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スイスの中小企業 スキースーツのヴァムス社

オーストリアの選手、ハンス・クナウスのウエアーはスイス製。(写真 ヴァムス社提供) swissinfo.ch

アルペンスキー用スーツを製造するヴァムス社は、スイス西部、ザンクトガレン州のブックス市にある。26年前、競輪選手だったヴァルター・アムスラー氏が、たったひとりで始めた。いまや国外からの受注もあり、アルペンスキー選手が競技で着るスーツでは、スイス唯一、世界でも指折りの会社に発展した。

およそ10年前から米国やカナダのナショナル・チームからの受注に加え、今シーズンにはオーストリア・チームからも注文を受けた。

アルペンスキーで最近のスイス・チームは振るわない。イタリアのボルミオで1月28日から2月13日まで開催されているアルペンスキーの世界選手権でも、スイスは現在のところ1個もメダルを獲得できずにいる。一方、スイスの企業、ヴァムスのスキースーツを着る米国やオーストリアの選手は快勝だ。「レベルの高い技術を持つスイス企業が外国チームの勝利に荷担しているのではないか」と茶化し半分で皮肉を言われたこともあると語るのは、生産ライン担当のワルター・グラフ氏。ちなみにスイス・チームのスーツは、日本のスポーツウエアーメーカーが作っている。

FISの厳しい規定

 100分の1秒を競うような滑降競技などでは、スキー、ワックスのほか、選手が着るスーツにも空気力学を充分応用した高い技術が問われる。布の表面は鮫肌状となっていて、風の抵抗が少なくなるよう、毛の方向が脚の部分は上向きに上半身は下向きに縫製される。国際スキー連盟(FIS)の規定では、アルペンスキーの場合、スーツの布が通す風の量は1�uあたり1秒につき空気量30リットル以上と決められている。小売価格はおよそ3万円となる。

 スーツができあがる10月にはFISの担当者がヴァムスを訪問し、1着ごとにチェック。商品の発送前にFISの承認を得るが、競技後メダル獲得者は競技会場で再びFISのコントロールを受けることになる。選手は時速100km以上で滑るため、FISの規定以下になってしまうことを恐れ、競技に3度使われたスーツはお役ご免となるのが普通。そのほか、転んだりすると使えなくなるため、一シーズンで10着も注文する選手もあるという。

たった15人で世界の企業

 アルペンスキーのスポンサーとなっている米国のスポーツウエアー会社から、シーズンのデザインや布の指定など具体的な注文を受けるのは5月になってからだ。布は世界市場シェアーの8割以上を占めるという、隣町にあるエシュラー社に発注。ポリエステル製の真っ白な布は、内側には肌触りを考慮し銀製の糸が柵状に縫い込まれた布が張られている2層構造。しかし、デザインがプリントされる前の布の質は不揃いだ。FISの規定に沿ったスーツに仕上げるのは、ヴァムスの役割となる。

 米国のスポンサーから送られてくるデザインは、コンピュータでスーツの型紙に沿って処理される。大きな印刷用の紙に水性の染料をデザインどおり吹き付ける。前身ごろ、後ろ身ごろ、袖など前もって裁断された布を一枚一枚手作業で染料が吹き付けられた紙に乗せ、機械に通し、圧力と130度の熱で布の表面に印刷を施す。この際、FIS規定に沿うように印刷機械の圧力を調整するのがポイントだ。その後、布のパーツを縫製しできあがりとなる。 競技用のスキー・スーツを年間2,000着ほど生産している。米国やカナダのチームからの注文は、サイズが3種類と大雑把だったが、オーストリアのチームの注文はサイズの種類が15にものぼった。

 今シーズンは当初の注文以上の需要があり、追加注文が5回もあった。「従業員は15人の小規模企業の強みですが、他の生産ラインを止めて、その受注に応えることができる柔軟性が売り物です」と前出のグラフ氏は誇らしげである。

  スイス・スキー協会から、2、3年後にはヴァムス製のスーツが欲しいという申し出があったとアムスラー社長は明かす。発注から仕上がりまでの時間が短く、追加注文も受けるのが魅力なようだ。スイスチームがスイス製のスーツを着れば勝利できるというのであれば、ヴァムスのスーツは歓迎されるであろう。

swissinfo 佐藤夕美 (さとうゆうみ) ブックス(ザンクトガレン州)にて

創業 1979年
本社 ブックス(ザンクトガレン州)
従業員 15人
電話 +41 81 750 66 00
ファクス +41 81 750 66 01

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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