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スイス人女性 生け花で「旭日双光章」受章

大きなインスタレーションは前もってある程度アイデアがあるが、多くの場合素材と対話しながら生け花の形を作っていくという swissinfo.ch

スイス人女性エルスベス・フォン・ジーベンタール氏 ( 74 歳 ) が平成21年秋の叙勲受章者として「旭日双光章」を受章。12月3日ジュネーブで行われたj授章式で、生け花をスイス及びヨーロッパに導入しその発展に寄与した功績が称えられた。

「生け花はただ好きで40年以上続けてきた。このような栄誉に預かるとは夢にも思っていなかった」と語るジーベンタール氏にインタビューした。

 チューリヒ州の乳製品加工業を営む家に生まれ、家業を手伝うため通っていた美術学校を1年で辞めた。陶器や彫刻に魅かれていた。結婚後、夫の仕事で行った日本で生け花と出会う。「夫の出張が多かったので週に4回生け花に通った」と笑う。3年間住んだ日本を離れるときには草月流の教授資格を手にしていた。今、ジュネーブで70人近い生徒に教えている。「全情熱を注いで教えてくれる」と生徒たちは絶賛する。

swissinfo.ch : 「旭日双光章」を受章された感想はいかがですか。

ジーベンタール : 深く感動しました。菅沼健一在ジュネーブ日本国総領事の祝辞を聞き、胸にこみ上げてくるものがありました。生け花では生活はできない。好きでここまで続けてきただけで、まさかこのような栄誉に預かるなど思ってもみませんでした。

swissinfo.ch : 生け花の魅力は何でしょう。

ジーベンタール : 植物という生きものを使い、構成していくことが生け花の最大の魅力でしょう。また、創作しても、数日ではかなく消え失せ、そうしてまた新しく創作する。売れないし、売る必要もないことも大切だと思います。

この何度も何度も新しく作っていくことが素晴らしいと思います。季節や手に入る素材によって、毎年新しいものを作ります。同じ季節に同じ素材で同じことをやったという生徒がときにいますが、それは違うと答えます。同じバラや松を使っても、毎回違うものになるのが生け花だと思うからです。

生け花は買えるものではない。人は生け花を自分のためにするのです。また創作していく過程は、結果と同じか、またはそれ以上に大切で、まるで一つの道を進んでいくようなところがあります。もちろんきれいに仕上がると嬉しいのは当然ですが、あくまで創作過程の時間が大切だと思います。

今80歳になるある女性は、夫が生け花を嫌っていましたが、アパートの一角を自分のものだと決めて、生け花を飾り続けました。この女性にとって、生け花を続けていくことは大切で、生け花から自分らしさを保つ力を貰っていたと思います。

swissinfo.ch : 生け花教室は和やかな雰囲気ですね。

ジーベンタール : 生け花には対話があります。まるで音楽を一緒に奏でるように、読書を一緒にするように、グループ内で交流するのが楽しいのです。もう30年も続けている人が何人もいて、一緒に創作しながら、眺め合い、話し合い、ときには庭から切ってきたものを分け合い、同じ時間を共有するのです。

swissinfo.ch :  生徒に生け花を通して贈るメッセージは。

ジーベンタール : 紙、鉛筆を使ってデッサンするのが苦手な人でも、木の枝を触ると素晴らしいものを作り上げられる。自然が人を動かして創作させるからです。

また、生け花をやっていると自然の見方がまったく違ってきます。あらゆるところに生け花を見つけるというか。例えば、今冬で ( 外の木を眺める ) あの裸の木の枝と枝が交わった所などに、生け花の形を見出し、そこだけ写真で切り取るように眺めていくようになります。また春に花が満開の木の枝ぶりなどにも生け花を見出します。

さらに、草月流は特にそうですが、自然を尊重しながら、創作するときには喜びを持ってやるよう、いつも生徒に言います。生け花は喜びであるべきなのです。

swissinfo.ch : ご自分が創作されるとき、初めから形が頭の中にあるのですか、それともやりながら生まれるのでしょうか。

ジーベンタール : ホテルなどに生ける大きなものは、ある程度前もって形を考えています。しかし例えばこれは ( 今生けた黒い花器での生け花を指す ) 花器のラインを再現した形であるように、花器からインスピレーションを得ており、または多くの場合、枝や花など素材からインスピレーションを得て形を作ります。

最初から形が頭の中にあると、枝が思うように曲がらなかったりして、結局素材に従わざるを得ない。素材を尊重し、素材と対話しながら形を作っていくのです。もちろん、こうなる前に基本の型がある程度できていなくてはなりませんが。

swissinfo.ch : 生け花に日本文化の特徴を感じますか。

ジーベンタール : 神道がそうですが、自然を尊重する心です。それと自分を制する厳格さでしょうか。それに日本人の振る舞い、あり方が生け花によって影響を受けているようにいつも感じます。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch

チューリヒ州のオテンバッハ ( Otenbach ) に1935年生まれる。家業はヨーグルトやバターなどを作る乳製品加工業。家業を手伝うため、18歳で通っていた美術学校を辞める。
1962年、夫の仕事で日本に滞在する。草月流の生け花に没頭する。
1965年、スイスに帰国後、初期のスイスにおける生け花教室の創設者の1人になる。
1967年、本格的に生け花を教え始める。
1990~94年、ジュネーブの草月流会長を務める。
1992年、ジュネーブのパレエクスポ ( Palexpo )で、池坊、草月合同の生け花の大展覧会が開催され、この頃から生徒が増える。
2006年、生け花インターナショナルの50周年記念で日本に行く。多くの行事に参加。
在ジュネーブ日本国総領事館の生け花教室などで教える。
2009年12月、平成21年秋の叙勲受章者として「旭日双光章」を受章する。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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