中国ブイ、大人用おむつ、日本ファッション、村田紗耶香…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(7月15日〜21日)伝えた日本関連のニュースから、①中国ブイで高まる日中緊張②高齢者がオムツメーカーを救う③人気急上昇の日本ファッション④村田沙耶香さんのチューリヒ滞在記――の4件を要約して紹介します。
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中国ブイで高まる日中緊張
沖ノ鳥島周辺の公海上に中国の海洋調査船がブイを設置したことで、領海をめぐる日中間の緊張が高まっています。ドイツ語圏の日刊紙NZZは、台湾駐在で地政学に詳しいパトリック・ツォル記者が、沖ノ鳥島は「島か岩か」という問題に遡り、この島がなぜ両国にとって重要なのかを解説しました。
「沖ノ鳥島は日本人から見れば島だが、中国から見れば岩だ」。日本が「島」である沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域と延長された大陸棚を主張するのに対し、中国はこの主張を不当だと考えています。ブイが延長された大陸棚の上に設置されたことを日本は警戒していますが、中国政府はブイは公海上に置いたと主張し、記事は「これは合法だ」と指摘します。
ツォル記者はオーストラリア国立大学のドナルド・ロスウェル教授(国際法)に取材し、「沖ノ鳥島が島であるという日本の立場は弱い」との見方を紹介。ただしブイの設置は「中国政府が日本政府の主張を尊重していないことが目に見える形で示された」ものだと指摘しました。
記事は、日本は沖ノ鳥島が島だと主張するためにブイを没収することは可能だが、そうなれば「すでに緊張している両国関係にさらなる負担がかかることになる」とみています。日中はすでに尖閣諸島を巡っても争っていることもその論拠に挙げました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
高齢者がおむつメーカーを救う
製紙大手の王子ホールディングスが3月、子ども用の紙おむつから撤退し、大人用を強化すると発表しました。発表当時もスイスでニュースになりましたが、ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは「高齢者の失禁が日本のおむつメーカーを救う」と題して改めて背景を掘り下げました。
記事は、おむつメーカーは「かつては安全側にいた」と位置付けます。おむつを着用しない赤ちゃんはおらず、過去のベビーブームでは常に新しい顧客が生まれていました。「緑茶やコメのように、おむつは勝手に売れる商品だった」
しかし少子化が急速に進み、前回ベビーブーム(1973年)で210万人だった年間出生数は今や73万人弱に。一方で平均寿命が延び、高齢者の尿漏れ対策の必要性が増しています。記事は赤ちゃんと違って高齢者はすぐにおむつが外れないこと、赤ちゃんよりも大きく丈夫なおむつが必要なこと、高齢者は「腰回りが詰まったり素材が十分に吸収されなかったりといったことに文句を言うのが上手」という特徴を挙げました。
そのうえで「生産者はこの挑戦を喜んで受け入れている」と続けます。大人用おむつの売上げが大きく伸び、今後の成長も確実視されるからです。記事は「おむつ指数は、日本の各世代が進む方向を示している」と結びました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
人気急上昇の日本ファッション
コム・デ・ギャルソンやユニクロはなぜ人気なのか?ザンクト・ガレン・タークブラットなどCHメディア系の地域紙に、日本ファッションの人気の秘密を探る記事が掲載されました。
記事はまず、人気ロックバンド「X JAPAN」のYOSHIKIさんが立ち上げたブランド「メゾン ヨシキ パリ」が2月のミラノファッションウィークに登場外部リンクしたことを紹介。「58歳の日本人デザイナーが着物とパンクにインスパイアされたショーを行ったことは、大きな話題の一つとなった」と伝えました。
「世界では日本ファッションへの憧れが強く、日本ブランドの海外進出は国内では誰も気に留めていないが、世界ではスタイリッシュだとみなされている 」。記事はファッションショーだけではなく、「手ごろな価格で多目的に使える」ユニクロや、「フェミニンにこだわらない先駆的ブランド」であるコム・デ・ギャルソンといった既製服ブランドも紹介。英語のBathing Ape(湯あみするサル)に由来するブランド「BAPE」を「日本のファッションが自家製であることはあまりない。人気デザイナーは外国語をブランド名に使うことが多い」ことの代表例に挙げました。
日本ファッションの人気急上昇の背景として、日本的な美意識が全般的に人気を集めていると分析しました。特にインテリア分野では、北欧スタイルと融合した「ジャパンディ」が注目の的に。日本に旅行した欧州の人々は、帰国後に「日本の多くの人々のエレガントな外見、シンプルなインテリアデザイン、思慮深い食器の配置、社会生活全般の調和のとれた雰囲気について繰り返し絶賛する」と伝えました。(出典:ザンクト・ガレン・タークブラット外部リンク/ドイツ語)
村田沙耶香さんのチューリヒ滞在記
芥川賞作家の村田紗耶香さんが、スイスの「Writers in Residence」プロジェクトでチューリヒ市内に半年間滞在。7月1日に日本に帰国した村田さんの寄稿が、チューリヒを中心とする日刊紙NZZに掲載されました。
☟村田紗耶香さんのインスタグラム投稿
同プロジェクトは世界の文学家をチューリヒ市内の家具付きアパートに招待し、執筆活動に集中できる環境を提供しています。日本人として初めてこれに参加した村田さんは「日本では自宅ではほとんど執筆できないが、この町ではそれができた」。複数のエッセイを執筆し、新しい小説を雑誌に投稿しました。4月22日に最終ページを出版社に送り、翌日には次の小説に取り掛かり始めたそうです。
チューリヒでは1人で過ごす時間が多かったとのこと。「都会の音が違うせいか、頭が穏やかになった」。創造力の破片が目や耳、脳に詰まっているようで、東京ではそれを日々「掃除」しなければなりませんが、チューリヒではその頻度が大きく減ったと振り返りました。
ただバラ色の執筆生活というわけではなかったようです。村田さんは「ベッドから起き上がれない日もたくさんあった」と告白しています。「心の奥底に根を下ろした死への願望で、私は何度も動けなくなった」。そんな日はアパートの窓から陽の光や雪の結晶、暗闇を眺め、雨音に耳を傾けて過ごしたそうです。
「この6カ月間は、私にとって旅というよりは『ステイケーション(自宅や近場で休暇を過ごす)』のようなものだった」。時には自身が「ひきこもり」状態にあったと言い、ドイツ語でその状態を何と言うのか尋ねると日本語と同じ「Hikikomori」だとの答えがあり笑ってしまったというエピソードを紹介しています。
今後もレジデンスには別の作家が半年ずつ滞在し、執筆にあたっていきます。「その思いの中で、生ける機械である私は言葉を発し、百年後、千年後にこの空間に存在するであろう言葉を想像するだけで、私の痛みは和らぐ」と村田さん。帰国後すぐに、新作の改訂作業に打ち込むそうです。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
- フラン高・円安で目減りする日本株高外部リンク(7/15)
- 首相、強制不妊手術の被害者に謝罪外部リンク(7/17)
- 対中強硬で結束 太平洋・島サミット外部リンク(7/18)
- 「SHOGUN」が米エミー賞で最多ノミネート外部リンク(7/18)
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話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スウォッチ1~6月期売上高14.3%減 中国の需要低迷が重荷に」(記事/日本語)でした。他に「トランプ氏銃撃、スイス大統領『容認できない』」(記事/日本語)、「世界的なIT障害でスイスの空港も混乱」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は7月29日(月)に掲載予定です。
校閲:大野瑠衣子
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