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スイス気候シナリオ2018 2060年には灼熱がスイスを襲う?

干上がった湖とボート
ヌーシャテルのブルネ湖。2018年夏、異常な干ばつがスイスを襲った。
(KEYSTONE / ANTHONY ANEX)

都心で40度超の猛暑、長期化する干ばつ、雪のほとんどない冬。約40年後のスイスは、ちょうど現在の地中海性気候のようになっているかもしれない。この気候変動がスイス社会、アルプスの観光業、そして環境に与える影響とは?

「本日、ジュネーブでは気温が45度まで上昇しました。高原やアルプスの谷間では、今年になって20日目の猛暑日です。1カ月以上前から南アルプスやヴァレー(ヴァリス)州の上空を覆っている高気圧は、今後数週間続くものと思われます。干ばつが続いているので、節水を心がけましょう」。

2060年ごろの夏には、スイスでこんな天気予報が流れている可能性がある。こういった見通しは、スイス気象台(メテオ・スイス)と連邦工科大学チューリヒ校(EHTZ)が11月中旬に共同発表した「スイス気候シナリオ2018他のサイトへ」によるものだ。「スイスの気温は上昇を続け、空気は更に乾燥するだろう」。メテオ・スイスのペーター・ビンダー局長はそう結論づけた。

スイスで今後、予測される夏季平均気温の推移を表したグラフ

スイスで今後、予測される夏季平均気温の推移。赤は気候保護対策がなかった場合、青は温室効果ガス放出に対する処置があった場合の予想。1981年~2010年の気温の移り変わりを基に算出した。

(swissinfo.ch)

今世紀後半のスイスの気象がどのようになるかを予測するには、今年何が起こったかよく見ればいい。そう強調するのは、EHTZ気象学科のクリストフ・シェー教授だ。「2018年の猛暑は、未来への警告。現在では極端に見えることが、2060年にはごく普通の現象となり得る」。

アルプスを流れる氷河の風景から、平地の都会に住む人々の生活まで ー 温室効果ガス排出量の徹底的削減を訴える声が届かなかった場合、地球温暖化がどのような影響をもたらすのか。

小さな氷河の終焉

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1850年以来、スイスに約1500ある氷河は、全体の6割を消失した。2018年夏だけで全体の2.5%が溶解している。気温上昇と春季の降雪量減少で、小規模の氷河は消滅の危機にあると、EHTZの氷河学者マティアス・フース教授は予測している。連邦環境省環境局(BAFU)は、アレッチ氷河のあるヴァレー州やベルナーオーバーラント地方など、比較的標高の高いアルプスにある氷河しか生き残らないだろうとの見方を示した

ビュンドナー美術館 氷河 凍った時の流れ

写真家ダニエル・シュヴァルツさんが気候変動のテーマに取り組むようになってからもう長い。ビュンドナー美術館で開催中の展示会「さまよう氷河」では、美術館の目の前で実際に起こった環境の変貌が写真に収められている。

氷河の縮小は、なにも景観や斜面の安定だけに影響するのではない。その土地の生活用水にも深く関わってくる。2011年度の気候シナリオによると、「気候変動は、その土地の水資源を著しく変えてしまう」。BAFUの水文学部長オリバー・オヴァ二―教授はそう指摘した上で、「正確なデータを得るために、水分学モデルにおける新しい気候シナリオを組み入れる必要がある」と強調する。

確かなのは氷河の縮小が、スイスのアルプスに源流を持つヨーロッパ各地の大河に大きな影響を与えるということだ。予想では、ローヌ川の水量が数年以内に4割減少すると言われている。 

アルプス地方の観光

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今後、冬の降雪で一面が銀世界になる可能性はまだある。ただ、頻度が少なくなることは間違いない。ツェルマットやサンモリッツでスキーをする場合、現在より3~6割少ない雪で滑るしかない。標高1500メートル付近のスキー場では、降雪日が年間約100日も減ると見られる。標高1350メートルのアデルボーデンに至っては、現在のベルン(542メートル)の降雪量を下回るだろうと、連邦森林降雪国土研究所(WSL)他のサイトへと連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は予測他のサイトへした。

