・シュヴァルツェンバッハ氏。改築工事では、時代と共に増築され続けた部分を取り除き、メインビルディングである本来の城の姿にホテルを戻した。工費は当初の予算2億5000万フラン ( 約250億円 ) を大きく上回り4億4000万フラン ( 約440億円 ) に上ったが、銀行などからの融資は一切無かったという。予想を上回るコストは、基礎工事の段階で遺跡発掘・調査費がかさんだこともあるが
「オーナーが一切の妥協をしたくなかったため」
 と広報担当のヴァネッサ・フラック氏は説明する。

 改築費用が巨額になったことから、ドルダー・グランドホテルは赤字経営でもかまわないのだという噂も流布したほど。しかし、シュヴァルツェンバッハ氏にとってこれは、安い投資だったようだ。
「ホテルの広さが4万平方メートルあるので、1平方メートルあたりの投資額は110万円。高級な屋敷ならもっとかかる」
 3月16日付の「NZZアム・ゾンターク ( NZZ am Sonntag )」紙 にこう語っている。

 建築デザインはイギリスのフォスター&パートナーが手がけた。一世を風靡(ふうび)するスター建築事務所だ。
「世界各地のホテルがしのぎを削っている現状で、競争に勝つためにはデザイナーズホテルであることは重要」
 と総支配人のトマス・シュミット氏は語る。
「国際比較で見ると、ドルダー・グランドは巨大なホテルとはいえない。スイスのホテルらしくこじんまりしたものだ。しかし、多種の要素を集めたものではなく、一貫したコンセプトでまとめられたホテルだ。ゲストにはリラックスしてほしい。チューリヒ市内にあって森の中のシティーリゾートを目指している」

4人のゲストに捧ぐ

 最上階には、ホテルの高級感を体現する4つのトップ・スイートがある。それぞれ、ホテルの輝かしい歴史を飾る著名人で常連だった指揮者のカラヤン、スイスの彫刻家アルベルト・ジャコメッティ、ロックのローリングストーンズ、イタリア女優のジュリエッタ・マッシーナに捧げられ、ユニークな内装が施されている。

 一般のゲストルームはダークブラウンのフローリングに、同じくダークブラウンと白を基調としたモダンでシンプルなインテリア。ベッドには淡いバイオレットのシーツが掛けられ、全体的には現在流行しているシティーホテルのデザインを踏襲している。しかし、バスルームの窓を通して眺めるアルプス山脈やチューリヒ湖は他国のホテルにはないドルダー・グランドの「勝利ポイント」だ。
 
 客室料金はシングルルームの540フラン ( 約5万4000円 ) からグランド・スイートの3600フラン ( 約36万円 ) まで。トップ・スイートの価格は「問い合わせ」とあるだけで明記されていないが、これを上回ることは確かのようだ。

ちょっと「ジャパニーズ」

 ドルダー・グランドがゲストルームと同等の重きを置くのが4000平方メートルあるスパ。半地下にあるものの、暗さを感じさせないウェルネスセクターだ。プールからは当然のことながら、アルプス山脈が見渡せる。エントランスには古代ローマの浴場を思い起こさせる石ブロックを重ねたアーチが何本もそびえ立つ。

 アメリカ人のスパ・デザイナー、シルヴィア・セピーリ氏が担当した。長期間日本に滞在したことがあるセピーリ氏は、スイスで初めて砂風呂、「コタツ足風呂」をこのスパに導入した。エステサロンではスイスの高級化粧品メーカー「ラ・プレリー ( La Prairie ) と並び「ケンゾーキ ( Kenzoki ) 」が使われる。

 スパの年会費は70万円。会員は「慎重な審査の上、入会が認められます」とのこと。もちろんホテルの宿泊ゲストは自由に利用できる。

 なだらかとはいえ山頂にあるホテル。一般客は、チューリヒ国際空港やチューリヒ中央駅からタクシーやホテルのリムジンカーを利用することになる。リムジンカーはトヨタのレクサスLS600hLだ。全長5メートル、四輪駆動の高級ハイブリットカー。ドイツ車やイギリス車などより高級なリムジンもある中、環境を考慮しながら森林の中を走るため、日本車が選ばれた。

一般公開日に集まった人たち

 3月27日から3日間一般公開が行われた。初日には約4000人の地元の人たちがホテルを見学したという。筆者が訪れた2日目の開館9時前には、すでにおよそ200メートルの行列ができていた。この日見学に訪れたマンフレット・デンナーさんは
「この騒ぎが終わったら、泊まりに来るつもりだ。ゲストルームだけではなく、すべてを味わいたい。チューリヒ市もこのホテルによって、グレードアップするだろう。素晴らしいことだ」
 と言う。

 建築関係の仕事をするマルグリット・ラムザイヤーさんは、友だちと是非お茶を飲みに来たいと言う。
「ゲストルームの色調がちょっと暗い。でも、それが今風なんでしょう。これまでの伝統的な部分と新しいデザインに100パーセントマッチしている」
 と高く評価した。

 テストのためのゲストを迎えて3日間の実地トレーニング後、ザ・ドルダー・グランドは4月3日から正式に営業を開始する。
「改築前のサービスは最高だとはいえなかったかもしれない。リニューアルされたドルダーは、ゼロ地点に立って始めるつもりだ」
 スイスのホテルサービスは「控えめであること」が特徴というシュミット総支配人の新しいホテル運営に向けての決心だ。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

ザ・ドルダー・グランド
Kurhausstrasse 65
8032 Zürich
Tel +41 44 456 60 00
Fax +41 44 456 60 01
info@thedoldergrand.com

173室、540フランから
シングル15室
ダブル99室
ジュニアスイート48室
スイート7室
トップ・スイート4室
レストラン2
バー
バル用ホール 400平方メートル
スパ 4000平方メートル
全館禁煙

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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