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シミュレーションで「出発進行 !」

将来は、視野を広げてスピード感を増すことも検討。機関士育成にも貢献できる。 Photopress/Stefan Wäfler/Montage

毎年80万人以上の人が来館する、スイスでも人気の高いスイス交通博物館にもう一つのアトラクションが加わった。臨場感いっぱいの電車運転シミュレーション装置だ。

1月20日の除幕式ではダニエル・ズーター館長が、スイスの鉄道3社の社長とともに、約3500万円を掛けて作られた新設備を博物館や鉄道ファンに紹介した。

違いを体験できる

 シミュレーションが体験できるのは、スイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) とベルナー・レッチ・シンプロン鉄道 ( BLS ) および私鉄のレーティシュ鉄道 ( RhB )の「最も風景の素晴らしい区間」。電車も連邦鉄道の二階建て最新型「BtIC2000」から1910年に作られたレトロな機関車など9種類が用意されおり
「路線の特徴や電車の車種の違いを完全に再現しています。しかもコンピューターゲームのような質の悪い画像ではありません。風景は実際にデジタルビデオカメラで収めて再現しました」
 とズーター氏は胸を張る。

 技術を担当したベルン専門学校 ( Berner Fachhochschule ) のハンスユルク・ロアー氏は
「機関士養成用のシミュレーション装置を素人にも安全に使ってもらえるよう工夫することがポイントでした」
と語る。プロ育成用であれば、赤信号が指導者により設定できるようになっているが、博物館のシミュレーションは青信号が続く。急ブレーキを掛けると「想定外の行動がとられました」というメッセージとともに電車はストップし、装置は強制終了してしまう。

 交通博物館の10年来の構想がやっといま実現の運びとなったことについてズーター氏は
「高質なシミュレーションを来館者に体験してもらいたかったのです。交通博物館は、体験する博物館であり続けたいと思っています」

駅にぴったり到着するのは難しい

 BLSのベルンハルト・ギレルモン社長は、夏らしい太陽光線が眩しい風景のブリーク ( Brig ) -シュピーツ ( Spiez ) 間をカンデルシュテーク ( Kandersteg ) 経由で運転。
「見た目ほど簡単じゃありませんね。美しい風景も見られないほど緊張します。ダイヤ通りに運転しなければならない機関士の大変さを想像しながら」
 と言いながら初体験を終えた。

 2年前にユネスコ ( UNESCO ) 世界遺産に指定されたベルニナ線を運転できるのも魅力的だ。
「線路の幅が1メートルと最も狭いのですが、昨年は権威ある鉄道雑誌上で、世界で最も美しい10路線に選ばれました」
 とエルヴィン・リューティスハウザ社長。オスピチオ ( Ospizio ) -ベルニナ ( Bernina ) 間を選択したリューティスハウザー氏の目の前に現れたのは雪景色。時速20キロと慎重なハンドルさばきだ。
「坂もカーブも多く、難しい路線ですから」
 景色も堪能しながらの運転だった。

 この日、開館時間ぴったりにトゥーン市からやって来たヴェルナー・ドライアー氏は大の鉄道ファン。式典前に担当者を拝み倒し、非公式に時速130キロで運転してしまった。
「ティラーノ ( Tirano ) から北上するのが一番美しいと思う。停車駅にしっかり到着するのが一番難しいね」
 と笑みを浮かばせた。

 ズーター館長はシミュレーションを通し
「機関士に対する尊敬の念も抱いてもらいたいですね。ホームなどで、あまり危ないことをしないようにといった子どもたちへの啓蒙の目的もあります」
 と語る。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、ルツェルンにて swissinfo.ch

Lidostrasse 5, CH-6006 Luzern, 電話およびFax +41 41 370 44 44
ホットライン 0848 85 20 20
ルツェルン駅からバス6、8、24番もしくは電車Voralpen Expressで Verkehrshaus下車。乗車時間それぞれ5分から6分。
開館時間 夏季10~18時まで 、冬季10~17時まで、年中無休
1959年7月1日、スイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) とスイス郵便 ( Die Post/Le Post ) が中心となり、国立交通情報博物館として開館した。
スイスで最も来館者の多い博物館だが、1992年に来館者数が53万人に減少したため、特別展などを開催し、魅力向上に努めた。
1996年には3D映画館iMAXを開館。475平方メートルのスクリーンはスイス随一の大きさ。
2008年に新設されたメディア・ファクトリーは、スイス放送協会 (SRG SSR idée suisse ) が全面的に支援した。
2010年電車操縦シミュレーション装置を導入。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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