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スイス経済が暗い舞台裏を明かす

建設業界は不法労働がはびこりやすい部門の1つ Keystone

およそ50万人が働き、年間の取引高は約400億フラン ( 約3974億円 ) 。これはスイスの闇経済の数字だ。

最近の調査によると、スイスの闇経済は法律強化の影響で縮小しているが「これをさらに進めるには政策を転換するしかない」と著名専門家は言う。

 近隣諸国やほかの工業国家と比較すると、スイスの闇労働市場はまだ比較的規模が小さい。連邦経済省経済管轄局 ( seco ) によると、この件に関する国内データには不足があるため全貌を捉えるのは難しいという。

統計から

 オーストリア、リンツ市 ( Linz ) にあるヨハネス・ケプラー大学のフリードリヒ・シュナイダー経済学教授は、この問題を世界的な規模で研究している。 

 30年以上にわたって不法労働が恒常的に増えてきた時代も終わりを告げ、2004年以降はヨーロッパ各国で減少の傾向にある、と彼は言う。シュナイダー氏が引き出したスイスの数字は、まさにこの仮説を裏づけている。ただし、この数字に麻薬の不正取引などは含まれていない。

 1975年、スイスにおける不法労働は国内総生産 ( GDP ) の3.2%を占めていたに過ぎないが、2003年にはそれが9.5%まで上昇した。しかし、それも2005年には9%に、そして2006年には8.5%まで下がった。今年は8.2%前後だろうとシュナイダー氏は予測する。「ここ数年続いているスイスの下降現象は、本質的には新しい規制や法律を導入した結果だといえます。これらの措置のおかげで、地下経済撲滅に取り組みやすくなったのです」

法律の強化

 多額の罰金はすでに導入済み、2008年にはよりいっそう厳しくなった法律が施行される。罰金の増額や禁固刑の延長に始まり、農家に対する政府補助金カット、建設業者に対する公開入札排除などの刑罰が取り入れられる。 

 シュナイダー氏によると、スイスで当日現金払いの労働に従事している人は約50万人おり、全体の約15%を占めている。一般の認識とは違って、ベビーシッターや庭仕事、掃除など家庭内で行われている仕事は全体の7分の1にしかならない。不法就労の半数以上を占めるのは建設業と手工業の各部門だ。 

 「ケータリングや農業も忘れてはなりません。とくに農業は、建設業に比べるとほとんどコントロールされていない部門です」と付け加えるのは、スイス労働組合連盟のドリス・ビアンキ氏だ。 
 
 それでもスイスでは、ほかのヨーロッパ諸国と比べると不法労働がまだまだ少ない。不法労働が特に目立つのは地中海沿岸。2007年には、ギリシャがGDPの25.1%でトップに立ち、それにイタリア ( 22.3% ) とスペイン ( 19.3% ) が続くとシュナイダー氏は予想する。

北欧諸国でも

 社会主義の北欧諸国ですら、スイスにはかなわない。ノルウェーやスウェーデン、フィンランド、そしてデンマークでは、不法労働がGDPのおよそ15%を占めている。 

 シュナイダー氏によると、一般的に税負担が大きい国ほど闇市場も大きくなるといわれており、労働市場の過度の規制や劣悪な公益事業もそれに加担しているという。 

 世界レベルで見ると、スイスよりも低いのは7.2%のアメリカのみ。一方、その反対側に名を連ねるのはボリビア、グルジア、ジンバブエなどで、これらの国の地下経済はGDPの3分の2に達するとみられている。 

 スイスの連邦政府は、不法労働の取引高が増加していることに不安を大きくしている。闇労働市場が稼ぐ400億フラン ( 約3兆9710億円 ) という金額は、観光収益の約2倍に相当するのだ。 

 このような現象に対処する最良の方法は、闇経済を正規化させるための処置を実行に移すことだとシュナイダー氏は考える。「懲罰政策を取り入れる代わりに、税金や社会保障の制度を改革して、正規の経済に移行できるように力添えをしてやる必要があると思います」

swissinfo、ルイージ・ジョリオ 小山千早 ( こやま ちはや ) 意訳

2008年1月1日、不法労働に関する新しい法律がスイスで実施される。この法律は2005年に国会で承認された。

新法では、不法労働者の雇用が発覚した場合に雇用主に対して求められる処罰が強化されている。特に関連の深い建設業と農業の2部門では、雇用主を公開入札から排除したり農業補助金をカットしたりする措置が取られる。

罰金は最高100万フラン ( 約9900万円 ) 、禁固刑は最高5年まで。

新法はまた、庭仕事や清掃などに従事する低賃金の日雇い労働者を社会保険に加入しやすくする。

フリードリヒ・シュナイダー氏の計算によると、2007年のスイスの不法労働による取引高は国内総生産 ( GDP ) の8.2%を占める。他国との比較は下記の通り。
ギリシャ:25.1%
イタリア:22.3%
ドイツ:14.6%
フランス:11.8%
イギリス:10.6%
オーストリア:9.4%
アメリカ:7.2%

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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