スイスの視点を10言語で

スイスが良いか、日本が良いか スイスに住む日本人の座談会

左から、ザイラーさん、青木さん、吉冨さん、ヴァルティさん swissinfo.ch

スイスインフォ本社(ベルン)にて25日、スイス在住の4人の日本人に、スイスと日本の違いについて、お話を聞いた。4人とも冷静にスイスと日本を冷静な目で見て比較し、両国の文化や制度の違いが浮き彫りになった座談会だった。

また、4人にとってこれまでのスイスの生活を振り返り、自分自身を見つめる直す機会にもなったようである。

出席者は以下のとおり。I.職業 II.在住暦 III.居住地 IV.家族構成
青木泉さん(30歳)I. 国際赤十字連盟でインターンの仕事をしていたが、現在は無職 II.5年半 III.ジュネーブ IV.未婚
吉冨晃一さん(44歳)I.オペラ歌手 II. 5年 III.イタリア、東ドイツを経て現在、ルツェルン IV.妻は日本人 1女
ザイラー欣子(よしこ)さん(37歳)I.ドイツ語を語学学校で学びながら、和食レストランでアルバイト。II.2年半 III.チューリヒ IV.夫はスイス人
ヴァルティなぎささん(37歳)I.フリーランスで英語の通訳・翻訳業 II.7年目 III.ベルンの郊外のムリ市 IV.夫はスイス人

司会 

まずスイスと日本の行政や制度面での違いから、話を始めましょうか。

青木 

バスや路面電車でお年寄りなどに必ず席を譲るのは、すばらしいと思いました。しかも、自然に譲り合っている。日本で席を譲ったら「年寄りじゃないわよ」と反発されそう。

ザイラー 

乳母車を押すお母さんにもすぐ、助けの手が差し出されますよね。

吉冨 

もちろんラッシュアワーを避けたんですよ。日本でね。でも、乳母車で池袋駅から乗ったら、(ほかの乗客から)舌打ちされましたよ。駅でエレベーターが見つかりにくく、日本の駅は不便と思いました。

ヴァルティ 

日本は子どもと一緒にレストランへ行くとしたら、ファミレスしかないけど、こちらは家族パーティーなどでも子どもを連れて行っても大丈夫。レストランには子どもたち用に遊び道具など常備されています。
一方、タバコの煙がもうもうとしているところにわざわざ連れて行くのはいかがなものか、と日本から来た両親には言われましたけど。
スイスは子どもも、社会の一員だという意識があります。

ザイラー 

私がバイトしているレストランでの経験ですが、親が子どものメニューを決めるのではなく、必ず子どもに聞くんです。本人に決めさせるということで、自己を確立させる教育をしているのだと思います。

ヴァルティ 

大人と対等に話ができる青少年が多いのも、そうした教育の成果ではないでしょうか。話す内容を自分の中に持っているということでもありますし、年の隔たりがなく、対等に関係ができる。大人も単なる子どもとみなさないで、子どもの人格を認めているからでしょうね。

ヴァルティ 

スイスでは、何世紀もさかのぼって分かるような家系図あることは、すばらしいことだと思います。夫の家族の系図もきちんと役所に保管されていました。
わたしの名前ヴァルティは、ベルン出身だと誰でも分かる苗字なのですが、まったく知らない人から、自分も同じ名前で同じ出身地だねと挨拶されたこともあります。

青木 

自己紹介するときに、出身地の地名を言い合いますよね。

ヴァルティ 

そうです。そこの土地に誇りを持っているんです。私の主人など、世界でベルンが一番で最高だと思っている。今年はベルンから隣の州に2度も行ったんだから、もう行く必要はないなんて、平気で言ったりする。

吉冨 

僕は田舎の出身ですが、小さいころに遊んだ田んぼの風景は今はまったくありません。日本では、どうやって自分の出身地に誇りを持てるのかと思います。スイスは、景観を変えるような建築については、住民投票があるし、変わってもバランスがとれている。たとえば、ルツェルン湖に橋を架けようなんていう案が出たとしても、何百年経っても架からない。

司会 

文化や習慣が大きく違っていることで、馴染めず、傷ついた経験はありますか。

青木 

イエス、ノーをはっきり言わなくてはいけないし、自分からなにかを言わないと無視されてしまう。弱い人間は置いていかれると思いました。スイスに来るのではなかったと思ったほど辛かった。でも、いまはスイスのスタイルが自分に合っています。

ヴァルティ 

ジュネーブのような都会でもそうですか。私が保守的な田舎に住んでいるからかと思っていました。わたしも、心を打ち明けられる友だちを作るのには苦労しました。

青木 

日本だと、外国からせっかく来たのだからと、尊重こそすれ無視など決してしない。

ザイラー 

スイスのサービスの質が低いことには驚きます。自分は正しいと主張する語学学校の事務員の対応が失礼で、何度か頭に来たことがあります。
日本だとたとえ客が悪くてもまず学校が謝りますよね。組織を代表しているのだという意識があるからだと思います。スイスは個人主義、自己主張がある。サービスの質は、その人のパーソナリティによって違うので、時によっては質の悪いサービスを受けてしまうこともあります。

ヴァルティ 

日本のサービスの質は世界の中でも、高いのではありませんか。ただ、スイスは人件費が高いのにこの程度のサービスしか受けられないのはと思うと…。

吉冨 

僕など、東ドイツやイタリアにいたので、まったく違った意見です。西側諸国では、お金をまだ払ってもいないのに、店に入っただけで微笑んでもらえるなんて、と不思議に思ったこともあります。イタリアの郵便局も駅も窓口の対応は散々です。それと比べたらスイスは楽です。

司会 

スイスは職業教育のレベルも高いのが誇りなはずなんですが。

ザイラー 

駅で切符一枚買うときなど早いし、教育は高いけど、笑顔がひとつ欲しい。特に女性のサービスは悪い。男性のときは違うかも。

3人の女性 

そうです、そうです。—笑い—

司会 

スイスは、客とサービスをする人が対等という印象がありますが。

ザイラー 

レストランにいらっしゃるお客様がいい例。スイス人だったら、たとえばテーブルに料理を置いただけでも、ありがとうと言ってくれる。

青木 

日本人の客なら「おい、おネエちゃん」です。

司会 

どちらの国の方が住みやすいと思いますか。

吉冨 

僕はスイス。オペラの文化の根付いているスイスなので歌手として住みやすいし、前向きに生きていけるから。

青木 

いまのところは、スイスの方がいいです。周りを気にしなくて良いし、自分で決める自由があるから。(日本では忙しいことが良いことのようですが)スイスだったら、「わたしは時間があるとか暇だとか」と言っても認めてくれます。

ザイラー 

スイスが嫌というわけではないのですが、わたしは日本。スイスで何かしようとしたら、人一番がんばらないといけないような気がするから。でも、子どもはスイスで育てるのが良いと思います。…一概には言えないですね。

ヴァルティ 

スイスで暮らしたいです。周りに流されないで、自分がしたいこと、すべきことを考えながら生活できる。日本は物や情報が多すぎ、惑わされます。
毎日空を見るようになったし、天気を気にするようになり余裕を持てるようになった。窓を開けて青い空を見てすばらしいと思える、それが生活水準が高いということではないでしょうか。

司会 

4人の忌憚ないお話が伺えて、楽しい1時間半でした。皆さん、ありがとうございました。

swissinfo 司会およびまとめ 佐藤夕美(さとうゆうみ)

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部