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スイスでイスラム教徒のイマーム育成?

スイスではイスラム教徒は人口比では3番目の宗教だ。 Keystone Archive

イスラム系移民を多く抱える欧州では国内のイスラム過激派の台頭にどう対応するかに頭を悩ませている。人口の4%をイスラム教徒が占めるスイスも例外ではない。

現在、国会議員などの間で穏健派イスラムの教えを支持するためにモスクのイマーム(礼拝指導者)の育成は国が統制してやるべきだとの議論が巻き起こっている。

背景

 欧州では今月2日にアムステルダムで起きたイスラム原理主義を批判したゴッホ監督殺害事件などでイスラム系住民の同化問題が浮き彫りになってきた。スイスでは今のところオランダのように右翼団体とイスラム過激派の対立といった様相はない。しかし、スイスでもオランダやベルギーと同様に過激なイマームの強制送還や地元で穏健イスラム教育を促進するといった政策を模索する動きが見られる。

スイスでは賛否両論

 この欧州全体に広がる動きを受けてスイス司教議会事務局長のアニエル・リックマン神父は日刊紙ノイエ.・チェルヒャー・ツァイトゥングの日曜版(21日付け)のインタビューで「イマームの育成を国が助成するという考えは妥当なもの。イスラム教徒の自由なスイス社会への同化を助けるものだ」と評した。このスイスの大学でイマーム教育課程を行うという着想は既にスイス内のイスラム協会調整団体からも提案されていた。 

 環境・運輸・エネルギー・通信相のモリツ・ロイエンベルガー大臣もテレビのインタビューで同提案について「これによって暴力を唆すイマームがいなくなるだろう」と支持している。

 反対にスイス連立政権のひとつで保守派の国民党党首、ウーリ・マウラー氏は同紙に「キリスト教国であるスイスの国立大学にイスラムコースの場はない」と大反対。さらに、「イスラム教という宗教自体に狂信的な要素があるのでスイスで育成したからといってイマームが穏健派になる保証はない」と断言している。

特殊なスイス事情

 イスラム教問題に詳しいスイスの記者フレデリック・ビュルナン氏によれば「スイスのイスラム教徒の大部分(80%)がトルコやユーゴスラビアなど穏健派のイスラム教徒なのに対し、イマームの大半がアラブ諸国からやってくるのが問題」と指摘する。スイスのイスラム教徒はアラブ諸国と比べて信仰というよりも自己のアイデンティティーの一部に近い。多くのイマームはアラブ首長国連邦から来ており、現地の言葉を話せず、アラブ語しかできない。このためイマームと教徒との間にギャップがあるという。 

 大衆紙ル・マタンの日曜版によると政府内で急進派イマームの国外追放案などイスラム過激派をどう阻止するかといった専門家の報告が出回っていると示唆している。いずれにしても、来週の国会では「イスラム過激派の台頭は脅威であるのか」が議題になっている。イスラム問題は今後も紙面を賑わすことは間違いない。


スイス国際放送  屋山明乃(ややまあけの)

2000年の国勢調査によるとスイスには31万人(人口の4,3%)のイスラム教徒がいる。

スイスのイスラム教徒の大多数(23万人)がバルカン地方かトルコから来ておりアラブ諸国からは1万5千人しか来ていない。

3万6千人のイスラム教徒はスイス国籍を所持している。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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