雪の少ないスキー場の写真

2016年12月29日、アデルボーデン(ベルナーオーバーラント地方)スキー場のようす

(© KEYSTONE / PETER KLAUNZER)

スキーシーズンだけでは経営が成り立たないため、多くのスキーリゾートは数年前から、夏と秋シーズンのプロモーションを進めていると、スイス・ロープウェー連盟他のサイトへの広報、ブルーノ・ガリカ―氏は明かす。とはいえ、スイスのウインタースポーツが絶滅寸前というわけではない。ガリカー氏はそう強調した上で、「人工降雪機を利用して、あと数十年はスイスでスキーを楽しめるだろう。標高の高い山岳が連なるスイスは、近隣諸国と比べても競争力があるといえる」と述べた。

モミの木より、カエデやナラの木

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WSLによれば、温暖化により植生帯が標高500メートルから700メートルにまで高くなることが予想される。山岳部では、かつて針葉樹があったところにナラやカエデなど広葉樹が生育するようになる。スイスの林業にとって最も重要な木材である赤モミは、キクイムシに特に弱いため、高原から消滅する危険性がある。

専門家によると、あらゆる種類の樹木へのサポートが重要であるという。生物多様性の高い原生林なら、暑い夏や雨の多い冬も耐えうるからだ。未来の森林を守っていくため、多くのエンジニアたちが奮闘している

WSLの森林エンジニア、マルコ・コネデラ氏が指摘するのは、気温の上昇と低地の降雪量減少によって森林火災が起きる確率が高くなる点だ。「更に、すでに一部現実化している傾向として、火災が起きやすい時期が秋から冬にかけて拡大しているということが挙げられる」。

悪化する生物多様性

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スイスにおける生物多様性は非常に悪化している。自然保護団体プロ・ナチュラ他のサイトへのウルス・テスター氏によると、36%の動物、植物、菌類がレッドリストに載っているという。地球温暖化により、状況は悪化の一途をたどることが予想される。「つまり南ヨーロッパに生息する動植物がスイスにやって来る。その種類も激減するだろう。彼らにはますます棲みにくくなり、移り住む場所も見つからない。Helm-Azurjungfer(イトトンボの一種)、モウセンゴケ、ライチョウなど、水辺や湿地、山地に生息する動物が特にその被害を被ることになる」。

2羽の鳥

標高2000~2500メートルに巣を作るライチョウは、15度以上の高温に耐えられない

(Wikipedia / Jan Frode Haugseth)

農家に良い知らせと悪い知らせ

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農業者にとって悪いのは夏季の降水量が減ることだけではない。気温の上昇により水分の蒸発量も増える。その結果、土壌は乾燥し、散水量も増やさざるを得なくなる。のみならず、有害生物も増加し、亜熱帯や熱帯地方特有の病気がスイスに蔓延するかもしれない。連邦農業局の研究機関アグロスコープ他のサイトへのピエルルイージ・カランカ氏はそう推測する。

スイス農家組合他のサイトへの広報担当サンドラ・ヘルフェンシュタイン氏によると、農場経営者は今後、干ばつや洪水などの異常気象がますます増えることを常に念頭に置いていなければならない。それにより作物は被害を受け、収穫の減少をもたらすということだ。

航空写真で捉えた畑

2018年8月、ベルン州ツォリコフェンの不毛な土地

(THOMAS HODEL / KEYSTONE)

