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政治をしたい連邦内閣

閣僚団結の意志は、職務の効率を良くする。スイスという一国の運命のために、より効果的で、政治に大きく影響を持てるようになる Keystone

大統領任期の延長、連邦内閣事務局の増設の是非が連邦議会の議題に上がっている。国民の代表としての職責を遂行し、スイスの政治的戦略を高めるための行政改革が、この夏の連邦合同会議での決議を待つ。

1848年の近代国家スイスの誕生以来、スイスの政治構成はほとんど変わっていない。しかしその間、世界は根底から覆される程変貌し、政治は複雑化し、多様化している。

「一歩一歩地道に継続する」外交

 連邦内閣は報道陣に向けて、行政改革の概要についての発表を行った。

 改革の必要性は、90年代末にすでに表面化していた。しかし、決行には至らない漠然とした審議だけが続き、改革案は座礁していた。しかし今「時は熟した」と、ドリス・ロイタルト大統領は判断する。
 ロイタルト大統領はグローバリゼーションの波と経済の低迷が改革の必要性を押し上げ、外交の重要性が再認識されたと見ている。
 
 その結果、連邦内閣及び連邦大統領の政治力強化を求める声が高まった。連邦内閣はそもそも、予期せぬ出来事が起こった際に解決を図る役割を担っており、「一歩一歩地道に継続する外交」が大切だと、連邦司法警察省エヴリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相は主張する。

任期延長、しかし権限は同じ

 連邦内閣は、大統領の任期が1年間に限られているのは不十分だとし、2年間に任期を延長するよう要求した。4年任期案は、閣僚の4年任期と重なり、主要諸政党が共に政治を行う「全政党政府」のシステムが崩れてしまうことを理由に却下されたと、ロイタルト大統領は語る。
 
 現段階では、大統領選出は議会とするのか連邦政府とするのかといった決定や、特定の政党や言語圏が大統領職を独占しないための取り決めなど、改正案の詳細についてはまだ決まっていない。とはいえ、副大統領については1年任期のままとなり、年功序列による現行のローテーションシステムは現行のまま据え置かれた。 

 その他の詳細事項として、大統領の権限は従来のままにとどまる。ラテン語の«primus inter pares»「同輩中の首席」の理念通りに、7人の閣僚は完全に平等だ。従って、この改革はスイスが「大統領連邦国」となることを目指すものではない。

7は理想の数

 連邦内閣はその上で、大統領府や大統領職を管轄する省を新設するのではなく、むしろ大統領首脳陣の強化を図るとし、シュルンプフ司法相は強力な行政支援配置の可能性を示唆した。7人の閣僚がそれぞれ1省の大臣となることにはこれまで通り変わらないが、内閣事務局を増設する案だ。

 閣僚は、各省の管理や議会との交渉に携わりながらも政治に集中するという、二足のわらじを履くことには変わりない。「各省の大臣が、それぞれの責任を負う」というロイタルト大統領の言葉通り、立法から行政が離れるのではなく、むしろ今以上の議会との「実り多き協力」を目指す。

 内閣事務局の数はまだ具体的に決められていない。8人あるいは10人になるかもしれないと、シュルンプフ司法相は話す。内閣は、各省の改革と平行して、これら課題の詳細について審議を続ける。

 連邦政府は、閣僚の人数は現行の7人のままで変更しないとしている。ロイタルト大統領によると、7人というのは合議制内閣にとって理想的な人数だという。もしもこの人数が9人に増えると ( イタリア語圏ティチーノからの恒久的な選出を求める声が一部から上がっているが )、「物事が複雑化する」と大統領兼経済相は理由付けた。

 たとえ9人になったとしても、職務が軽減するわけではないと、シュルンプフ司法相は語る。

 「閣僚団結の意志は、職務の効率を良くする。スイスという一国の運命のために、より効果的で、政治に大きく影響を持てるようになる」
 と、ロイタルト大統領はまとめた。

煮え切らない反応

 連邦内閣の改革案に対し、主要な政党の反応は冷静だ、右派の国民党 ( SVP/UDC ) は、「政治の戦略的な問題は、まだ解決されていない」との声を上げた。

 それどころか改革案は「不均衡であり、外交中心であり、官僚主義」に拍車をかけると主張する。強力な政府を執り行うためには、国民投票による閣僚の選出が不可欠であると、スイス最大の政党は公式声明を発表、連邦内閣閣僚選出には国民の直接選挙を必須とすることを求めるイニシアチブを発足させた。

 社会民主党 ( SP/PS ) 周辺では、アンドレアス・グロス下院議員が、改革は、過去の事なかれ主義からの「大きな一歩」と評した。しかしながら、必要最小限主義であり思い切った改革がなされていないと、スイス通信 ( SDA/ATS ) に語った。グロス氏によると、連邦大統領選出は、議会によって行われるのが望ましいという。

 緑の党 ( GPS/Les Verts )、ウエリ・ロイエンベルガー氏も、「改革には熱意が足りない」とする。ロイエンベルガー氏が最も主張することは、閣僚の人数を9人に増やし、各言語圏から選出することだ。

 急進民主党 ( FDP/PLR ) は、「どちらかというと、満足な結果」だと発表した。スポークスマンのフィリップ・ミオウトン氏によると、この改革によって、連邦内閣に先見の明が備わるとする。キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) のスポークスマンは「大統領の強力化は前向きに捕らえているが、まだ不十分」だと言う。マリアンヌ・ビンダー氏は、事務局の新設は、議会に承認されるべきであると語った。

ソニア・フェナッジ、swissinfo.ch
(翻訳、魵澤利美 )

1990年:連邦内閣は政府改革プランのための研究グループを結成。特に連邦閣僚の人数増加と、事務局の設置について検討。
1993年:内閣が、政府の職務軽減のため、21局までの内閣事務局の設置を議会に提案。
1995年:議会は10人を上限とする内閣事務局の設置を承認。
1996年:国民投票では61%の反対により否決。
1998年:閣内で審議を再開。7人から9人への閣僚の増員と、大統領府または「二重政府 ( 各閣僚に、各省のスペシャリストを側近として配属する )」の設置という、二つの改革案が議題に上がる。
2001年:内閣により「二重政府」案が議会に提案される。
2003年:全州議会で、閣僚は7人から9人への増員が好ましいとの決議が出される。
2004年:国民議会は、各省管理の効率化についての新しい改革案への要望を付け加え、全ての改革案を全州議会に差し戻した。
2008年:連邦政府は各省の再編を断念。
2009年:議会の圧力の下、閣内で改革案を再審議。大統領任期の延長を提案。
2010年:国民党は、連邦内閣閣僚選出には国民の直接選挙を必須とすることを求めるイニシアチブを発足させた。

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