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スイス国鉄、キセル対策に本腰

自動券売機の前に並ぶ人々。電車に乗り遅れる方がいいか、それとも高い罰金を払うべきか? Ex-press

スイス国鉄(スイス連邦鉄道、SBB/CFF)では新しい年がもう始まっている。12月中旬から時刻表が一新され、さらに車内での乗車券販売が廃止された。

これからは切符を買い忘れたり、時間がなくて切符が買えなかった乗車客には高い罰金が待っている。

 「もちろん乗車には切符が必要。不正乗車(キセル)を促す状況は良くない。だが、時間がなかった人に切符を買うチャンスを与えないのはどうかと思う」。こう話すのはスイス消費者団体のサラ・シュタルダー会長だ。

 例えば、乗り換えの電車が遅れたために切符が買えないなど、切符を購入せずに乗車した人にも正当な理由があるとシュタルダー氏は指摘する。

 今回の規定改正では、乗車券を持っていない乗客は正規運賃に加え90フラン(約7400円)を罰金として支払わなくてはならない。

 スイス国鉄のアンドレアス・マイヤー総裁はドイツ語圏の日曜新聞「NZZアム・ゾンターク(NZZ am Sonntag)」に対し次のように語った。「切符を持っていなかったり、横暴な振る舞いをする困った乗客は常にいる。車掌が乗客に鼻をかまれたことも今年はあった」

 今後も、乗車後にルートを変更したり、2等車から1等車に変更したりすることは可能だ。スイス国鉄によれば、車内で乗車券を販売する必要がなくなるため、車掌は乗客へのサービスに時間をもっと取ることができるという。ただし、いくつかの混雑する区間では車掌は乗車しなくなる。

 シュタルダー氏は「従業員の削減は大問題だ。この場合、長期的にコストが膨らむだろう」と話し、車掌の監視がない電車ではゴミのポイ捨てが増え、セキュリティも低下すると危惧する。

 車内の安全に関しては、チューリヒの郊外を走る電車でマナーの悪い乗客が増えており、これに対応するため、その区間では最近、夜9時から車掌が再び乗車することになったほどだ。

涙をぬぐって

 今回の運賃値上げで、消費者や乗客の不満は募る一方だ。ある月曜日の朝、スイス交通クラブ(VCS/ATE)が8000個のポケットティッシュをスイス全国の駅前で配ったことがあった。電車の運賃値上げで悲しみの涙を流す乗客にティッシュで涙を拭いてもらおうというアイデアだ。

 この値上げで運賃は平均1.2%上昇した。比較的に少ないように見えるが、今後数年間で劇的に上昇すると予想されている。公共交通連盟(VÖP/UTP)によれば、2018年には前年比で27%上昇する可能性もある。

 スイス交通クラブ広報担当のゲルハルト・トゥーバント氏は「運賃が高くなりサービスが低下するのは良くない。電車よりも安くつくからと自動車を利用する人が増えるのでは」と懸念している。「公共交通機関でなく車を選ぶ人が増えれば、二酸化炭素(CO2)排出量が増え、持続可能な交通政策が維持できなくなる」

 シュタルダー氏もとまどいを隠せない。「鉄道交通のコストが今後数年でどう負担されていくのか分からないのに、今から消費者に値上げを押し付けるのは考えものだ。まだ何も決まっていない。まず最初に政治的議論をし、誰が何を払うのかはっきりさせてから運賃の値上げを決めるべきだ。それなのに、すでに運賃を年間2~4%値上げする方向に向かっている」

新しい電車、新しいトイレ

 NZZアム・ゾンターク紙のインタビューでマイヤー氏は運賃の値上げについて弁護している。「なぜ顧客はスイス国鉄のサービスが悪くなっていると感じているのか、本当に理解できない。実際は、顧客の要望に応えるためにさまざまな改善をしようとしているのだが」。マイヤー氏はその例として、新しい電車、電源コンセント、ワイヤレスLAN、乗務員の増員などを挙げている。

 改善策には駅構内のトイレも含まれている。無料の公共トイレを望む声に応えるため、スイス国鉄は2012年から駅構内のトイレの無料化を検討している。

 現在は駅構内の有料トイレを利用すると2フラン(約165円)かかる。そのため、停車中の電車に素早く乗り、車内トイレで用だけ足す人が近年増えている。マイヤー氏は次のように言う。「無人駅ではトイレをどうやって清掃すべきか、これから検討していかなくてはならない」

 清潔さ、安全性、利用のしやすさ。この三つがシュタルダー氏が駅のトイレに求める改善点だ。「スイスの公共交通は優れているが、問題点もある。近年になって、良くなってきたというよりも、むしろ悪化しているように思える。スイス国鉄は公共サービスだという点を忘れてはならない。最近スイス国鉄はますます営利的になっているようだが、それは良くない」

電車の利用距離でスイス人の右に出る者はいない。公共交通情報サービス(LITRA)によれば、2010年、スイス人1人当たりの電車利用距離は平均2258kmだった。ただ、2009年の2291kmから若干少なくなっている。

スイス人の利用距離に唯一近いのが日本人で、1910km。

ヨーロッパでは2位がデンマーク人の1322km、3位がフランス人の1320km。

1年間に利用する電車の本数では、スイス人は50本とヨーロッパ一。だが、世界ランキングでは日本人が69本でトップ。

この統計数値は国際鉄道連合(UIC)に加盟する各鉄道会社より提供されたもので、スイスの統計には私鉄は含まれていない。スイスの私鉄は公共交通の約13%を担う。

スイス国鉄(スイス連邦鉄道、SBB/CFF)の鉄道網を利用する電車の数は、毎日約9000本。1日1000本が各都市の中央駅に発着し、利用の激しい区間は1日500本が走行する。

スイス国鉄によれば、スイスの鉄道網はヨーロッパ一の密度を誇る。運行本数も多いが、旅客列車の20本中19本は4分以内の遅れで目的地に到着する。

スイス国鉄の売り上げは2011年上半期、1億6650万フラン(約140億円)だった。

(英語からの翻訳、鹿島田芙美)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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