しかしながら地球温暖化は、作物によっては良い結果をもたらすこともある。例えば、ワイン用のブドウ栽培だ。「平均気温の上昇と栽培期間の延長により、かつて南国産だった作物、あるいはティチーノ州やヴァレー州が栽培適地の限界だった作物や品種の栽培が(スイスのほかの地域でも)可能になる。将来は、例えば北アルプスでコメが作られているかもしれない」というのが、ヘルフェンシュタイン氏の見解だ。

エネルギーの課題

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スイスは電気の6割を水力で発電している。スイス連邦科学基金(FNS)の最近の研究他のサイトへによれば、氷河の溶解が水力発電に与える影響はごくわずかだということだ。それに対し、干ばつの長期化がもたらす影響は大きい。今年の夏、ライン川の滝のシャフハウゼン水力発電所の発電量は5割も減少した。

気候変動の影響は確かに水力発電に影響はするが、それほど深刻なものではないというのが、スイスエネルギー基金・電力と再生可能エネルギー部のフェリックス・二プコフ部長の意見だ。「溶けた氷河によって新しい湖が生まれ、新たな水力が利用できるようになることも考えられる」

湖と氷河

ベルナーオーバーラント地方のトリフト氷河が溶けてできた湖

(Keystone)

2060年には冬も温暖になり、暖房の需要も少なくなるだろう。それで節電できるかと思えばそうではなく、夏季の冷房使用量が増える。スイスにとって最大の挑戦は、段階的な脱原発にある。現在の電力の約3割が原子力発電によるものだからだ。

原発に代わるものとして、スイスは再生可能エネルギーを強化他のサイトへし、節電を実現し、エネルギーの効率を上げようとしている。「スイスは太陽光発電を推し進めるべきだ。発電技術としては今のところ最も安いコストで実現できる。太陽光の潜在力は、現在稼働している原発の倍以上の電量を供給できるはず」。二プコフ氏はそう主張する。

都会の中の暑い島

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アスファルトで固められた地表、交通渋滞や工場、建物が生み出す熱。都心の気温は郊外と比べると高くなっている。チューリヒの中心では近郊より4度以上高い。夏がこれ以上暑くなると、都心部はまるで陸地における暑い島ということになる。

こうならないために、行政が都心部にもっと緑やオープンスペースを増やすことが求められる。建物の高さや密度を制限するなどして色の選択や建物の熱物理学的性質を考慮し、空気の循環を促進する。気候保全の試験的プロジェクトの一つが、ヴァレー州の州都シオンで行われている。シオンはスイス全土の中で最大の気温上昇を記録した都市なのだ。

熱中症による死者の増加

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連邦内務省保健局(BAG)によると、スイスにおける深刻な脅威の一つは熱波だという。最も危険なのは高齢者と病人で、2003年夏、30度を超える猛暑が続いたスイスでは1千人以上、そしてヨーロッパ全体では約7万人の死者が出た。

異常な高気温は、熱帯地方特有の伝染病をスイスにもたらす。デング熱やチクングニヤ熱などの媒介生物である、アジアンタイガーモスキートという蚊の存在がスイスでは恐れられている。猛烈な暑さは更に脳膜炎やライム病を引き起こすマダニを繁殖させる。下の地図は、ライム病のリスクが高い地域を示したものである。

Karte: von Borreliose bedrohte Gebiete in der Schweiz

Karte: von Borreliose bedrohte Gebiete in der Schweiz

スイスは生まれ変われるか

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予想される2060年のスイスは、なんとも悲観的なものである。とはいえ、温室効果ガス放出が続き地球全体で気温上昇が続いたとしても、この流れを変え最悪の事態を避ける可能性はまだ残されている。そう語るのは国連の気象学者たちだ。

EHTZの気象学者レート・クヌッティ教授、ならびに国連IPCCの評価報告書の執筆者代表によれば、早急に対策を講じることで現状を打破することは可能だという。「一貫した環境保全を推し進めれば、スイスにおける気候変動の影響は今世紀中ごろまでに半減するだろう」


(伊語からの翻訳&編集・平川郁世)

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