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スイス検事総長とロシアに黒いつながり?

Lauber
国際サッカー連盟(FIFA)の汚職捜査をめぐり、スイス連邦検事総長ミヒャエル・ラウバー氏の弾劾手続きも進行中だ Keystone / Peter Schneider

米国と欧州の重鎮政治家がスイス政府にある書簡を送った。スイスのミヒャエル・ラウバー連邦検事総長の独立性に疑問を呈し、さらにはロシアとの不透明なつながりを懸念するという内容だ。

欧州安全保障協力委員会(冷戦後の欧州の安全保障問題を監視する、議会と執行部の合同機関)の共同議長を務めるロジャー・ウィッカー米上院議員は先週、駐米スイス大使に対し、スイス司法界幹部の独立性について苦情を述べた。

欧州評議会議員会議・法務人権委員会のボリス・チレビッチ委員長は今月初め、欧州議会のスイス代表に書簡を送り、同様の懸念を正式に表明した。

英フィナンシャル・タイムズ紙はその書簡のコピーを実際に見ている。

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FT

スイスの連邦議会が5月、ラウバー氏への弾劾手続きを決めたことで、同氏のキャリアは岐路に立たされている。

2012年以降、スイス国内におけるすべての刑事手続き、また事件捜査を率いてきたラウバー氏は、一連のスキャンダルによってここ数カ月の自身の権威に汚点が付いただけでなく、同氏の判断にも疑問符がついてしまった。

議会が弾劾手続きを決めた理由の中心は、国際サッカー連盟FIFA(本部・チューリヒ)の汚職事件に絡むスイス当局のめざましい捜査の中で、ラウバー氏が取ったやり方にあった。

しかし最近では、他の知能犯罪、特にモスクワ絡みの事件について、ラウバー氏の関わりに懸念が高まっている。

スイスの最高刑事裁判所は先月、ラウバー氏のもとでかつてロシア情勢の最高顧問を務めていた人物が問われた軽微な贈収賄罪について、この判決を支持した。公判では、ラウバー氏がロシア高官との非公式なつながりを保つため、どのような裏のチャネルを使ったかが明らかになった。その多くは米国、欧州によって禁止されているものだ。

特に証言によれば、ラウバー氏のスタッフがマグニツキー事件の擁護者の信用を貶めるというロシア側の企みに共感を寄せていたことが示された。この事件は、2009年のセルゲイ・マグニツキー弁護士の死に絡む汚職スキャンダルで、国際的な注目を浴び、米国と欧州がロシアに法的規制をかけたきっかけにもなった。

フィナンシャル・タイムズは5月、事件絡みの機密情報を引き渡すよう求めたロシア側の要求に、スイス高官が応じる意図があったことを明らかにした。

ウィッカー上院議員は6月25日、スイス大使に「マグニツキー事件の捜査責任当局であるスイスの司法機関で、そこの最上級のロシア情勢専門家が、ロシア当局者から贈り物を受け取っていたことが発覚するとは」と苦言を呈した。

個人的なつながり

スイスのマグニツキー事件の捜査は「何年も続いた」とウィッカー氏は付け加え、スイスの不作為を比べる対象に、米国のロシア人への制裁や刑事判決を挙げた。ウィッカー氏は 「この捜査が完璧であるものだという信頼を回復するため、あなたの政府がどのような措置を講じ、また今後講じるつもりかについて、あなたから連絡を頂きたい」と綴った。

チレビッチ氏も同じく辛辣な言葉で「連邦検察官のラウバー氏と彼の『ロシア専門家』、そしてロシアの検事総長、彼の近しい協力者たちとの間の密接な関係」を懸念していると述べた。

同氏は「あなたから問い合わせて頂ければ幸いだーーなぜラウバー氏が、ロシアとの協力を好んでいるようにみえるのかと」と訴えた。

ラウバー氏の広報担当者は「連邦検察庁…の刑事・法的手続きは、関連する法的根拠のみに基づいて行われる。したがって、政治的な観点で行われることもなければ、関与する人々との『近すぎる』つながりを示唆することもない」と否定する。

ラウバー氏は「世界的にネットワーク化された環境で、複雑さを増した大規模な訴訟に対処している」とし、スイス当局が現行の国際法の義務にのっとり、すべての外国の関連機関と緊密に協力する必要性を強調した。

ラウバー氏の弾劾手続きがすぐ終結する可能性は低い。スイス連邦議会は、ラウバー氏が自身の行為を監督する監査当局に起こした民事訴訟の結果を待つ構えだ。早くても今夏末までに決定が出ることはなさそうだ。

一方、ラウバー氏は依然、大勢の連邦議員からたゆまぬ敬意を集めている。昨年のFIFA事件捜査で同氏が取った行動についてはネガティブなニュースが相次いだが、スイス連邦議会は昨年9月、同氏の再選(任期4年)を賛成多数で可決した。

Copyright The Financial Times Limited 2020

スイス連邦検察庁は、フィナンシャル・タイムズの報道に対し、スイス法の独立した執行者としての立場を擁護した。

ロイター通信によると、ラウバー氏側は電子メールでの声明で、すべての捜査は法的根拠に基づいたもので、個人的・政治的なつながりはないと回答した。

ラウバー氏自身にコメントを要請したが、すぐに返答は来なかった。連邦政府の広報担当者からの返答もない。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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