スイスの視点を10言語で

スイスに進出して35年 積水Alveoの場合

スイスの観光地、ルツェルンのシンボルであるカペル橋が窓から見える。「ゴージャズな環境で働けるのもメリットです」と立松氏 swissinfo.ch

これまでスイスインフォでは、最近日本からスイスに進出してきた企業を紹介してきたが、今回このシリーズ「スイスに進出する意味」で紹介するのは、スイス在暦35年を誇る積水化学の子会社、Alveo(アルヴェオ)である。

アルヴェオとはラテン語で泡の意味。住宅、自動車などに使われる発泡樹脂(フォーム)を英国やオランダで製造し、ルツェルンにある本社で欧州各国の加工業者にむけて販売している。

 積水化学が架橋ポリオレフィン・フォームを開発してまもなく、合成繊維のスイス企業、ロンツァ(Lonza)との合弁会社、アルヴェオが設立された。しかしロンツァは、早くも合弁後2年で手を引き、アルヴェオは積水化学の100%子会社となって現在に至っている。合弁会社設立当時からのスイス人社長が、欧州の顧客を管理し、本社から派遣されている立松圭介(たてまつけいすけ)取締役(48歳)が、本社との仲介役を果たす。アルヴェオがスイスで成功し続けてきた秘訣を聞いた。

swissinfo : 1990年代にはバブルの崩壊で、スイスから多くの金融機関などが撤退した時期もありましたが、Alveoは1971年からルツェルンで着実に事業を展開しています。

立松 : 会社創立以来2000年前まで業績は、二桁の伸びを達成していましたが、今は2〜3%程度です。それは、たとえば、靴の底に弾力性をもたせるため、わが社などが製造しているフォームが使われますが、最近は靴の生産が中国に移っているからです。また、アジア諸国からキャンプ用のマットといった商品が欧州に輸入されたりして、欧州ではフォームを加工する業者も苦戦しています。

ただ、フォームは中間素材ですから、工夫次第で需要が広がる商品です。たとえば住宅の床は、カーペットに取って代わりフローリングがいま流行しています。Alvoeoのフォームを板の下に敷くことで、安価な合板でも無垢の板を使ったときのような音の響きが出ることを売り物にして、ヒットしました。つまり、フォームをいかに使うか、新しいアイディアが生まれれば、業績は上がります。

swissinfo : 欧州に生産拠点を持ち、販売も代理店を通さずに直接行っている理由はなんでしょうか。

立松 : フォームはかさばるため輸送コストがかかります。よって市場に近いところに工場を持つのは鉄則です。

また、欧州市場の特徴ですが、ほかの地域と比べて品質要求が高いことが挙げられます。つまり、いいものを出せば、ある程度高くとも売れるということです。フォームを使った製品は一般的に、生活必需品ではありません。居心地の良さといったものを感じさせるものです。こうした市場のニーズを把握するため、加工業者と直接コンタクトを取ることが大切と考えます。

swissinfo : 積水化学が持つ多の分野の中で、フォーム分野はAlveoを本社とする欧州の利益が最大であると伺いました。スイスに本社を置いたことが、Alveoの長期にわたる成功につながったという面はありますか。

立松 : そもそもAlveoはスイス企業との合弁ということもありますが、英国、フランス、ドイツなど大国は、欧州のリーダーになりにくいのではないでしょうか。大きな国同士でけん制しあうからです。一方、スイスのような小国に本社を置くことで、欧州のリーダーになってもらうと、うまく行くようです。

スイスは、その歴史からも分かるように、強国の間にあって、うまく立ち回ってきました。しかも、多民族の国であり、子どものころから異文化に接することに慣れてきていると思います。語学力も重要なことです。スイス人はこうしたバランス感覚に優れており、リーダーとしての能力があると思います。

swissinfo : スイス人に対する評価が非常に高いですね。 

立松 : Alveoがここまで来たのは、人材に恵まれたからだと思います。欧州では、日本人の社長は務まらないでしょう。客である加工業者を理解するためには、やはり彼らの話す言葉を理解する人でなければならないと思います。しかし、完全なる現地化ではなく、本社とのやり取りなど、ポイントごとに日本人が抑えるというのが、理想だと思います。

swissinfo : 社内では日本人は立松さんお一人ですが、スイス人とうまく仕事をしていくコツはありますか。

立松 : 私は英語はできますが、ドイツ語は話しません。語学の壁は厚いですね。語学のせいで、直接市場を肌で感じられないことに悔しさを感じます。

しかし、なんにでも興味を持ち、あらゆるところに首を突っ込むことです。話せないと黙りがちですが、それでは駄目です。日本方式を押し付けるのではなく、なぜスイスではこうするのかと問うことで、会話が始まります。そこから、会社の改善するべきところが見えてきます。

swissinfo、聞き手 佐藤夕美(さとうゆうみ)

アルヴェオ
創立年 1971年
本社 ルツェルン
従業員数 480人
年間売上 1億ユーロ(約143億円)
社長 ジャン・ピエール・ソルマーニ

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部