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スイスに進出する意味 代理店を子会社に 東芝テック

常に対話。「時にはやりあうことも」と高井副社長 swissinfo.ch

スイスで東芝は、ポータブルコンピュータで有名だ。コピー機は長年スイスの代理店を通して販売していたこともあり、知名度がやや劣る。2004年4月、スイスの代理店を買収し、東芝テックの欧州本社(ドイツ)の子会社として東芝テック・スイスが生まれた。

ハンス・シルド氏(42歳)社長と日本から派遣されたアドバイザーの高井桂三副社長(62歳)の下、110人の従業員がスイスの中小企業をターゲットに東芝ブランドを売り込んでいる。

 スイスの代理店が買収され代理店からそのまま子会社に移行した時、従業員は拍手喝さいだったという。東芝ブランドで商品を販売できるのは「誇りです」と語るシルド社長。彼のコーポレートアイデンティティは日本人のようである。

代理店より子会社

 「東芝と言っただけでスイスでは、顧客の信頼を得るので、代理店を買収してよかった」と言うシルド社長。新しく東芝テックがスイスに子会社を創立すれば、これまで培ってきた規模にするまで時間がかかる上、代理店がライバルになる可能性もある。また、代理店を通しての販売では、商品が製造されて最終顧客に届くまでの道のりが長すぎ、コストもそれだけかかる。

 「そもそも代理店とメーカーは利害が一致しないこともある」と高井副社長はシルド氏の説明に補足した。情報を集めるにも、代理店を通してでは、正確な情報は集まらない。直接顧客のニーズを吸収できることが、子会社のメリットという。スイスの顧客は個人、中小企業、大学、行政機関など多様で、本社の調査などでは「サンプル」になりやすい。スイスの消費者の動向が、欧州や日本に応用されることも十分考えられる。

いかに勝ち抜くか

 東芝テックスイスがスイスで販売しているコピー機は、むしろプリンターと言ったほうが分かりやすい。単に書類をコピーするだけではなく、回線とつなげ、ファクスや電子メールを通して資料を送り、遠いところでプリントアウトできるといったカラー印刷のマルチ機能付きデジタル複合機。特に、中小企業向けの機種の販売に力を入れている。こうしたマルチ機能を持つコピー機は全体的に2003年から、スイスでも販売台数を増やしている。

 しかし、昨年のスイス市場における東芝のコピー機のシェアーは、台数でみると6.9%で第5位。前年からわずかに増えた程度。東芝テックに前後する会社もほぼ同じようなシェアー率で、4位との差は数台。「これが分かっていたら、もっと売っていました」とジョーク交じりのシルド社長。近年はプリンターとの競争もあり、状況は厳しい。

 スイス市場は価格より品質が要求されると言われてきたが、価格を厳しく比較する顧客も多くなったという。だからこそ、スイスがEUに加盟することにはシルド社長は反対だ。安価な同社のコピー機が隣国から流入すれば「無駄なコスト削減をせざるを得なくなる」スイスでは高価な反面、全国に10カ所あるサービス拠点を通して、迅速なサービスをするとシルド社長は言う。

勝つ喜び

 一方、高井副社長は、市場はすでにグローバル化していることを指摘。サービス充実だけでは他社には勝てないという。「中小企業の顧客には、仕事の効率が上がるための提案をし、その中で自社製品を使うように顧客を刺激することが必要」
  
 まずは、日本の高い技術とスイスの充実したサービスを使って市場シェアーを伸ばそうとするシルド氏。一方、高井副社長はそれだけでは不満そう。「スイスは国力があり豊かな生活ができることが理由なのか、今の自分に安住しているように思う。新しい考え方をしないと競合には勝てない。そして、従業員には、会社が大きくなる喜びや勝つ喜びを味わってもらいたい」と願う。従業員一人一人が、提案をして意見を交換する土壌を作り、飛躍できる会社にすることが日本人アドバイザーとしての高井副社長の今の役目という。

 昼食は必ず一緒という社長と副社長。スイス人になり切っているとシルド社長が高井副社長を褒めるなど、対談中はジョークを言い合いスイス人と日本人が親密である様子が伝わってくる。しかし、高井副社長のスイスの子会社に対する要求は、まだまだ高く、それをスイス人に伝えていくには、時間がかかりそうである。

swissinfo、佐藤夕美(さとう ゆうみ)

<東芝テック・スイス>
1941年オミヤ社が創立したオザリット社を代理店としてコピー機を販売。
2003年4月1日 東芝テックイメージングシステムズ(ドイツ)の子会社に
2004年4月1日 東芝テック・スイス創立
従業員110人 このうち70人がサービス技術者

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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